
東京電力福島第1原発事故で放出された放射性物質のうち、半減期が約30年と長いセシウム137が環境に与える影響は、1986年の旧ソ連・チェルノブイリ原発事故よりも早く低減していることが、筑波大、福島大と日本原子力研究開発機構などによる分析で分かった。
事故では、2700兆ベクレルのセシウム137が地上に降下。うち67%が森林、10%が水田、7.4%が畑や草地、5%が市街地に沈着したと推定される。
筑波大の恩田裕一教授らは、セシウム137の挙動を調べた210本以上の論文を分析。半径80キロ圏内の汚染状況をチェルノブイリと比較した。
汚染地の大半が森林や放棄された農地のチェルノブイリに比べ、福島は市街地や耕作地が多く、土の掘り返しや除染によりセシウムが早期に地下深くへ移った。水田では事故後3年で表層(深さ2センチ以内)のセシウムが、事故直後の約1割に減少。土による遮蔽(しゃへい)で空間線量も大幅に下がった。一方、森林では8年後も表層に5割以上とどまっていた。
河川のセシウム濃度は、チェルノブイリを流れるプリピャチ川や、影響を受けた欧州の25河川と比較し10分の1~100分の1で、淡水魚への移行も少なかった。土壌表層のセシウム減少や、降雨量が多く水の循環が早いことなどが影響しているという。
恩田教授は「原発事故を起こした国には、環境回復の経過を刻々と記録する責任がある。福島の復興という面でも、データをしっかり出すことが大事だ」と話している。
JIJI Press