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仮想テレポーテーションと人生のゲーム化

身体所有感覚についてのVR実験。バーチャルスペースで手を2つ、足を2つ。(提供写真)
身体所有感覚についてのVR実験。バーチャルスペースで手を2つ、足を2つ。(提供写真)
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29 Dec 2021 12:12:53 GMT9
29 Dec 2021 12:12:53 GMT9

ナダル・サモーリ

大阪:人は世界をありのままに見るのではなく、自分の思考の型を通して見る。つまり、目ではなく、頭で周りの景色を見ているのだ。

仮想現実が現実と異なる点は、同じような人それぞれの知覚を視覚化し、それを無限のスペースの中で拡大して見せるところだ。仮想現実(VR)では、無限の空間意識があり、その中で人々は浮いたり、飛んだり、上昇したりといったことができるボーダーレスな存在に成長していくことができる。現在ハイテクだといわれている小さな2次元の画面で暮らしを管理するかわりに、仮想現実は画面の中に入り込み、3Dの世界で拡張された「社会生活」を体験させてくれる。

現実の人間は、自然の法則によって制約を受けるため、非常に客観的な意識を持っています。天候、重力、その他の物理法則や自然の力学は、制御不能な客観的現実を結晶化させます。しかし、仮想世界は人工的でコード化されているため、自然法則や貨幣の制約がなくなります。そのため、形による体験の可能性は無限大になります。

現実世界では、人は身の回りの対象物に対してはっきりと意識を払っている。自然の法則によって制約を受けているからだ。天候や重力、その他の物理的法則や自然力学は、私たちにはどうにもできない客観的現実を結晶化する。しかし、仮想世界は人の手によってコードで構築されているため、自然の法則や金銭的な制約がなくなる。そのため、形を通した体験の可能性は無限大になるのだ。

やたら大きなヘッドセットを頭につけたままの人々の姿は、最初はとんでもない感じがするかもしれない。だが、パソコンやスマートフォン、自動車のようい、今では当たり前のように使われている発明品も、登場した当時はとんでもないように見えたものだ。

現実になっているものもそうでないものも、VRのデメリットは別として、この技術自体には多くの利点がある。ゲーム業界は2020年に1550億ドルの収益を生み出した。ゲームのどこがそんなに魅力的なのだろうか?

人はゲームをプレーするのが好きだし、ゲームの中のリスクや先の見えない挑戦を喜んで体験しようとする。理由のひとつは、リプレイという選択肢が保証されているおかげで勇気と自信を持ちやすいからだ。ゲームでは行動の責任を取る必要がなく、リスクという要素を回避できるため、損失回避バイアスが排除される。仮想現実はそのような性質も保証する異世界だ。つまり、まるでゲーム化された人生のようなものだともいえる。

進化し続ける人間の能力については、多くの疑問があげられる。人は今、ゆっくりと膨大な量の知識を獲得し続け、やがてVRによって無限の空間にアクセスできるようになる。あまりにも情報が立て続けに入ってくると、時にストレスに感じられるかもしれない。だが、そこに空間という要素も加わったらどうなるだろう。人は、それほど膨大な量の情報と空間の感覚を同時に処理する準備ができているのだろうか。そのような世界で、物理的な身体はそれでも重要なのだろうか。

「身体の感覚はたとえバーチャルな環境であっても、自分の世界とその中で自分がいる位置を認識するために重要だと思う。たとえば、私は今ここに存在している。だから、私の体はそれを感じられる。また、目を通して見ることができるし、周囲の環境にかかわることができる。バーチャルな環境でも身体所有感覚は重要だと思う」と、慶應義塾大学博士研究員で、VRと人間の身体知覚を専門に研究している近藤亮太氏は話す。

近藤氏は自身の研究と実験の中で、決定的な問いを投げかける。「意識は身体に依存するのだろうか」という問いだ。近藤氏は、身体所有感覚を研究し、仮想空間内でも手足が2つずつあれば、人は身体所有感覚を認識できることを発見した。

身体所有感覚についてのVR実験。バーチャルスペースで手を2つ、足を2つ。(提供写真)

濱田健夫氏もVRの研究者で、東京大学の講師、ヒューマンコンピューターインタラクションの研究者でもある。濱田氏の実験のひとつに、バーチャルウォーキングジェネレーターがある。物理的に離れた場所を実際に歩いているような感覚を与える仕組みだ。

濱田氏はVRディスプレイを通して全方位ビデオカメラを取り付けた車輪付きの移動ロボットが捉えたモーションイメージを検出し、ロボットの視点からの景色を見ることに成功した。振動スリッパは、現実世界で感じる足裏の感覚を刺激して呼び起こすことで、視覚に加えて触覚で脳に錯覚を起こし、歩いていないのに歩いていると感じさせるというものだ。

「私たちは歩くという行為で生じる頭の揺れを模して、VRディスプレイに縦揺れの動きを発生させた。足裏の触覚については、スリッパに4つの振動器を取り付けて、つま先やかかとが地面に接触した時に感じる振動を模倣した」と濱田氏は説明する。

バーチャルウォーキングジェネレーターの実験。(提供写真)

濱田氏は、一人で走るよりもバーチャルな世界でジョギングをする人の後ろを走った方がモチベーションが上がることを証明するための実験も行った。ランナーはスマートグラスを装着し、目の前を走る仮想ランナーの手足が強調される。

「バーチャルジョギングの実験では、ソーシャル・ファシリテーションという現象を応用することが目的だった。ソーシャル・ファシリテーションは社会心理学ではよく知られており、人は他者の存在や動きから影響を受けるという概念だ」と、濱田氏。

仮想ランナーと走る。(提供写真)

「走る人の視界を遮らないように、仮想ランナー身体の可視性は全身、点光、四肢のみの3種類にし、仮想ランナーとのジョギング、実際の人間とのジョギング、単独ジョギングの体験を比較した。その結果、人は仮想ランナーとジョギングする時の方が一人の時よりもモチベーションが上がる傾向が観察された。実際の人間とジョギングした時ほどではなかったが」と、濱田氏は話す。

「メタバース」は、Facebook社CEO、マーク・ザッカーバーグ氏が発表した野心的な約束だ。Facebookという人気のプラットフォームを新たに一つの宇宙として再ブランディングしようというのだ。そこではバーチャルなつながりが発展して実生活にも広がり、新しいインタラクションなデジタルの遊び場や、共有の社会的空間が創造される。そこではユーザーは3Dのアバターを使用する。これが未来の「プロフィール写真」になり得るかもしれない。静止画像のかわりに、アバターは一人ひとりを3Dで表現する。Oculus Quest 2というVRヘッドセットを使えば、メタバースに入って好きなアバターで3DのFacebookのような体験をすることが可能になるかもしれない。

現在のリモートワークの環境には欠けている要素が多い。リアルな社会のあり方を再現した3D仮想空間ができれば、現実を模倣することに一歩近づくのではないだろうか。メタバースは、ゲーム、仕事、ライブイベントの仮想ソーシャルロビーなど、ソーシャルネットワーキングの世界の新たな扉を開くことができるかもしれない。画面を通して見るのではなく、「中に入って」体験するという没入型のアプローチだ。

仮想テレポーテーションが、新しい「ネット上のリンク」だ。一瞬にして別の仮想空間にテレポートし、違うアバターで違う環境に身を置くことができる。人々はどんな見た目でどこに存在したいかを選べるようになる。これは新しい形の力だ。

MENA地域のVR市場は徐々に拡大しており、特にアラブ首長国連邦、KSA、エジプトで今後も普及が進むと予想されている。ドバイでは、現在、ドバイモールに7000平方メートルに及ぶVRローラーコースターを含む世界最大のVRパークがある。

新しいものが開発されると、新たな困難や予期しない結果が生じるのが常だ。

将来的に仮想政府は必要になるのだろうか?仮想警察は?権力と支配を求める仮想戦争は?

今、人々が物理的に大切にしている物の多くがデジタルの代替品の登場によってその意義を失いつつある。そのような依存関係により、バーチャルな世界の重要性が徐々に増している。次はどうなるだろうか?お金については、だんだんと確立されている仮想通貨をVR通貨として活用することができるだろう。仮想所有権に関しては、デジタルなアイテムの独自の所有権を公開で証明するNFTというデジタル資産が、人気上昇中だ。

世界は今まさに意図的にデザインされた人生のゲーム「人生ゲーム ver.2」を始めようとしているのだろうか。

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