![このサービスは、視聴者に日本のテレビ番組をリアルタイムで視聴する貴重な機会を提供した。 特に大相撲の生中継は人気があった。](https://www.arabnews.jp/wp-content/uploads/2023/10/Sumo-1.jpg)
ロンドン:欧州に住む日本人に30年以上にわたり親しまれてきた日本語テレビ放送が、10月末でその歴史に幕を下ろす。インターネットがない時代には、欧州に住む日本企業の駐在員や永住者にとって、日本の番組を見ることができる貴重なメディアだっただけに、「寂しくなる」などと放送終了を惜しむ声が相次いでいる。
放送を終えるのは、ロンドンに本社を置くNHKコスモメディアヨーロッパが運営するJSTV。1990年に試験放送を開始し、92年1月から有料放送に移行した。
JSTVの「売り」は、日本の番組をリアルタイムで見られること。当時としては画期的で、特に大相撲中継は好評だった。NHKの関連会社と共に株主となっている民放のドラマやバラエティー、アニメが視聴できることもセールスポイントだった。
88年に夫らと家族で英国に渡った日本語教師の葛西順子さん(64)=熊本市出身=は、放送初日からJSTVを見ている一人。それまでは実家から届くビデオテープが日本の番組に触れる唯一の手段で、JSTVは「子供の日本語習得にも威力を発揮した」と語る。家族旅行の際に「連続ドラマの最終回を見たくて、JSTVが映るホテルにわざわざ泊まったこともある」と懐かしそうに笑った。
だが、インターネットの急速な普及が、環境をがらりと変えた。日本の映像を手軽に見ることが可能になり、JSTVによると、契約数は2000年代半ばのピーク時に比べ、半数以下に激減した。
JSTVは遠く離れた日本の災害状況を確認する手段にもなっていた。16年4月に発生した故郷熊本の地震の際、「熊本城の瓦が音を立てて崩れていく映像を目の当たりにして、ショックで動けなかった」と話す葛西さん。「JSTVがなくなるのは困る」と顔を曇らせた。
今年5月に放送終了が発表されると、JSTVには「残念」「これまでありがとう」といった声が寄せられているという。欧州各国ではJSTVに代わり、NHKの日本語放送サービスを視聴できるよう整備が進められている。
時事通信