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アラブ地域が「Disease X」と呼ばれる次のパンデミックに備えなければならない理由

WHOの研究者たちは、次の「Disease X」は、すでにヒトに感染する能力を証明した約25のウイルスファミリーのいずれかに属する新たなウイルスによって引き起こされると予想している。(AFP/ファイル)
WHOの研究者たちは、次の「Disease X」は、すでにヒトに感染する能力を証明した約25のウイルスファミリーのいずれかに属する新たなウイルスによって引き起こされると予想している。(AFP/ファイル)
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18 Feb 2024 03:02:39 GMT9
18 Feb 2024 03:02:39 GMT9
  • WHOと保健省の責任者は、将来のアウトブレイクに対し世界が備えることができるよう、パンデミック条約に署名するよう各国に呼びかけた。
  • COVID-19パンデミックの際、湾岸諸国は他国より良い結果を残したが、専門家はまだ教訓を学ばなければならないと考えている。

ジュマナ・カーミス

ドバイ:2020年3月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが宣言されたとき、世界各国政府は何の準備もできていなかった。何世代にもわたってこのような大規模な保健衛生上の緊急事態に直面したことがなかったため、各国は国民を守り、経済を保護するために奔走することになった。

数年にわたるソーシャルディスタンスの確保、渡航規制、貿易の途絶を経て生活がほぼ正常に戻った今、世界の保健専門家は各国政府に対し、次のパンデミックに備えるよう呼びかけている。そして、このパンデミックは「Disease X(疾病X)」という不安を煽るような名称で呼ばれている。

今年の世界経済フォーラム(WEF)で「Disease X」が言及された際、人々は代数記号「X」を冠したこの架空のパンデミックの警告を文字通り実際のものだと受け止め、ソーシャルメディア上でパニックを引き起こしたほどだ。

専門家たちは、将来再びパンデミックが起こる可能性について懸念を表明している。(AFP)

サウジアラビア保健省は、新たなアウトブレイクの恐怖を収めるために声明を発表せざるを得なくなり、「Disease X」は世界保健機関(WHO)が将来のパンデミックの可能性に言及するために発表した、仮の名称に過ぎないことを説明した。

同省はまた、WHOや科学者による注意喚起は、あくまで、公衆衛生に対する新たな、そして発生しつつある脅威に直面した際の世界的な備えを促進するためのものであることを強調した。

「毎年繰り返されているメッセージは、人間は多くのウイルスや細菌と共存しており、伝染病に対して脆弱であるということだ」と同省は述べた。

確かに、保健専門家たちは、新たな不吉な病気の出現を発表していたわけではない。しかし、将来別のパンデミックが起こる可能性について、その懸念を表明している。それはCOVID-19よりもさらに致死的な可能性があり、世界は依然として、それに対応する準備はできていないというものだ。

「それが発生した場合、死と破壊を引き起こす可能性がある」と、ドバイのメドケア・ホスピタル・アル・サファの呼吸器専門医、ファブリツィオ・ファッキーニ医師はアラブニュースに語った。

ファッキーニ医師によると、微生物学者や疫学者は、将来的に、1918年から20年にかけて大流行した致死的な「スペインかぜ」と同様の影響を与える新型ウイルスが出現することを懸念している。

COVID-19では約7億人が感染、700万人が死亡した。(AFP/ファイル)

「グレート・インフルエンザ」とも呼ばれたスペインかぜは推定で世界人口の約3分の1を感染させ、5000万人を死亡させた。

これに対し、COVID-19はWHOの統計によると2023年1月時点で約7億人が感染し、700万人の死亡を引き起こした。パンデミックはその年の5月に正式に終了を宣言されたが、ウイルスは依然として拡散している。

「こうした潜在的な脅威を『Disease X』と定義することには、ワクチンや薬が用意されておらず、将来的に重大な流行またはパンデミックを引き起こす可能性がある病気に対処するための準備を優先させようとする意図がある」とファッキーニ医師は述べた。

パンデミック発生から2年後、WHOは中東とアジアでCOVID-19による約140万人の死亡を記録した。地域によって差はあるものの、専門家たちは将来のアウトブレイクの可能性に向けて、学ぶべき教訓がまだあると信じている。

「UAEはCOVID-19パンデミックへの対策において、他の多くの国々と比較して良い結果を残した。しかし、『Disease X』や他の伝染病の可能性に備えるためには、まだ踏むべきステップがある」と、シャルジャ在住の薬剤師、チャンドゥラル・カクハール氏はアラブニュースに語った。

カクハール氏は、パンデミック時に医療施設が経験した「大きな負担」を考慮して、当局は病院の収容能力を検討すべきだと考えている。さらに、保健センターや病院ではクリティカルケア(重症患者のケア)を優先すべきだという。

「そのためには、医療は地域社会から始めるべきであり、予防ケアは家庭で行うべきだ」と彼は語った。

保健専門家は、パンデミックの準備と対応に関して、より連携したアプローチを望んでいる。(AFP/ファイル)

COVID-19の流行が進むにつれ、テクノロジーは日常生活や医療システムにおいて、より大きな役割を果たすようになった。

「健康状態、及び地域保健プログラムを追跡するためのウェアラブル端末を開発すべきだ」とカクハール氏は語る。「そして、テレヘルス(遠隔医療)のようなリモート診療を改善し、強化すべきだ」

ブルッキングス・ドーハ・センターのデータによると、中東・北アフリカの国々に関連するCOVID-19による死亡者数は、パンデミック期間中、他の地域に比べ、総数においても、人口当たりにおいても低いレベルを維持していた。

この傾向は、これらの国々の人口が比較的若いことや、特に湾岸諸国では強固な医療制度が影響しているのかもしれない。

当初、人口100万人当たりの死亡者数が最も高かったのはレバノンとイラクだった。しかし、2020年6月までに湾岸諸国の一部で感染率が最も高い水準に達し、死亡数が増加した。

秋になると、湾岸諸国は中東地域で最も低い死亡率を報告した一方、イラク、ヨルダン、オマーン、チュニジアでは夏の終わりの第二波による死亡者数が顕著に増加した。

その後ウイルスの波が医療システムを逼迫させ、地域の多くの地域で死者数の急増に対処しているにもかかわらず、それでも湾岸諸国における累積死者数は低水準にとどまっている。

政府および関係者は、mRNAワクチン技術の可能性を活用することで、必要な時に、必要な新たなワクチンの開発を促進することが可能になる。(AFP)

この傾向は、特にヨルダン、レバノン、チュニジアにおいて顕著であり、2021年以降、死亡総数が大幅に増加した。

保健専門家たちは、パンデミックへの準備と対応において、より統合されたアプローチを望んでおり、それが富裕国と発展途上国間の公衆衛生の結果をより公平にすると信じている。

WEFで発表された、20数カ国の首脳による共同声明では「パンデミック条約」の基礎となる、政府と社会のあらゆるセクターを巻き込んだ、包括的な転換が呼びかけられた。

このようなアプローチは、将来のパンデミックに備えるための、国家、地域、および全世界の能力と回復力を強化することを目指している。

公衆衛生と国防の専門家は、次のパンデミックがCOVID-19よりもさらに大きな被害をもたらす可能性を懸念しているとファッキーニ博士は述べ、「生物学がもたらすものであれば、それが自然によるものであれ、工学的なものであれ、実験室の事故によるものであれ」備えることが各国に求められていると語った。

WHOは2017年、「Disease X」という用語を初めて導入した。クリミア・コンゴ出血熱、エボラ出血熱、ラッサ熱、ジカ熱(ジカウイルス感染症)、そして最初の「Disease X」とされるCOVID-19と並ぶ優先疾患について議論する際に使用された用語となる。

これらのウイルスは国際的な優先事項として位置づけられ、各国がその症状、蔓延、治療、予防接種に関する研究開発を強化する必要性が強調された。

COVID-19の出現以来、何百万人もの人々がワクチン接種を受け、症状の重症度が大幅に軽減され、生存率が向上した。(AFP/ファイル)

WHOの研究者たちは、次の「Disease X」は、すでにヒトに感染する能力を証明した約25のウイルスファミリーのいずれかに属する新たなウイルスによって引き起こされると予想している。

「次のパンデミック病原体は、コロナウイルスである必要は全くない。専門家たちは、哺乳類への感染増加、そして最近の、世界各地における複数の人間の症例から、さまざまな鳥インフルエンザ株を調査している」とファッキーニ医師は述べた。

COVID-19の出現以来、何百万人もの人々が予防接種を受け、症状の重篤度を大幅に軽減し、生存率を向上させてした。しかし、この特定のコロナウイルスに対する予防接種は、新たなコロナウイルスに対する防御を保証するものではない。

「コロナウイルスは、最近の数十年で最も致死的なアウトブレイクのいくつかを引き起こした」とファッキーニ医師は語った。

これらのウイルスは、一般的に動物宿主からヒトに感染し、致死的な呼吸器感染症を引き起こすものであり、今世紀に少なくとも3回確認されている。

次の「Disease X」に対して人々は保護されていないかもしれないが、政府や関係者は、必要に応じて新しいワクチンの開発を加速させるために、mRNAワクチン技術の潜在能力を活用することができる。

テドロス・アダノム・ゲブレイェソスWHO事務局長は今年のWEFで、将来の感染症発生に備えたイニシアティブをすでに開始していることを明らかにした。

専門家は、定期的な運動、健康的な体重の維持、喫煙を控えることが、病気にかかりにくくするのに役立つと提言している。(AFP/ファイル)

予防的な措置としては、パンデミック基金の設立、及び高所得国と低所得国間のワクチン格差に対処する一環として、南アフリカに「技術移転ハブ」を設立することなどが挙げられている。

さらに、ゲブレイェスス氏は、不可避の将来のアウトブレイクに対し、世界がよりよく備えることができるよう、WHOのパンデミック条約に署名するよう各国に呼びかけた。

「パンデミック合意は、私たちが直面したすべての経験、すべての課題、そしてすべての解決策をひとつにまとめることができる」と彼は語った。

潜在的なアウトブレイクを効果的に対処する能力に関して、ファッキーニ博士は、動物および人間の集団における、発症の可能性のある病気の早期検出、監視、及びモニタリングの重要性を強調した。

「新しいワクチンの研究開発への投資、グローバルな協力、一般市民の意識向上、教育はすべて、次のパンデミックを食い止めるために貢献するだろう」と彼は語った。

世界保健の専門家たちは、各国政府に次のパンデミックに備えるよう呼びかけている。(AFP/ファイル)

また、ファッキーニ博士によれば、個人が健康のあらゆる側面をコントロールすることはできないが、個人の健康を最大化するための基本的なステップを踏むことは可能だという。

これらには、定期的な運動、健康的な体重の維持、喫煙や他の疾病にかかりやすくなる悪習慣を控えることが含まれる。

「パンデミックから学んだ教訓の1つは、条件の悪い人々がより悪い結果を招くということだった」とファッキーニ医師は語った。「健康状態の悪い人ほど、入院に関する費用の負担が大きいのだ」

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