
日本政府が緊急事態宣言を発出してから約1か月がたった。電気通信事業者KDDI株式会社のコールセンターに務める従業員は、その多くがいまだに混雑したオフィスに通勤し続けている。新型コロナウイルスへの感染リスクよりも、データセキュリティの方が優先されているのだ。
新型コロナウイルスがもたらしたパンデミックに対し、日本政府は他の多くの国々ほど強制的な手段を講じてこなかったが、その結果生じた亀裂の一つとしてあげられるのがコールセンターだ。ここ数週間の間に、日本北部に位置する北海道の郵便局のコールセンターで17件の感染、また京都府の通販事業社で11件の感染が確認された。
企業がデータセキュリティに対する懸念を示す中、日本株式会社はテレワークの採用に消極的な態度を示してきた。また企業は、従業員の生産性やカスタマーサービスの低減に対する懸念も表明してきた。
KDDIのコールセンター事業を手がけるKDDIエボルバに務めるある従業員は、「従業員の多くがいまだに混雑したオフィスで勤務を続けています」とロイター通信に語った。「いつ集団感染に見舞われてもおかしくありません」
匿名を条件に話を聞いたこの従業員によると、KDDIエボルバの東京オフィスは、最近までピーク時はオペレーター数が80人にのぼり、混雑したパーティションのない空間で互いに1メートルと離れずに働いていたという。
今はスタッフ数が減らされたものの、感染への不安が解消されるほどではないという。
別のエボルバ従業員は、自宅にいる人が増えたため、オペレーターは緊急性の低い問い合わせへの対応が急増したとし、「こうした問い合わせは、私たちが感染のリスクを負いながら対応するほどの価値があるのでしょうか」とつけ加えた。
KDDIエボルバによると、オペレーターの人数削減やパーティションの設置など、従業員を保護する対策をとっているという。
KDDI広報担当者は、コールセンターは社会インフラの一部であり、営業を継続する必要があるとしている。同担当者によると現在KDDIエボルバの要求を検討中だという。
ロイター通信は、複数企業を対象に、計8人のコールセンター・オペレーターから話を聞いたが、全員が労働条件に関する不安を示した。
「他に選択肢なし」
日本には、約25万人のコールセンター・オペレーターがいる。その多くが契約社員で、正社員と比べ安定した雇用が保障されていない。
総合サポートユニオンの青木耕太郎氏によると、同労働組合がここ1か月の間に安定性への不安を抱えるオペレーターから受けた電話件数は、100件を超えているという。同氏によると、休暇をとることに決めたオペレーターの一部は、休めばキャリアに響くと言われたという。
「私たちの多くは、仕事を失わないため、勤務を続けるしかありません」と、コピー機メーカーの富士ゼロックス株式会社のコールセンターに務める、ある契約社員は言う。
富士ゼロックスの広報担当者によると、テレワークの許可という面では、契約社員も通常社員も扱いは同じだという。同担当者は、テレワークの範囲を広げてはいるが、顧客のためにトラブルシューティングを行うため、従業員の一部はオフィスで実際にコピー機やプリンターを前に勤務する必要があるとしている。
勤務先を伏せることを条件に話を聞いたある東京の契約社員は、顧客から苦情がくるため、スタッフは仕事量を減らすことができないと言われたという。
日本は、東京など7都府県を対象に4月7日に緊急事態宣言を発出したが、その後全都道府県を対象とし5月末までの延長が決定された。
政府は、第二次世界大戦後に制定された日本の憲法のもと企業に営業停止を求めることはできないものの、感染を抑制しつつそれなりに経済を持続させようと努めてきた。
人と人との接触を70%~80%削減することを目指してきたが、Googleのモビリティデータによると、4月26日の時点で勤務先への移動はパンデミック前と比べて27%しか減っていない。
日本で報告された感染症例数は1万6000件近く、死亡者数は569人だ。
業界の抵抗
コールセンターはテレワークに抵抗を示している。昨年実施された調査によると、スタッフに自宅からの勤務を許可するコールセンターは6.3%にとどまった。80%近くが、テレワークの導入は検討していないと答えており、データ漏洩に対する懸念を理由にあげている。
大手の無線通信事業者NTT DoCoMoでは、あるセンターで3月に10件の感染が確認された。
「コール・オペレーターは、顧客からの電話を受ける際は実際にその場にいる必要があります」と同社の広報担当者は言う。
これに対しスイスのチューリッヒ・インシュアランス・グループの日本支社は、情報のローカルストレージへの保存を回避するためにバーチャル・デスクトップを採用し、500人のオペレーターの95%をテレワークへと切り替えた。
ある業界関係者によると、KDDIやNTT DoCoMoといった電気通信事業者は、対面式の業務を減らすよう総務省から求めがあったため、コールセンターによる対応を継続する必要性を感じたという。
一方ある総務省関係者は、人と人との接触を減らすよう求めたものであり、コールセンターの営業継続を命じたものではないとしている。
「キャリア各社が感染防止策を考案することを期待しています」と同氏は述べた。
ロイター通信