ロンドン:先週、シリアの首都ダマスカスにある、イラン大使館をイスラエルが空爆した疑いに対し、世界は固唾をのんでイランが宣言した報復を懸念している。報復がどのような形であれ、全面戦争の引き金になりかねないとの懸念が高まっている。
4月1日の攻撃では、イスラム革命防衛隊、治外法権のコッズ部隊2人の上級司令官、モハマド・レザ・ザヘディ氏と副司令官モハマド・ハディ・ハジ・ラヒミ氏を含む少なくとも16人が死亡したと伝えられている。
空爆の翌日、イランのイブラヒム・ライシ大統領は、この空爆には 「必ず報復がある」 と宣言した。その5日後、イランの最高指導者ハメネイ師の上級顧問であるヤヒヤ・ラヒム・サファヴィ氏は、イスラエルの大使館は 「もはや安全ではない 」と警告した。
イスラエルは攻撃への関与を肯定も否定もしていないが、米国防総省のサブリナ・シン報道官は、アメリカはイスラエルに否がある、と評価していると述べた。
中東の専門家たちは、イランが宣言した報復は、様々な形で行われる可能性があり、レバノンのヒズボラなど、この地域にいるIRGCの親イラン武装組織を通じて、ミサイル攻撃を行う可能性もあると考えている。
「報復は避けられないようだ。しかし、どのような形で報復されるかは誰にもわからないです」と、国際紛争に関するシンクタンク「国際危機グループ」のイラン担当アナリスト、アリ・バエズ氏はアラブニュースに語った。
イスラエル大使館への攻撃は「ダマスカスでの攻撃と、同レベルになるでしょう」とバエズ氏は語った。
イスラエルは先手を打ったようだ。エルサレム・ポスト紙によれば、イスラエルは防空態勢を強化し、予備役を招集しただけでなく、金曜に世界103の在外公館のうち28を閉鎖し、大使館や公館周辺の警備を強化した。
中東を専門とする政治アナリスト、エヴァ・J・クーロウリオティス氏は、今回の攻撃は「異例」であり、特に「複雑で微妙な時期」であることを強調し、「イランは報復するしかない」と考えている。
彼女はアラブニュースに語った「ダマスカスのイラン大使館空爆で、ザヘディ司令官とその他の高官を暗殺したイスラエルは、大使館外、シリア・レバノン国境のマスナ検問所、あるいはベイルート南部郊外の事務所でも暗殺することができたはずです」
「しかし、イスラエル指導部がイラン大使の住居でもあるこの場所を選んだことは、ハメネイ師と、IRGCに直接向けられた挑発のメッセージででしょう」とクーロウリオティス氏はイスラエル大使館への攻撃の可能性を否定しなかった。
「昨年12月、ニューデリーのイスラエル大使館付近で爆発が起きましたが、死傷者は出なかったです。イスラエル国内では、この爆破事件にはイランが関与しているとの見方があります。したがって、私の考えでは、イランは今後、大使館空爆の責任を追及することなく、同レベルの報復をするでしょう。しかし、複雑で微妙な時期であるため、直接的な報復にはならないでしょう」と同氏は続けた。
とはいえ、同氏は「イランの報復は、一方では抑止力のため、他方ではイラン政権を支持する国民を納得させるために避けられない」とし、「そして、イランが在外イスラエル公館を公然と直接攻撃することは、イスラエルだけでなく、在外国との危険な衝突も避けられません」と述べた。
ワシントン近東政策研究所の特別研究員で、メリーランド大学の元研究員であるフィリップ・スマイス氏は、イスラエル大使館に関する、ハメネイ師やサファヴィ顧問の声明は「確実な脅威」だが、「問題は、イランや親イラン武装勢力が、報復を実行できるかどうかだ」と考えている。
彼は「インドやタイなど、レバノンのヒズボラが関与した他の作戦は失敗した。この種の作戦には、多くの諜報機関からの圧力もある」とアラブニュースに語った。
「国際危機グループ」のバエズ氏も、「イランにとって、針に糸を通すように、報復は非常に難しいでしょう」と同意する。
同氏は「イランは、戦争拡大を正当化するようなイスラエルの罠にははまりたくないが、イスラエルが、イランの外交施設を標的とするのも、断じて許されないと考えているでしょう」と語った。
親イラン武装政策に関する専門家であるスマイス氏は、イランが以前イラクの米軍やクルド人居住区を標的にしたように、弾道ミサイルを使用するような、従来の直接的な報復は、「イスラエルの、更なる攻撃を誘発する可能性がある」という点で同意した。
2020年イランは、米軍による、バグダッド空港でのコッズ部隊司令官、カセム・ソレイマニ氏の暗殺という、前代未聞の直接攻撃に報復じ、イラクのアイン・アル・アサド空軍基地に弾道ミサイルを乱射した。
イスラエルによる、イラン大使館空爆以来、米国は厳戒態勢を敷き、予測不可能なイランの「避けられない」報復に備えている、と米政権高官は5日、CNNに語った。
イスラエルの最大の同盟国であるアメリカは、攻撃への関与や事前告知を否定し、アメリカに対して報復しないよう警告した。
国連のロバート・ウッド代理大使は、声明の中で「われわれは躊躇することなく自国民を守る。イランと親イラン武装勢力に対し、イラン大使館空爆(米国は関与したわけでも、事前告知もなかった攻撃)に乗じて、米軍への攻撃を再開しないよう、事前の警告を繰り返す」と述べた。
中東の米軍、特にイラクとシリアに駐留する米軍は、イラン親イラン武装勢力により、たびたび標的になってきた。
スマイス氏は、イランは「中東全体に広がる親イラン武装勢力」を利用するかもしれないと述べた。レバノンのヒズボラ、イラクのカタイブ・ヒズボラ、シリアの民兵組織、イエメンのフーシ派などである。
ヒズボラは金曜、イスラエルと戦争する「完全な準備ができている」と発表した。
エルサレム・デーを記念した演説で、ヒズボラのハッサン・ナスララ氏は、4月1日の空爆を「転換点」と表現し、イランの報復は「避けられない」と述べた。
中東アナリストのクーロウリオティス氏は、最も可能性の高い報復シナリオは、イランが「レバノンのヒズボラに、イスラエル北部の多くの都市(その中でも最も重要なのはハイファ)に対する激しいミサイル攻撃を行う許可を与える」ことだと述べた。
しかし、「このシナリオは複雑で、ガザのハマスに続き、イランがレバノンでの基盤を失うことになる、ヒズボラとの拡大戦争の幕開けにつながるかもしれない」と続けた。
イランはまた、シリアの多国籍民兵に命じて、ゴランにあるイスラエルの軍事基地をミサイル攻撃させるかもしれない。
「ロシアは、シリアをイスラエルとの直接紛争に巻き込むことに同意しないかもしれない。そうなれば、イランは、シリアにおける14年間の戦争の努力を無駄にすることになり、アサド大統領は大きな代償を払うことになるかもしれない」と同氏は続けた。
イランはシリアの大使館空爆を「この地域における自国の威信を狙った」直接的な攻撃と考えているため、弾道ミサイルや自爆ドローンを使った、イスラエルへの報復を選択する可能性があり「ゴラン高原はこの対応に適しているかもしれない」とクーロウリオティス氏は述べた。
「イスラエルの報復と結びついたこのシナリオは複雑で、さらなるエスカレーションにつながる可能性があるにもかかわらず、イラン政権の面目を保ち、大使館空爆を容認しない、というメッセージをイスラエルに送ることになる」と同氏は続けた。
ワシントン近東政策研究所のスマイス氏は、「親イラン武装勢力、あるいはイラン自身による新たな兵器能力を示す(より壮大な)報復があるかもしれない」としながらも、イランの報復は、紅海でのフーシ派による船舶攻撃と似たような形をとるかもしれないと考えている。
「既に、フーシ派を利用して紅海を準封鎖することで、イスラエルに経済的な損害を与えようとしている」とスマイス氏は述べた。
一方、中東全域では、イランの報復に不安を募らせながら、その矛先が自分たちに向けられるかどうか待つしかない。
実際、「もし」ではなく「いつ」の問題なのだ。
「報復の遅れは、主にイランとアメリカの間接的な交渉に関係しています」とクーロウリオティス氏は述べ「イランの報復が戦争拡大や、この地域のより危険な紛争の悪化につながらないようにするためです」と続けた。