


ピーター・ハリソン、ドバイ
過去20〜30年で食品小売業者は、風味を、一般の食品にはない贅沢として扱うようになっている。つまりある価格で食品は手に入るが、40歳以上の人が子供の頃に食べて慣れ親しんだ味を求めるなら、その分高価なものを買わないといけないという形である。
しかしアラブ首長国連邦に拠点を置き何百万ドルもの規模を誇るスタートアップはこの現状を変えようとしており、すでにサウジアラビア市場にも2020年の下半期に進出する計画を立てている。
「弊社は、食品とのノスタルジックなつながりを取り戻そうとしています。地域で作られ、地域の経済を支え、風味豊かで、健康的で、安全な食品を提供したいと考えています」とPure Harvestのスカイ・カーツCEOは『Arab News』に対して語る。
「弊社のスローガンは、『食品本来の味がする』です」
また食品は地元で生産されているため、生産は地元の経済にも大きく貢献することになる。
湾岸地域は乾燥した大地が広がっていることで悪名高く、アラブ首長国連邦だけでも最大90%の食品を輸入に頼っている。サウジアラビアも同様に輸入に依存しているという問題を抱えている。また、アラブ首長国連邦産の食品は風味に欠けるとカーツ氏は言う。
しかし同氏は、適切な技術を用いた場合、この大地は実は「世界でも農業を営むのに最適な場所の1つ」になると考えているとのことだ。
「ここでは太陽が燦々と照り、労働力も豊富で、地価も安く、法人税も0%です」
Pure Harvestは、年中フルーツや野菜を育てるのに最適な条件を作れる温度と湿度を管理できる温室を用いることで、毎日約2tのトマトを生産しており、スーパーで300gを約3.40ドルで販売している。
事業拡大計画
同社の顧客層は、ホテル、レストラン、ケータリング業者、及びCarrefour、Spinneys、それにWaitroseなどの数多くのスーパーなどだ。
Pure Harvestは2016年の年末に設立され、2017年には初期段階の資金調達額が580万ドルに達した。資金調達はShorooq PartnersとMohammed bin Rashid Innovation Fundが主導し、この額は中東及び北アフリカ地域の「過去最大のシードファイナンシング」と評価されている。
同社の栽培施設は2018年10月からアブダビ近くの砂漠で稼働している。
「弊社で最初に整備した農場は、商用規模で概念実証をするようなものでした。弊社では12ヘクタール以上の農場、つまり現在よりずっと大きな規模の農場を整備する予定です」とカーツ氏は付け加えた。
同社は様々なタイプや品種のトマトの栽培を試した。それはカーツ氏によると、潜在的な出資者に対して同社のポテンシャルを提示するための試験運転だったとのことだ。
またカーツ氏によると、Pure Harvestは従来型の農場ではなく、食品製造業者であり、すでにレタスとイチゴを製品ラインアップに加えることを検討しているとのことだ。
「これらの作物のコストを下げて低価格で販売できるようにし、さらに販売数量も増やすことができれば、市場を大きく成長させることができると考えています」とカーツ氏は説明する。また同氏は「輸入業者よりもコストを低く現地栽培でそれを実現できると考えています」と付け加えた。
同氏によると、同社の長期的な目標は、「食品の生産にかかるコストをなくし、その分の利潤を消費者に還元すること」とのことだ。
高級品としての価格設定をするのではなく、湾岸地域全体でマーケットシェアを拡大し、コストを減らして消費量を増やす計画だと、カーツ氏は説明する。
この事業計画は、地域の経済にもプラスになるものであるように思われる。食品が売れるごとに、その代金は地域で使われることになるからだ。これに関してカーツ氏は「地域への恵みが倍々に増える大きな要因」になると語る。
「消費による恩恵」
さらに、Pure Harvestは海外の投資家からもかなりの量の資金を調達している。
「消費による恩恵がもたらされます… 弊社は海外からの直接投資を呼び込んでおり、現在弊社の資本の半分以上は海外からのものです。さらに今後の事業拡大では、その割合はさらに高くなるでしょう」と同氏は説明する。
同氏によると、さらなる資金が集まることで、政府からの土地の賃借料の確保の足しになり、様々なリソースの確保のための資金にもなり、また雇用の機会の創出にもつながるとのことだ。
カーツ氏によると、同社は石油精製所から排出される二酸化炭素を購入して作物の栽培に利用しているため、カーボンネガティブを達成しているとのことだ。
「弊社は二酸化炭素を消費しています。実際弊社では、食品に利用できる二酸化炭素を購入し、温室で作物に与えています… 食品を輸入すればジェット燃料を燃やす航空機で食品が運ばれますが、弊社の場合そうした航空機も利用していません。
「弊社では食品1kgあたり、32リットル未満の水しか使っていません。アラブ首長国連邦の典型的な農場では、260リットル以上使います」
Pure Farmsは今後、作物の栽培以外の分野にも進出する構えだ。カーツ氏によると、太陽光発電事業にも参入する可能性を検討しているとのことだ。
太陽エネルギー技術が進歩すれば、植物用に光を透過させつつも、太陽エネルギーの一部を回収できるという、2つの機能を持つガラスが登場すると考えられている。そうなれば、同社の稼働に使う電力を賄うだけではなく、国の送電線に電気を売ることもできるようになるだろう。
究極の目的は、湾岸地域全体に進出し、地産地消で食品を生産することであるが、同時に余剰分は輸出する可能性も考えていると、カーツ氏は付け加えた。