体操競技は国際大会ごとに使われる器具のメーカーが異なる。日本国内ではセノー製が主流だが、パリ五輪はフランスのジムノバ製。いずれも国際体操連盟(FIG)の規定を満たしているとはいえ、素材や構造が異なるため、選手は感覚の違いに対応する力が求められる。
両社で顕著な差があるのが、鉄棒と段違い平行棒のバーを固定する構造だ。セノー製は全方向にしなりやすく固定する一方、ジムノバ製は前後の動きが制限される。セノー社で広報を担当する日吉野乃子さんによると、同社製は一般的な日本選手の体格に合うように設計されている。「(体重が軽くても)反動をつけやすく、美しい車輪を描きやすい」と説明する。
鉄棒が得意な男子の杉野正尭(徳洲会)は、ジムノバ製で離れ技を繰り出す際のタイミングに苦労したという。それでも徐々に慣れたようで、「練習したらどんどん(精度が)上がった」と手応えを口にした。
ゆかはジムノバ製の方が弾みやすいとされる。セノー製だった東京五輪で個人総合と鉄棒を制した橋本大輝(セントラルスポーツ)は、フランス入り後の合宿で弾みすぎてミスする場面があった。「着地が勝負を分けるので、抑え方を工夫したい」と警戒する。
かつてはあん馬に似た形の器具で跳馬を演技していた時代もあり、ゆかは2000年代からフロアの下にスプリングが加わった。こうした改良の背景にあるのが技の高難度化。日吉さんは「私たちの目標は器具の進化を通じて、選手のパフォーマンス向上に貢献すること」と話している。
時事通信