Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

ドローン事件を受け米・トルコ関係に浮かび上がる懸念

トルコ軍の空爆後、シリアのクルド人支配地域である北東部ハサケ県にあるババシ石油施設から煙が上がっている。(AFP)
トルコ軍の空爆後、シリアのクルド人支配地域である北東部ハサケ県にあるババシ石油施設から煙が上がっている。(AFP)
Short Url:
08 Oct 2023 05:10:04 GMT9
08 Oct 2023 05:10:04 GMT9
  • スウェーデンのNATO加盟を遅らせるほど両国関係が悪化することは誰も望んでいない、とアナリストは言う。

メネクセ・トキャイ

アンカラ:5日夜、シリア北東部でトルコのドローンが米軍に撃墜された事件は、すでに脆弱(ぜいじゃく)なトルコ・米国関係に複雑な影響を及ぼすのではないかという懸念を抱かせた。しかし、両者は緊張を緩和するために迅速に動いている。

トルコ軍と国家情報機構(MIT)は、10月1日の朝にアンカラのトルコ内務省外で起きた自爆テロ攻撃を受け、シリア北部で軍事作戦を開始した。トルコ当局はこの攻撃を、シリアから侵入した非合法組織クルド労働者党(PKK)関係者による犯行だと発表している。

この作戦は、シリア北部のテル・リファート、ジャジラ、デリクの各地域で、PKKとそのシリア関連組織であるクルド人民防衛部隊(YPG)に関係する複数の拠点を標的としていた。

トルコが報復として空爆を開始したのは、同国のハカン・フィダン外相がシリアとイラクにおけるPKKとそのネットワークを「正当な標的」だと公言してからわずか数時間後のことだった。

米軍は、トルコのドローンがシリア北東部ハサカで駐留中の米軍拠点から500メートル以内に接近したため、撃墜に踏み切った。

このまれな事件によって、NATO加盟の2カ国は不安定な状況に置かれた。

米政府高官は、トルコとのパートナーシップの価値を強調しつつ、関係修復に素早く動いた。

米国防総省報道官パトリック・ライダー空軍准将は、ドローン事件は「遺憾である」と述べ、トルコが近くで空爆を行った場合、米軍には安全策を講じる責任があると強調した。

「トルコが意図的に米軍を標的にしていたという兆候はない」とライダー氏は記者団に強調した。

トルコのヤサル・グレール国防相と米国のロイド・オースティン国防長官も最近の動向について電話で協議を行った。また、トルコ軍のメティン・ギュラク参謀総長と米空軍のチャールズ・ブラウン・ジュニア参謀総長と電話で会談し、最近の情勢について話し合った。

米国防総省は、トルコの正当な安全保障上の懸念を認め、シリア北部での非エスカレーションを求めながら、トルコとの軍事チャンネルを通じた継続的な意思疎通の必要性を強調した。

オースティン氏は、「(ダーイシュ)討伐作戦を支援するための、シリア北東部における米軍や有志連合のダーイシュ討伐ミッションに対するいかなるリスクも最小化するよう、米国とトルコが緊密に連携することを再確認した」と声明を発表した。

アントニー・ブリンケン米国務長官も6日夕方、フィダン外相と会談した。

「我々は、テロリストの脅威を打ち負かすという共通の目的を追求するために、活動の調整、および双方の混乱の解消について話し合った」とブリンケン国務長官はソーシャルメディアXに投稿した。

トルコ外務省の声明によると、フィダン氏は「米国は同盟国として、シリア北部のテロ組織YPGとの協力をやめるべきだ」と米国側に伝えたという。

シリア北部には約900人の米軍が駐留している。彼らは主にクルド人主導のシリア民主軍(SDF)に協力している。

しかし、この協力は、トルコにとって長い間対立の原因となっている。トルコはSDFをPKKの分派とみなしており、2015年以来、シリアでのクルド人武装組織YPGの訓練と武装をやめるよう米国に求めてきた。

ワシントン研究所のソネル・カガプタイ上級研究員は、シリアでの地上作戦の展開はトルコにとって選択肢のひとつではあるが、その可能性は低いと見ている。その代わり、戦術的な作戦はこれまでとほぼ同じ流れで継続されると同氏は予想している。

「米国の反応は、トルコがPKKやその関連組織を攻撃するのを阻止するためというよりも、トルコが米軍に近づいたり、標的にしたりしないようにという、同国に向けたメッセージである。これは、イラク北部のスレイマニヤ国際空港付近で、YPG指導者のフェルハト・アブディ・シャヒン(コードネーム:マズロウム・アブディ)を乗せた米軍車両がトルコのものと思われるドローンから標的にされた事件までさかのぼる」とカガプタイ氏はアラブニュースに語った。

「米国のレッドラインは、米国の人員や軍隊を危険にさらしてはならないということだと考える。米国はそれ以上のエスカレーションを望んでいないし、トルコもまた、緊張をエスカレーションさせることには興味がない」と彼は付け加えた。

6日にトルコ外務省から発表された、イラクとシリアにおけるPKKおよびその関連組織に対する、トルコの国境を越えた攻撃に関する声明は、米国については触れていない。トルコは、「ドローンは、第三者との衝突回避メカニズムの技術的評価の違いにより失われた。関係者との衝突回避メカニズムをより効果的に運用するために、必要な措置がとられている」と述べた。

カガプタイ氏は、この声明が意味するところは、「基本的に、我々は米国とのエスカレーションは望まないが、PKKに対してこの地域で活動する権利も保持している」ということだろうと述べた。

フィダン外相とブリンケン国務長官は、イラクとシリアにおけるトルコ軍と米軍の間で、トルコの対テロ活動を「妨げない形で」現在の非エスカレーションのメカニズムを継続して運用することで合意したと伝えられている。

カガプタイ氏の意見では、米政府は常に(不承不承ながら、そして米中央軍を落胆させながら)YPGを標的にした、トルコのシリアでの作戦にゴーサインを出してきた。

「トルコが侵攻するたびに米国は撤退し、米軍に危害が及ばないように調整するのがそのパターンだ」と彼は言う。

トルコのシリアにおける最後の大規模な軍事作戦は2019年後半に行われた。作戦では、テロ集団を国境から押し戻すことを目的としていた。

カガプタイ氏は、トルコが本格的な侵攻を行うとは考えていない。なぜなら、そのためにはロシアやシリアのアサド政権との調整が必要になるからだ。

「その決定に対して拒否権を持つ大国は他にもたくさんある。トルコは、YPGとPKKに対するドローン戦争をさらに強化し、特殊部隊やその他の部隊をイラク国内に投入してPKKのキャンプを攻撃し、イラク国内に10キロメートルの深さに及ぶ「防衛ライン」を確立すると考える。この「防衛ライン」は、イラク・トルコ国境を、7000フィートの山々が連なる険しい地形から、1000フィートの山々が連なる、より防御可能な境界線に変えるだろう」と彼は述べた。

さらに、本格的な侵攻には「ロシアおよび米国との間で困難な調整が必要になり、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とウラジーミル・プーチン大統領の会談も必要になる。さらにアサド大統領の承認も必要だ」と付け加えた。

一方、米国は最近、スウェーデンのNATO加盟を承認するようトルコに求めた。これに対してトルコは、F16戦闘機を同国に提供するという約束を米国に再確認した。

トルコはまた、スウェーデンは自国内のPKKの活動をすべて排除しなければならないと主張している。

カガプタイ氏は、このような話し合いにおいては、トルコが優位に立っていると考えている。

「米国は、トルコがスウェーデンのNATO加盟を批准することを期待しており、それを遅らせるほど両国関係が悪化することを誰も望んでいない。このPKKの爆弾テロがなければ、批准は行われ、信頼醸成措置が講じられたことで、関係は大幅に改善されただろう」

カガプタイ氏は、アンカラでのPKKによる攻撃はその目的を達成した、と結論づけた。「トルコ・米国関係再構築の可能性は振り出しに戻った」

特に人気
オススメ

return to top