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世界銀行の資金援助を受けるレバノンの大型ダムをめぐり、高まる非難

ビスリ・ダム・プロジェクトは同地域の農地や史跡を破壊すると訴え、世界銀行のベイルート支店前に集結した抗議者たち。(AFP)
ビスリ・ダム・プロジェクトは同地域の農地や史跡を破壊すると訴え、世界銀行のベイルート支店前に集結した抗議者たち。(AFP)
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03 Sep 2020 08:09:50 GMT9
03 Sep 2020 08:09:50 GMT9
  • この6億1700万ドル規模のプロジェクトは、同国の腐敗した利益誘導型の体制を反映する「環境犯罪」だとする批判の声が上がっている

ベイルート:緑の肥沃な地盤に広がるレバノンのビスリ渓谷(Bisri Valley)は、青銅器時代から文明が育まれてきた場所だ。議論の的となっている、世界銀行が資金援助する大型ダムにより、松や柑橘類の木々や古代遺跡を抱える雄大な土地が水没の危機にさらされている。

環境犯罪であり、レバノンの利益誘導型の体制と不当な統治を反映するプロジェクトだとし、活動家や地元の人々が長年抗議の声をあげてきた。

先月ベイルートを震撼させた壊滅的な爆発事故は、190人を超える死者と数千人の負傷者を出し、レバノンに根ざす政治的腐敗を浮き彫りにした。また、汚職と職務怠慢が今回の大惨事を引き起こしたとし、国民の非難の矛先が向けられている政治家たちによって提案されてきた、大規模なインフラ計画に対する調査を求める声も再燃している。

2015年にレバノン政府と議会によって承認されたビスリ・ダム・プロジェクトは、世界銀行から4億7400万ドルの融資を受けており、費用総額は6億1700万ドルにのぼる。世界銀行のホームページによると、ダムは1億2500万立方メートルの水を貯え、ベイルートとレバノン山脈に居住する160万人のレバノン人が抱える慢性的な水不足を解決するとされている。

しかし、首都ベイルートの約35キロ南における同プロジェクトの反対派によると、ダムは技術的問題や腐敗にまつわる問題に満ちているという。レバノンの政治家が、現金を不正に手にしたり他の方法で利益を得たりできるよう支持者を有利な立場に置くため、プロジェクトを利用することは周知である。

「私たちがこれまで闘ってきた、すべてのことを象徴しています。レバノンを終焉に向かわせた、利益誘導型の体制を明らかにするものです」と、Save the Bisri Valley Campaignの共同設立者であるRoland Nassour氏は言う。

同キャンペーンの主催者らは最近世界銀行に宛てた手紙の中で、失敗に終わったレバノンのダム・プロジェクトと爆発事故を比較して、どちらも「公共部門における完全性の大幅な欠如」であるとし、プロジェクト停止を求める呼びかけを繰り返した。

「これは、政治家や彼らに雇われる企業が利益を得たり金を設けたりできる、残り少ないプロジェクトの1つです」とElias Hankash氏は言う。同氏は、爆発事故のあと議員を辞職し、またプロジェクトには当初から反対していた「今の時代、レバノンのような破綻国家が数百万ドル規模の融資を受けてダムを建設するなんてありえますか」と同氏は言う。

レバノンは、前代未聞の経済危機に陥っており、通貨暴落やインフレ上昇が発生し、何十万人もの人が貧困に苦しんでいる。今年の春先には、政府の外債償還が初めて滞った。

また活動家らは、ビスリは活動中の地震断層線上にあるという懸念も示している。地質学者のMohammed Khawlie氏は、ダムの貯水量は予想を下回るという。同氏は「非常に多孔質な岩石のため、吸水性があります。この土地はカルスト地帯です」と述べ、この地帯は溶解しやすい岩石や石灰岩で構成されていると説明した。

「その問題に対応するためにダム構造にセメントを注入するのであれば、何億ドルもの追加費用が発生します」

Khawlie氏によると、レバノンで最近建設された他のダムも、同様の理由で失敗しているという。

環境専門家のPaul Abi Rashed氏によると、プロジェクトは、レバノンでもっとも美しい手つかずの緑地を600万平方メートル以上破壊することになるという。「破壊されるのは、広大な農地、松林、そしてレバノンで2番目の規模を誇る渡り鳥のねぐらです」と同氏はつけ加えた。

また世界銀行は保護または移動するとしているものの、歴史的なマルムーサ(Mar Moussa)修道院や、ローマや古代ギリシャの遺跡も危機にさらされている。

世界銀行にインタビューを申し込んだが了解は得られなかった。世界銀行のホームページには、「政府機関、市民社会、民間部門、また地域の人々と緊密に連携し、環境および社会への影響に対する審査を実施した上で、環境省の承認を得ました」と記載されている。

Abi Rashed氏によると、審査は2016年から更新されていないという。

また審査を実施したコンサルティング会社のDar Al Handasahは、プロジェクトの利害関係者であり、プロジェクトのトンネルおよびパイプライン建設の監督機関に指定されている。

「明らかに利害の衝突です」とNassour氏は言う。「世界銀行は、審査は、いかなる形であれプロジェクトに関連する機関によって実施されるべきではないとしています」

これまで世界銀行は、発展途上国の大型ダム・プロジェクトに多額の出資を行ってきたが、常に論争を呼んでいる。インドやコンゴ民主共和国では異論を呼んだプロジェクトから手を引いているほか、ウガンダなどでもダム・プロジェクトに対し抗議の声が上がっている。

世界銀行の現地責任者を務めるSaroj Kumar Jha氏と、彼のもとで働く従業員との間でやり取りされた4月のメールによると、世界銀行は最近ビスリ・ダム・プロジェクトについて意見を変えており、融資の残りを「貧困者ともっとも弱い立場にある人々の保護」にあてることを提案している。

しかし、Kumar氏はメールで「大統領はプロジェクトを進めるよう求めている」と書いている。レバノンのミシェル・アウン大統領の所属党は、エネルギー省を10年以上率いている。

これまでに行われたダムの限定的な予備工事は、2019年夏以降、市民社会からの圧力を受け中止されている。

最近、世界銀行はレバノン政府に対し、「ダム建設開始の前提条件である課題」の達成期限を9月4日とすると伝えている。しかし先月の爆発事故の影響で、期限には恐らく間に合わないだろう。

世界銀行はすでにレバノンに対し約3億2000万ドル支払っており、渓谷の私有地の土地収用にあてられる1億5500万ドルも含まれている。

「土地の利用方法としては、他にも様々な選択肢があります。政府は農業に出資したり、あるいは自然保護区に転換してエコツーリズムを推進したりすることもできます」とHankach氏は提案する。

ベイルートの水不足は、主に不適切な管理が原因だとNassour氏は言う。Nassour氏のグループは、融資の一部を別の水プロジェクトの支援に割り当て直し、ベイルートの爆発事故の影響を受けた人々の生活や暮らしの再建につなげるよう呼びかけている。

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