エルサレム:ヨルダン川西岸地区北部で26日遅く、多数のイスラエル人入植者が暴力的な騒動を起こし、数十の車や住宅に放火した。パレスチナ人の男によってイスラエル人2人が射殺された後のことだった。
パレスチナの医療関係者によると、1人が死亡し4人が重症を負った。イスラエル人入植者による過去数十年間で最悪の暴力事件とみられる。
当局によると、ハル・ブラハ入植地から来たイスラエル人らが暴れだしたのは、26日にヨルダン川西岸地区を運転中だったイスラエル人の兄弟2人がパレスチナ人の男によって射殺された後のことだった。
イスラエル軍によると、銃撃犯はジャンクションに来て「イスラエル人の車に向かって発砲した」。殺害された2人のうちの1人はユダヤ神学校の学生のためのプログラムで学ぶ兵士だった。
この銃撃事件は、イスラエルとパレスチナの当局者が緊張を緩和するための方法を話し合うためにヨルダンで会談していた時に起こった。今のところ犯行声明は出されていない。
パレスチナ人らが伝えたところによると、この銃撃事件の後、ハル・ブラハ入植地のイスラエル人たちが近くのブリン村のパレスチナ人の家々を襲撃した。
反入植活動の責任者を務めるガッサン・ダグラス氏によると、パレスチナ人の住宅数軒と車15台が放火された。パレスチナメディアは、約30の住宅と車に火が付けられたと伝えた。
ソーシャルメディアに投稿された写真や動画には、ハワラ(同日にイスラエル人2人が銃撃された事件が起こった町)の至る所で大きな火の手が上がって空を照らす様子が写っている。
ある動画の中では、ユダヤ人入植者の群衆が炎に包まれた建物を見つめながら死者のためのユダヤ教の祈りを唱えている。これより前、イスラエルの著名な閣僚で入植者のリーダーである人物がイスラエル人らに対し、「情け容赦なく」攻撃するよう呼びかけていた。
パレスチナ保健省は26日遅く、37歳の男性がイスラエル人入植者によって銃撃され死亡したと発表した。パレスチナ赤新月社の医療サービスによると、他に2人が銃撃され、1人が刺され、1人が鉄の棒で殴られ負傷した。また約95人が催涙ガスを吸い込み治療を受けた。
この地域で活動しているイスラエル軍は今のところコメントを出していない。
パレスチナのマフムード・アッバース大統領は今回の事件を、「占領軍に守られた入植者が行った今夜のテロ行為」と呼んで非難した。
さらに、「全責任はイスラエル政府にある」と続けた。
この暴力事件の映像が夜のニュース番組で放映される中、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は平穏を呼びかけ、暴力的な私的制裁に訴えないよう求めた。同首相はビデオ声明の中で、「血がたぎり気持ちが高まっているとしても、自らの手で法を執行してはならない」と述べた。
イスラエル軍によると、同軍参謀長のヘルツル・ハレヴィ中将が現場に駆けつけ、部隊が秩序回復に努めた。
今回の暴力事件の直前には、26日に紅海のリゾート地アカバで行われた会談を主催したヨルダン政府が、緊張を緩和するための措置を講じること、また来月にもイスラム教の聖なる月ラマダンの前に再び会合を開くことで全当事者が合意したと発表していた。
ヨルダン外務省は、「現地でのエスカレーションを止め、さらなる暴力を防ぐことにコミットする必要性を再確認した」と発表した。
ヨルダン川西岸地区と東エルサレムにおいて衝突が1年近く続き、パレスチナ人200人以上とイスラエル人40人以上が死亡している中で出されたヨルダンの発表は、小さな進展の兆しとなった。しかし、現地の状況がそれらの約束に即座に疑問を投げかけた形だ。
パレスチナ側は、ヨルダン川西岸地区、東エルサレム、ガザ地区(いずれも1967年の中東戦争の際にイスラエルが占領した地域)を将来の国家の領土として要求している。国際社会の大部分は、イスラエルによる入植を違法であり和平への障害であると見なしている。
ヨルダン川西岸地区には強硬派の入植地が多数あり、それらの住民は頻繁にパレスチナ人の土地財産を破壊している。しかし、これほど暴力が広がることは稀だ。
イスラエルの極右政権の著名なメンバーらは、パレスチナ人らに対して強硬な行動を取るよう求めている。
入植者のリーダーとしてこの地域に住み、イスラエルのヨルダン川西岸地区における政策の多くを任されているベツァレル・スモトリッチ氏は、「テロ都市とその扇動者たちを情け容赦なく戦車やヘリコプターで攻撃」するよう呼びかけた。
さらに、イスラエルは「この家の主人が怒っていることが伝わるようなやり方で」行動すべきだというフレーズを使い、より非情な対応を求めた。
イスラエルの閣僚委員会は、死者を出す攻撃を行って有罪となったパレスチナ人に死刑を科す法案に最初の承認を与えた。この法案はさらなる議論のために議会に送られた。
アカバでの会談において正確には何が合意されたのかについては、パレスチナ側とイスラエル側で解釈が分かれている。
ヨルダン外務省は、代表らは「公正で永続的な和平」に向けて取り組むことで合意し、係争中のエルサレムの聖地においては現状を維持することを約束したと述べた。
ユダヤ教徒からは「神殿の丘」として、イスラム教徒からは「ハラム・アル・シャリフ」として崇拝されているこの聖地における緊張は、しばしば暴力に波及している。2年前には、イスラエルと過激派組織ハマスとの間でラマダン中に11日間にわたる戦争が起こるきっかけとなった。
イスラエル史上最も右寄りの政府の関係者らは、26日の会談を軽視した。
ある高官は、政府のガイドラインに従うためだとして匿名を条件に、ヨルダンではパレスチナとの治安協力関係の更新に取り組む委員会の設置が合意されたとだけ語った。パレスチナは先月、イスラエル軍によるヨルダン川西岸地区での急襲で死者が出たことを受けてこの関係を停止した。
ネタニヤフ首相の国家安全保障顧問で、イスラエル代表団を率いたツァヒ・ハネグビ氏は、イスラエルの政策に「変更はない」としたうえで、先週承認された、入植地に新たに数千棟の住宅を建設する計画は影響を受けないと述べた。
また、「入植の凍結はない」し「軍の活動に対する制限もない」とした。
ヨルダンの発表では、イスラエルは6ヶ月間はさらなる入植地の合法化を行わないこと、また4ヶ月間は既存の入植地における新たな建設を承認しないことを約束したとされていた。
一方のパレスチナ側は、占領下の領土におけるイスラエルの入植地建設やパレスチナの町におけるイスラエル軍の急襲の停止の要求を含む抗議を記載した長いリストを提示したと述べた。
26日にハワラで発生した銃撃事件の数日前には、近くの都市ナブルスでイスラエル軍の急襲によりパレスチナ人10人が死亡していた。
ハワラの銃撃事件は、パレスチナ人とイスラエル人入植者の両方が利用する主要幹線道路において発生した。
殺害された2人は、ハル・ブラハのユダヤ人入植地から来ていた21歳と19歳の兄弟であると特定された。
イスラエルから隣国ヨルダンへの代表団にはハネグビ氏のほか、国内治安機関シン・ベットのトップも加わっていた。パレスチナ情報機関トップや、マフムード・アッバース大統領の顧問らも参加した。
パレスチナと親密な関係を持っているヨルダンのアブドッラー2世国王が議論を率いた。同じく仲介役であるエジプトのほか、米国も参加した。
ワシントンではジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が、この会談への歓迎の意を表明した。また、「この会談は出発点だと我々は認識している」としたうえで、「実行に移すことが重要だ」と述べた。
当事者間での異例のハイレベル会談となったこの会談は、危機の深刻さ、そして3月下旬のラマダンが近づく中での暴力の高まりへの懸念を浮き彫りにするものとなった。
ガザ地区では、イスラエルの破壊を狙うイスラム過激派組織ハマスが、26日の会談を批判するとともに、銃撃事件はイスラエルのヨルダン川西岸地区への侵入に対する「当然の反応」だと述べた。
イスラエルは2005年にガザ地区から撤退した。その後、過激派組織ハマスが同地区を支配し、イスラエルとエジプトが同地区の封鎖を続けている。
AP/ロイター