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誰がこの星を救うお金を払うのか?100兆ドルの問い:アンソニー・ロウリー

最近の東京での記者会見で自著(Who Will Pay to Save the Planet)の書評を行うアンソニー・ロウリー氏。(ANJ)
最近の東京での記者会見で自著(Who Will Pay to Save the Planet)の書評を行うアンソニー・ロウリー氏。(ANJ)
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13 Nov 2022 01:11:30 GMT9
13 Nov 2022 01:11:30 GMT9

エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されるCOP27気候変動サミットでは昨年のグラスゴー・サミットに比べて気候変動のデモはおそらく小規模で控えめになるだろう。

しかし、いずれにせよ、叫び声をあげたり横断幕を振り回すことは勘所を外している。

気候変動の破壊的な影響の克服に向け、豊かな国々が貧しい国々にもっとお金を払って支援するよう求める代わりに(正当な理由かもしれないが)、デモで旗を振る人々はこの星を救うのにどれだけの費用がかかるのか、そして誰がそれを払うのか、を問うべきだ。

自然火災、洪水、干ばつなどの形で「自然災害」が多発しており、そして、これらは実質的には人災とさえ言える状況なのに、こうした問いは、誰がどのように大々的な気候変動対策をまとめていくのかという問いとともに、驚くほどに手つかずのままだ。

気候変動の活動家はシャルム・エル・シェイクのイベントの機会にもいわゆる「ビッグオイル」や石油生産者を地球温暖化の原因として訴えるに違いないだろうが、こうした人々は私が最近出版した著書で言及した本当の「黒幕」、ビッグ・コールを標的にすべきだ。

地球温暖化の責任は誰にあり、どうすれば気候変動との戦いに勝てるのかという正しい問いかけをしてこなかったことは、誤った情報に基づく「あいまい」なアプローチの典型例で、この実存的脅威に対して過去何十年にもわたって続いてきてしまった。

1970年代にはすでにアメリカの中央情報局(CIA)が「奇妙な気象パターン」を報告していたが、これが地球と地球上の生物への脅威となるか否かは科学者の間で意見が割れていた。

今日、気候変動を疑う者は少なくなったものの、理解不足は続いている。

急速に進む気候変動の被害から地球と地球上の生物を救うためのツケは非常に大きく、最低でも100兆ドルが必要なのはほぼ間違いなく、そしてそれは納税者や貯金している人々、投資家、消費者によって支払われなければならないだろう。

国際通貨基金(IMF)や国際エネルギー機関(IEA)、投資銀行やコンサルティング会社といった様々な組織団体からの専門家の試算によると、この金額は世界中のGDPのほぼ1年分に匹敵する。

つい最近まで、多くの人が気候変動のことについて知らされていないか、もしくは否定的だったが、台風、ハリケーン、森林火災、洪水、海面上昇などの形で気候変動の影響が現れてきている今なお、どのような行動を取るべきかについて世界は危険なほどに意見が割れており、大部分の人々が気候対策にかかる費用についても知識がない。

昨年のCOP26サミットでの英国のチャールズ皇太子(当時、現在はチャールズ3世国王)の発言を引用すると「これは数十億ドル規模などでは済まず、何兆ドルもかかると分かっています。

気候変動と生物多様性の喪失は大きな脅威であり、世界は「臨戦態勢」で戦いに挑まなければなりません」

しかし、世界はイデオロギー的な分裂が激しく前に進めていない。

そのため、世界中の気候変動にかかる推定100兆ドルの費用に各国が団結して取り組むのではなく、代わりに豊かな国々が貧しい国々に支払うことになっている何桁も小さなお金のことばかりが取り沙汰されている。

それは何のためのお金なのだろうか?主だった使途は、大気中に二酸化炭素を排出する化石燃料の発電所を風力、水力、太陽光などの再生可能エネルギーによる発電所に入れ替えたり、現在よりはるかに大きな規模で原子力発電を再導入するといったことだ。

運輸部門、特に自動車は「電気化」の面で重いコストに直面し、家庭部門はクリーンで環境に優しい暖房や空調にかかるコストに向き合う必要がある。

IMFが指摘するように気候変動対策コストは今後「少なくとも一世代の公的財政を圧迫する」ことになるだろう。

広義の気候変動コストには物理的なインフラ、健康や社会サービスなどに与える深刻な影響も含まれなければならない。

基盤となるインフラを気候変動に対応させることは、時間の経過とともに何兆ドルもの追加コストがかかるだろう。

現在、中国がダントツで二酸化炭素の最大の排出源となっており、2020年には世界の総排出量の31%を占めているが、世界の環境汚染の上位5カ国(中国、米国、インド、ロシア、日本)の合計では約60%となる。

地球温暖化の対策費用に関して、中国やインドのような国の費用分担は巨額で然るべきだと主張する人もいるが、年間排出量という「フロー」の観点ではなく、過去数十年〜数百年にわたる輩出量の総計という「ストック」の観点で見るとその様相は異なってくる。

例えば中国は現在、年間CO2排出量が最大レベルだが、産業革命以降の累計排出量では米国よりもはるかに少ないし、いま世界が直面している課題は過去100年以上にわたって大気中に蓄積された汚染の大掃除なのだ。

地球温暖化に国境などというものは通用しないので、一つの国が単独でこの問題に対処することは望むべくもない。

各国レベルの温暖化対策を調整し、その対策に資金を提供し、適切な規模の資金にアクセスする権限を持つ多国間気候変動当局が必要だ。

しかしながら、各国や国際レベルで中途半端な取り組みしか行われていないのが現状だ。

たしかに国家の主権を尊重すべき分野もあるが、気候変動はそれにあたらない。

気候問題での浮沈は皆、一蓮托生なのだ。

気候変動対策を調整する主要な場はUNFCC(国連気候変動枠組条約)と呼ばれるもので、国々が一団となって気候変動に取り組むための最初のステップとして1992年に設置された。

この条約には200カ国近くが批准している。

この条約の採択から3年後、これらの国々は京都議定書に合意し、先進国に対して二酸化炭素排出量の削減目標を「法的に拘束」することになった。

しかし、削減目標はあくまで各国の自発的な努力目標であり、達成できなかった国に罰則を与えられるような存在はいない。

気候変動との戦いは単に政府が目標を設定するだけのものではないし、そうであるべきでもない。

経済全体にわたる計画であるべきで、政府、国家機関、民間企業、銀行やその他の金融機関を、できれば国際レベルの広がりで巻き込んだものであるべきだ。

各国政府の中にはエネルギー団体、特にいわゆる「ビッグオイル」の影響を受けているものもあるが、本当の黒幕は前述した「ビッグ・コール」であり、発電において石油よりも多くのCO2を排出し続けているが、発展途上国で生産者を特定することは容易ではない。

「緑化」運動では木をたくさん育て森林伐採を止めれば、すべてがうまくいくと言い切っていた。

だが、英国の元エネルギー大臣のデービッド・ハウエル卿は「とことん緑化のことを語り尽くすしたところで、化石燃料への過度の依存という問題は解決しない」と言う。

この問題の解決、少なくとも新技術が出てくるまでの間、気候変動を遅らせるにはCO2を輩出する発電所を早期閉鎖すれば良い。

しかし、それには莫大なお金がかかる。

OECDによると世界の政府は合計で年間約17兆ドルの税金を徴収しているが、もちろん、その税収のほとんどは政府の一般歳出と借入債務の返済という使用用途が決定済みだ。

各国政府はすでに借金漬けで、金利がさらに上昇しているため、気候変動対策費用を賄う上で、追加で借金をするという選択肢はない。

各国政府には増税という手もあるが、世界経済が不況に向かうかどうかの瀬戸際にある今、これも妥当な選択肢とは言い難い。

民間部門の貯蓄や投資はどうだろうか?IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は最近のブログで「企業部門には全体で約210兆ドルの金融資産があります」、すなわち全世界のGDPのおよそ2倍に相当する金融資産があると示唆した。

しかし、こうした貯蓄の大部分は資産運用会社や機関投資家の管理下にあり、この手の人々は気候変動対策への長期的な投資に注力するよりも、いわゆる「ハイテク」株のバブルを膨らませることの方を好む。

いわゆる「ESG」(環境・社会・ガバナンス投資)はどうだろうか? 2004年にアナン元国連事務総長が提唱したESGでは世界のトップクラスの各企業に環境・社会・ガバナンスを企業ビジョンや戦略に取り入れるよう推奨している。

これは価値あるアイデアだったが漠然としすぎており、気候変動対策に直接資金が向かうまでには至らなかった。

また、2015年に国連が発表した17の「持続可能な開発目標(SDGs)」では気候変動対策はそのうちの1つに過ぎないと明記している。

気候変動との戦いはCOP26の気候サミットでグラスゴー・ファイナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ(GFANZ)と呼ばれる連合が発足したことで、より確固たる形となったようにみえる。同連合は元イングランド銀行総裁で現在は国連気候変動問題特使のマーク・カーニー氏が共同議長を務める。

40カ国からの450社以上の大手企業や民間金融機関が集まるこの民間主導の連合は「国連の『ゼロへの競争』における主要金融機関のグローバル連合」と自らを表している。

ネットゼロ競争とは、約130カ国が2050年までに温室効果ガスの排出量をネットゼロにする目標を設定または検討していることを指す。

GFANZによれば「130兆米ドルを超える民間資本がネット・ゼロにコミットしている。

だが、気候変動対策に「コミット」されている資金の出どころである無数の年金基金の加入者や保険会社の契約者、投資信託の投資家などが、自分のお金がそうした使われ方をすることに納得するかどうかは分からない」とのことだ。

この戦いが公的資金と民間資金のどちらかだけで賄えないのは明らかだ。

潤沢な資金があるのは民間部門で、気候対策プロジェクトを実行に移す組織力は公的部門にあるのだ。

COP27が信頼を得るには、誰がこの星を救う費用を負担し、その救済策の調整がどう改善できるのか、という問題の核心をより具体的に説明することが必要になるだろう。

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