ハーン・ユーニス、ガザ地区:イスラエル軍がパレスチナ人に対しガザ地区南部の一部から避難するよう警告するビラを投下したと、16日に住民らが証言した。これは、南部への作戦拡大の可能性を示唆している。南部では、以前の避難命令に従った数十万人が、国連が運営する避難所や親族の家に押し寄せている。
一方、15日早朝に始まった北部のシファ病院に対する襲撃において、兵士らは院内の捜索を続けたが、地下に隠されているとイスラエルが主張するハマスの司令部の証拠をまだ見つけていない。ハマスと、ガザ最大の病院である同病院のスタッフは、その疑惑を否定している。
イスラエルが既に連日空爆を行なっている南部にまで攻勢が拡大されることで、ただでさえ深刻なガザ地区の人道危機が悪化する恐れがある。同地区では150万人以上が域内避難民となっており、その大半の避難先である南部では食料、水、電気がますます不足している。
6週目に入ったこの戦争は、10月7日にハマスがイスラエル南部を広範囲に攻撃したことがきっかけで勃発した。ハマス戦闘員らは1200人以上(その大半が民間人)を殺害し、約240人の男性、女性、子供を拉致した。
イスラエルはそれに対し、ハマスを政権から排除し軍事力を粉砕すると宣言し、数週間におよぶ空爆作戦とガザ地区北部への地上侵攻を開始した。
パレスチナ保健当局によると、1万1200人以上のパレスチナ人が死亡し、その3分の2は女性や未成年者である。さらに2700人が行方不明となっており、その大半が瓦礫の下に埋もれていると見られている。
公式の死者数においては、民間人と戦闘員は区別されていない。
武器はあるが、今のところトンネルはない
イスラエル軍は15日、ガザ地区最大の病院であるシファ病院に突入し、内部や地下でハマスの痕跡を探した。同病院では、新生児や数百人の患者が電気やその他の基本的な必需品なしで何日間も苦しんでいる。
ハマスが運営するガザ保健省は声明の中で、16日にイスラエル軍兵士らが同病院の地下を捜索し、設備の運用を担当する技術者らを拘束したと発表した。
イスラエルは、シファ病院を数日間にわたって包囲したことで、ハマス戦闘員らが同病院の患者、職員、避難している民間人を使って身を守っているという主張を証明しなければならないという圧力に直面した。この疑惑は、ハマスがパレスチナ人を人間の盾として使っているというイスラエルの全般的な非難の一部である。
イスラエル軍が公開したシファ病院内部を撮影した動画には、MRI検査室の周囲に隠されていたという3つのダッフルバッグが映っており、それぞれにアサルトライフル、手榴弾、ハマスの制服が入っている。クローゼットの中に弾薬クリップのないアサルトライフルが多数ある様子も映っている。AP通信は、これらの武器が同病院内で発見されたというイスラエルの主張の真偽を独自に検証することはできなかった。
シファ病院は約1500人を雇用し、500以上の病床を備えている。ハマスとガザ保健省は、ハマス戦闘員が同病院で活動していることを否定している。パレスチナの人々や人権団体は、イスラエルがむやみに民間人を危険に晒していると非難している。
同病院内にいるガザ保健省幹部のムニール・アル・ブルシュ氏によると、イスラエル軍兵士らは数時間にわたって救急部門や外科部門がある場所を含む地下室やその他の建物を捜索し、院内のトンネルを探した。彼らは、患者、職員、同病院に避難している人々を尋問し、顔を確認したが、拘束された人がいるかどうかは不明だという。
同氏は15日、電話でAP通信に対し、「患者、女性、子供たちは怯えている」と語った。
イスラエル軍によると、作戦開始時に兵士らがシファ病院の外で4人の戦闘員を殺害したが、数日間の戦闘を通して、戦闘員が同病院内から発砲したという報告も、兵士らが侵入した後に病院内で戦闘があったという報告もなかった。
同軍は、同病院内の特定のエリアにおいて「正確で標的を絞った作戦」を実施しているとしたうえで、兵士らには医療チームが同行しており保育器やその他の物資を運び込んでいると述べた。
同病院には一時、イスラエルの爆撃から逃れてきた数万人のパレスチナ人が避難していたが、戦闘が近づく中でここ数日間に大半が退去した。同病院にいる未熟児が今後どうなるかが特に懸念されている。
ガザ保健省によると、シファ病院の非常用発電機の燃料がなくなった11日以降、乳児3人を含む40人の患者が死亡したという。保育器の電源がないため死亡の危機に瀕していると同省が発表していた36人の乳児の容態については、今のところコメントはない。
南部に目を向ける
ガザ地区南部の町ハーン・ユーニスの東の地域に投下されたビラは、民間人に対しその地域から避難するよう警告するもので、過激派やその拠点の近くにいる者は「自分の命を危険に晒している」と書かれている。同地区北部にも同様のビラが地上侵攻の数週間前から投下されていた。
ハーン・ユーニス東部に住む現地の記者2人がビラを見たと報告した。ソーシャルメディア上にビラの画像を投稿した人もいた。
イスラエルのヨアヴ・ガラント国防相は15日、地上作戦は最終的に「北部と南部の両方を含む。我々はハマスがどこにいようと攻撃する」と述べた。
イスラエル軍は、政府の建物の接収・取り壊しを含め、北部の支配を概ね固めたとしている。同軍が16日に公開した動画には、激しく損傷した建物の間を、兵士らが壁に開けられた穴を通って移動する様子が映っている。
イスラエル軍は16日、ハマス幹部イスマイル・ハニヤ氏のガザ地区内の自宅を空爆で破壊したと発表した(同氏は地区外に滞在)。この住居内に人がいたかどうかは不明である。
ガザ地区に住む230万人の大半は、既に同地区の南部に押し寄せている。南部では悪化する燃料不足により、人道サービスの提供が麻痺し、携帯電話やインターネットサービスが停止する恐れがある。
爆撃によって建物が破壊され続ける中、ガザ地区南部の状況は悪化の一途を辿っている。住民らの話では、パンは不足し、スーパーマーケットの棚は空っぽになっている。燃料が不足しているため、各家庭は薪の火で料理をしている。中央の電気と水道は地区全域で数週間止まっている。
イスラエルは15日、戦争が始まって以来初めて、ガザ地区への少量の燃料の搬入を許可した。これにより、数十万人に基本的なサービスを提供している国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は、エジプトとの間のラファ国境検問所経由で援助物資を、限られた量ではあるが搬入し続けることができるようになった。
ただ、この燃料は病院や海水淡水化のためには使用できないうえ、UNRWAが「救命活動」を維持するために必要とする燃料の10%にも満たないと、同機関のガザ地区責任者であるトーマス・ホワイト氏は指摘した。
一方、パレスチナの通信会社パルテルは、燃料や電気の不足により15日中にサービスが停止する見込みだと発表した。ガザ地区では地上侵攻開始以降、大規模な通信障害が3回発生している。
イスラエル軍が南部に進撃した場合、エジプトが自国領内への集団移動を受け入れることを拒否しているため、ガザ住民がどこに逃げ込めるかは不明だ。
AP