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コロナウイルスワクチンの到来とその意味

ニューヨークにあるファイザー本部を歩く歩行者。(AP Photo)
ニューヨークにあるファイザー本部を歩く歩行者。(AP Photo)
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22 Nov 2020 12:11:40 GMT9
22 Nov 2020 12:11:40 GMT9

偉大なSF作家で未来派の思想の持ち主だったアーサー・C・クラークはかつてこう書いた。「十分に発達し切ったテクノロジーはすべて魔法と区別がつかない」。まさに、この数日は魔法がかかったようだった。コロナウイルス(COVID-19)ワクチンの可能性が一つといわず、二つも浮上してきたのだ。多くの人が恐れるこの疫病がようやく収束に向かうかもしれない希望が世界で初めて見えてきた数日だった。アメリカのコロナウイルスとの戦いの顔となっているアンソニー・ファウチ博士は勝利を確信した様子で「このワクチンこそ、長い戦いの先に見えてきた希望の光だ」と、発言した。

最初の嬉しい報せは、ファイザーとBioNTechのワクチンがフェーズ3治験データでは90%の予防効果があるという発表だった。私たちが願っていたよりもはるかに高確率だ。このワクチンはメッセンジャーRNA(mRNA)をベースにした新技術を使用している。mRNAはバイオテックの革新的技術で、これまでは多くの希望(と多くの投資家の関心)を集めてきたものの実用的な成果はほとんどなかった。

簡単にいえば、コロナウイルスは感染したDNA―すべての生命の基盤だ―から連続した悪辣な信号が人体の個々の細胞に送られることで発症する。これに対抗するため、ファイザーのワクチンはmRNAを送り込んでこれらの悪影響のある信号を読み取り、代わりに良い影響のある信号を細胞に送り直す。それによりウイルスの表面にあるのと同じタンパク質を増産し、体の免疫系を刺激して病気を撃退する。この新しい技術、RNA医薬は非侵襲的で、単に体の受け取るメッセージを変えるだけでDNAに影響を与えない。

これはまさに大きなブレイクスルーといえるが、ファイザーのワクチンには主に流通に関していくつかの問題がある。-70℃という極寒の状態で配送、保管されなくてはならず、室温に戻してからの使用期限は5日以内だ。ニュースとしては本当に素晴らしいが、配布はかなり困難になるだろうことを考えると、理想的からは程遠い状況だ。

だが、その数日後、より嬉しい報せが届いた。ライバル会社モデルナが開発した同じ革新的なmRNA技術を使ったワクチンがフェーズ3治験データで、より高い95%の予防効果があったと発表したのだ。複数の会社によるワクチンを併用すればこの感染症をなくすことができるかもしれないと世界に希望がわいた。異なる技術を使用したオックスフォード大学とアストラゼネカが開発中のワクチンのフェーズ3治験データも、数週間以内に発表される予定だ。

モデルナのワクチンはウイルスに感染しやすいとされる65歳以上の人にも予防効果があり、発症を防ぐことが証明されている。より素晴らしいのは、ファイザーのワクチンよりも配送や保管が簡単なことだ。普通の冷蔵庫で設定可能な2~8℃で30日間保管でき、-20℃であれば数ヶ月間の保管が可能だ。モデルナは2021年内に10億回分(1人2回摂取が必要)は確実に生産できるとしているが、、モデルナの拠点であるアメリカではすでに7億7000万回分のワクチンが配布されている。モデルナのワクチンが大規模でヨーロッパに輸入されるのは来年4月以降になる見込みだ。

上記はすべて、ここしばらくで最高のニュースだといえるだろう。恐ろしい世界的パンデミックの終わりの始まりが真に見えてきたのだ。だが喜びつつも、重要な注意事項も記しておかねばならない。全世界にワクチンが配布されるということは、COVID-19が実際に収束するまでにはまだかなりのタイムラグがあるということだ。つまり、それまでにより多くの人命と経済的な喪失が予想される。

ウイルスが完全に制御され、世界がまた呼吸を始めて元に戻るには来年の夏(8月か9月)くらいまでかかるだろうと推定されている。その時ですら、人類はまだ完全に危機を脱してはいないかもしれない。ワクチンによる免疫がいつまで続くかは不明なのだから。

全世界にワクチンが配布されるということは、COVID-19が実際に収束するまでにはまだかなりのタイムラグがあるということだ。

ジョン・C・フルスマン博士

この恐ろしい疫病は少なくとも3つの主要な政治的なリスクを引き起こした。第一に、非常に大きなマクロ経済的問題が生じるだろう。最もリスクの高い高齢者人口だけでなく社会全体におけるCOVID-19による死亡確率への過剰反応は、何度も長期的に実施されるロックダウンによる世界的恐慌の可能性を見逃すことにつながっている。

次に、皮肉なことに、中国―そもそもウイルスが発生した国で、初期の感染拡大隠ぺいという手際の悪さが多大な悲しみを引き起こした―は、この世界的混沌から地政学的に最も恩恵を受けた国であるということだ。破滅的だったこの一年で経済的に大きく成長した唯一の国なのだ。米中の冷戦は今や現実となり、パンデミックは両国間の対抗心を高める大きな要因となっている。

だが、西洋諸国にとっては悪いニュースも多くあれ、ワクチンのニュースは根本的に良い報せと考えられる。ファイザー(アメリカ)/BioNTech(ドイツ)、モデルナ(アメリカ)、そしてオックスフォード大学/アストラゼネカ(イギリス)のワクチンがすべて西洋で開発されたことは偶然ではない。自由な社会に住む人々は技術的革新や創造性といった面で他に比を見ない記録を残し、回復し、再生、復活する力を何度も世界に証明してきた。中国はコロナウイルスが教えてくれたこの隠された、だが重要なレッスンについて熟考するといいだろう。

  • ジョン・C・フルスマン博士は良く知られる世界的なリスクコンサルティング会社ジョン・C・フルスマンエンタープライズの会長、パートナー。ロンドンの地方紙、City AMの上級コラムニストでもある。連絡はchartwellspeakers.comまで。
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