
【ベイルート=ナジア・フーサリ】
レバノン中央銀行のリアド・サラメ総裁は、金融危機の責任は自分にあるとの批判を退け、預金者らに対して預金に関する過度な心配は必要ないと述べた。
「中央銀行は政府に資金提供したが、その資金を使用したのは中央銀行ではない。私たちは誰がこの資金を使ったかを知る必要があり、司法・行政機関には使途を明らかにする義務がある」と言及。
「約束通りの期間でレバノンを改革へ導くため、我々は金融工学を実施しなければならなかった。しかし、これらの約束は政治的な理由で翻訳されていない」と付け加えた。
彼はレバノンの財政破綻を背景に、内閣への罷免提案という政治運動の標的となっている。
初めてのテレビ演説では、「レバノン銀行は政府に対しコスト負担は求めなかったが、利益を上げて政府へ送金を行っていた。当行は政府の債務削減のためレバノン財政支援国際会議にも参加し、差益が得られる時期に金の売却も実行した」と語った。
「通貨・信用法では、政府が要求する場合、中央銀行が資金を提供するとされている。私たちは法律を尊重している」と法律に基づいて、自身が行った政府への資金提供を擁護した。
「レバノン銀行の内部に隠された情報や、総裁だけが享受できるような一方的な支出決定情報は存在しない。言うなれば、これは世論を誤った方向に導き、反政府運動を強化させようとする中傷でしかない」と強調する。
「中央銀行が国に資金を提供しなかったら、給料や電力をどう賄っていただろうか。政府に資金提供したのは私たちだけではなく、国際機関やパリ会議の金融部門も同じく行っていた」と付け加えた。
彼は「それらの預金は適切に配分され、使用されている」とレバノン国民を安心させ、「小麦、医薬品、燃料の輸入に対する融資は継続され、レバノン国民の利益となる価格安定につながる」と主張した。
「私たちは銀行を倒産させなかったし、これからもそうさせないつもりだ。これは預金者のためなのである。我々は預金者に対し増資を要請し、全ての銀行はそれを引き受けて迅速な実施に努めている」
「預金額を減らす必要はない」と付け加え、「それに言及することは、預金者を不安にさせ、金融部門の再起動を遅らせることになる」と説明した。
中央銀行は依然として、小麦、医薬品、燃料の輸入に対し固定レートでドルを供給している。サラメ総裁は、これが購買力を高めたと主張する。
また同氏によると、同行には210億ドルの流動資産が残っている。
サラメ総裁の演説は、3カ月足らず前に発足したばかりの新内閣が、成立以来公約としていた最終改革案を承認する直前に行われたもので、親シリア派の国会議長ナビハ・ベリが先導するシリアからの前代未聞の攻撃を考慮してのことだった。
ダマスカス公式ラジオ局のニュースマネージャーであるアハメド・リファート・ユスフ氏は、ソーシャルメディアに次のように記した。「ベリは腐敗同盟の支配者の1人だ。彼はレバノンを破壊しシリアに悪影響を及ぼした政治的ハリリズムと、その腐敗症候群の協力者である」
「ベリがレジスタンス同盟の一員だと考える人は間違っている。ヒズボラのハサン・ナスララ事務総長が彼に投資し、政治的代表としようとしているにもかかわらず、彼はお荷物でしかない」と付け加えた。
経済学者カマル・ハムダン氏は、「平和的な政権移譲がなければ、国家は崩壊する運命にある」と述べた。
彼はアラブ通信に対し、 「レバノンの危機は、現在の体制に責任がある。政権交代を行わなければ、公正な経済的・政治的損失の分配、改革の見極めといったブラックホール級に大きな合意形成に基づいた本気の解決策が求められているこの時に、傷にバンドエイドを貼るようなその場しのぎの対策しか打てないだろう」と語る。
「そうした宿題を済ませれば、国際通貨基金 (IMF) に行って対等な交渉をすることもできる。とにかく政権が変わらない限り、状況は悲観的だと私は思う。国は生まれ変わらなければならない」と話した。
経済学者イサム・ユルディ氏は、アラブニュースに対し、「中央銀行総裁は、破産した政府へ資金を供給すべきではなかった。緊急事態や災害時を除いて、それを強制する法律はない。政府は30年間ずっと破産しており、彼はまだ資金を提供し続けている。このことが、国、銀行、中央銀行という3つの破産につながった」と述べた。
ユルディ氏によると、解決策は銀行が海外に密輸した資金を回収することだという。
彼は「今起きているのはレバノンの大統領職と中央銀行の統治をめぐる争いだと思うが、誰も米国の制裁を回避できるとは思っていない」、「腐敗の責任を問うためには、早期の議会選挙と公正な司法が必要だ」と付け加えた。
これに対し、アラブ連盟のハサム・ザキ事務次長は”レバノン情勢の急速な進展およびレジスタンスとレバノン軍、特にトリポリでの危険な戦闘激化”に対する連盟の懸念を表明した。
ザキ事務次長は、国が耐えがたい結果へと急速に落ち込むことを危惧した。「私たちの希望は主に軍隊と治安部隊の英知にある。国がこれまでにない絶望的な状態となるのを防ぐため、彼らは普段通りのプロ意識と責任感を持って行動してくれると信じている」、「レバノン政府には、経済改革のための現実的かつ迅速な措置を早急に講じ、国民の正当な要求に応えることが求められる」と語った。
米国のデイビッド・シェンカー国務次官補はレバノンに対し、国際的支援を取り付けるために改革へのコミットメントを求め、アル・アラビヤテレビに「レバノンの危機の原因は、不適切な財政判断の蓄積、怠慢と根深い汚職と縁故主義にあった」と語った。
米国のドロシー・シア駐レバノン大使は、自身らの要求を正当化し暴力的な抗議者らに対し不満の意を表した。彼女はIMFとの協力の必要性を繰り返し述べている。
フランスのルメール経済・財務相からガジ・ワズニ財相への電話では、「レバノン支援はフランスの財政・経済計画の一部である」と述べ、「改革措置実践の必要性」を強調した。
ル・ドリアン仏外相から、ハッサン・ディアブ首相へ電話があり、政府の改革計画を支持するとともに、IMFを通じてレバノンを支援する意向を表明した。
ル・ドリアン仏外相によると、フランスはコロナウイルス対策が終了し次第、国際レバノン支援グループ (ISG) の会合を開く意向。
英国のクリス・ランプリング駐レバノン大使は、ミシェル・アウン大統領との会談後、 「現在の状況では、レバノンの最高の利益を達成するためには、すべての政治勢力の協力が必要だ」 と述べた。