シンガポール:モデルナの共同創業者兼会長が、世界は医療システムのレジリエンスに十分な注目を注いでおらず、新たなパンデミックへの備えができていないと発言した。
2010年に米国を本拠とする製薬企業モデルナを共同で立ち上げた生化学者のヌーバー・アフェヤン博士が、シンガポールで12月3日から6日にかけて行われた「Advanced Tomorrow 2023シンガポールサミット」で講演を行った。
Advanced Tomorrow(ATOM)イニシアチブとシンガポール国立大学ヨン・ルー・リン医科大学の共同主催で行われたこのサミットには、地政学的変化と技術的進歩のなかで、医療の未来に注力する世界の政治・ビジネス・学会のリーダーたちが集まった。
2020年の新型コロナウイルス感染症の大流行をはじめとするショックや世界的混乱に対する医療制度の備えに関するディスカッションで、アフェヤン氏はワクチンの素早い展開がレジリエンスに対する「誤った印象」を与えたかもしれないと述べた。モデルナのCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)ワクチンは、米国で2番目に使用が許可された。
「私たちは幸運でした。私が共同で立ち上げたモデルナが開発していたテクノロジーは、偶然にもこのウイルスへの治療介入に適していたからです」とアフェヤン氏は話す。
ファイザー社も同様のテクノロジーの開発を行っていた。同社のCOVID-19ワクチンは、米国食品医薬品局(FDA)によって承認されたワクチン第1号となった。だが、両社が当時開発に取り組んでいたものが新型コロナウイルスの大流行に対して有効だったことは偶然であり、次の医療危機がまったく異なる病原体によって起きた場合は役に立たない。
「今後は別の脅威が現れるでしょう。たとえば抗生物質に耐性を持つ細菌に対しては、このテクノロジーは効果がありません」アフェヤン氏はそう続ける。「我々には、現時点でそうしたものに対する効果的な解決策はありません。ですから、食品システムやその他何らかの形で大規模な細菌の大流行が起きた場合、私たちが素早く何らかの解決策を考案できるかはまさに賭けになります」
準備に関する問題は、世界的な注目と予算が長期的な医療の安全保障ではなく、短期的なソリューションに向けられていることだ。
「レジリエンスが勢いを得るのはいつも失敗が起きた後なので、レジリエンスに対して大きな注目は集まっていないと思います」アフェヤン氏はそう語る。「その失敗が忘れられると、レジリエンスもすぐに問題にされなくなってしまいます」
元アルメニア大統領でATOMの議長を務める理論物理学者のアルメン・サルキシャン博士は今回のシンガポールでの会議の傍ら、現状のアプローチは成功を運のみに頼って不確かな結果に賭けているようなものだと話す。
「私たちは今、大量の問題の岐路に立っています。たとえば問題のひとつは、抗生物質に対する耐性です。100年前の私たちは幸運でした。こちらも偶然ですが、スコットランドの医師で細菌学者だったアレクサンダー・フレミング氏がペニシリンを発見したのです。しかし私たちは、ペニシリンやその関連薬を使いすぎてきました」サルキシャン氏はアラブニュースに対してそう話す。
サルキシャン氏は、医療安全保障への注目度を高め、21世紀の現行の気候危機とそれに関連する食品安全保障や水不足だけでなく、今後起きうる医療危機もこれまでよりさらに大きなものになる可能性が高いことを認識するべきだと指摘する。
「まず、この地球において私たちは、自分たちの健康に対する総体的なアプローチが間違いなく必要です。第2に、健康に関する研究――生物学、生物物理学など――に対する意識・予算・支援を強化し、私たちが今後直面するはずの数多くの潜在的な問題の解決策発見に向けたプロセスを加速させる必要があります」サルキシャン氏はそう話す。
「今こそ、自分たちの内面を見つめ、この地球と共に自分たちを大切にすべき時です。ですから私は、気候ケア、ヘルスケア、気候安全保障と医療安全保障をまとめていくつもりです。国際コミュニティは国連の下で、COP(毎年行われる気候変動会議である締約国会議)という形で集まっています。私たちが共に何ができるか見てみましょう」