東京: 過去10年間に300万人の女性が日本社会に労働力として加わった。政府の政策に影響を与えた「ウーマノミクス」というキャッチフレーズを作った経営トップ、キャシー・松井氏が、少なくともその一翼を担ったと言えるだろう。
しかし、多くの女性が不安定なパートタイム労働者であり、新型コロナウイルス感染症によって大きな打撃を受けた部門に従事していることも多い。世界第3位の経済大国である日本は、活用されていない人材を発掘するため、さらなる努力をしなければならないと彼女は言う。
そのためには、管理職の性差別的な姿勢を改め、日本の長時間労働の文化に異議を唱えると同時に、「より多様な創業者」を擁するスタートアップの設立を奨励する必要があるという。
米国投資銀行ゴールドマン・サックス日本法人元副会長である松井氏はAFPに対し「日本では女性の起業家比率が非常に低い」と指摘した。
「ただ、自分の運命を切り開きたいのであれば、起業家になるのは最善策の一つなのです」
57歳の松井氏は、男性中心の日本のビジネス界のトップにおける数少ない女性の一人であり、倫理観のある新興企業への投資を行う、昨年設立された会社の共同ディレクターを務めている。
1999年、ゴールドマン・サックスに在籍していた日系アメリカ人の彼女は、日本における女性の労働参加率を高めることがもたらす経済効果に関する研究を発表し始め、これを「ウーマノミクス」と名づけた。
驚いたことに、このアイデアは2012年に安倍晋三元首相によって、低迷する日本経済再生のための代名詞的プランの一部として採用された。
OECDの統計によると、それ以来日本の女性就業者の割合は60%から70%以上に上昇した。これは約300万人に相当する。
しかし、現在でも日本企業の管理職に占める女性の割合はわずか15%だ。米国では約40%である。
松井氏は、「非常に強固な組織の考え方や行動を変えようとすることは…不可能ではありませんが、長い時間がかかります」と述べ、一方で新興企業はより柔軟だと話した。
近年の進捗状況は非常に悪く、2020年には、日本政府は管理職の女性比率30%という目標達成を丸10年先送りせざるを得なくなった。
また他の国々と同様、コロナ禍も後押しとはならなかった。
今年『ランセット』誌で発表された、193カ国のデータを分析したワシントン大学の研究によると、世界的に見て、パンデミック発生から18カ月間における失業の報告は男性よりも女性の方が多かった。
日本では、多くの女性が子どもや高齢の親族の世話をしながらパートタイムで働いており、新型コロナの影響を受けたサービス業で働くことが多いと松井氏は言う。
松井氏は、女性が昇進しやすいフルタイムの仕事に就けるようにすることは、政府だけでなく、管理職の責任でもあると考えている。
評価は「勤務時間ではなく成果とパフォーマンスに重点を置く」べきだ。また、管理職は偏見を乗り越えるための研修を受ける必要がある。
上司が育児休暇を取られる「リスク」を嫌がり、「結婚したての女性が昇進を見送られるケースによく出くわす」と彼女は話す。
事態は急を要する。高齢化が進み、労働人口が減少する日本では、「目の前にいる人材を活用するのが一番早い」のだという。
松井氏は、花卉栽培を営む日系移民の娘としてカリフォルニアで育ち、この事業から「働くことの大切さ」を学んだ。
ハーバード大学では社会学を専攻した。卒業後、奨学金を得て日本に留学した。初めて両親の祖国を訪れたのだ。そしてそのまま金融の世界でキャリアを積んだ。
彼女の「ウーマノミクス」という考えは、「平等の恩恵」という新たな視点を提供し、大臣たちの心をつかんだと考えている。
大企業がジェンダーバランスに関するデータを開示するようになっただけでなく、松井氏は、日本においてこれがマイナーな問題から「日常の話題」へと変化していることを実感している。
しかし彼女は、女性労働者が直面している問題について話すだけでなく、データを分析し、解決策を見出すという初心にこだわり続けている。
「測定しなければ対処することはできません」と彼女は言う。
現在、環境・社会・ガバナンス(ESG)を重視する企業に投資するベンチャーキャピタル、MPower Partnersの共同ディレクターとして、松井氏は日本の比較的小さなスタートアップ市場を発展させたいと考えている。
「この市場が小さい理由のひとつは、十分な多様性がないことと、(その会社に)グローバルな視点がないことです。私たちMPowerは、この2点を変える手助けを本気でしたいと考えています」
しかし投資を受けようとする企業は、いわゆる「グリーンウォッシング」のような上辺の戦略に頼るべきではない。「私たちは、ただチェック項目を満たそうとする企業にはあまり興味がありません」
AFP