

ジャカルタ:神聖な断食の月であるラマダンを目前に控え、イスラム世界は新型コロナウイルスのパンデミックという折の悪いパラドックスに立ち向かっている。社交や人との触れ合いがほとんど神聖とまでされる時期に、人と人との距離を強制的に離さなければいけないのだ。
イスラム暦で最も聖なる断食月は、家族や一体感の月であり、コミュニティ、内省、慈善、祈りの月でもある。
だが、セネガルから東南アジアに至るまで新型コロナによりモスクは閉鎖、夜間の外出は禁止、大規模な礼拝も禁止という状況のなか、約18億人のイスラム教徒は前例のないラマダンに直面している。
ラマダンを木曜日あるいはその前後に控え、パンデミックはイスラム教世界全体で新たなレベルの不安を生み出している。
アルジェでは、ヤミン・ハーメイクさん(67歳)は通常、イスラム教徒が断食する1か月の間、日没から日の出まで自宅に親戚や近所の人を招き、お茶や冷たい飲み物を出すことにしている。だが今年はそれも違ったものになるのではないかとハーメイクさんは心配する。
「人の家に行かないかもしれないし、人が家に来ることもないかもしれません」と涙ながらに言う。「誰もが新型コロナウイルスを恐れています。大切な客であっても、ウイルスを運んでくるのでは、と」
モスクが閉鎖されている国にいて、夫のモハメド・ジェモウディさん(73)は別のことを心配している。
「タラウィーなしのラマダンなんて想像することできません」と言う。断食を解く食事であるイフタール後にモスクで行われる特別な礼拝のことだ。
「私たちみんなが同じ船に乗っています。運命共同体なのです。一緒に取り組めば、安全に岸にたどり着くことができるのです。ラマダン期間中には多くの社会・社交活動が行われてきたものですが、今年は状況が違いますので、皆さんにはソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)を置かれますようお願いいたします」とサウジアラビアのタウフィーク・アル=ラビア保健相が月曜日にテレビ演説で述べた。
ヨルダンでは、政府が近隣アラブ諸国との連携の下でラマダンのどの儀式が許可されるかを概説するファトワ(宗教的布告)を発表することになっているが、何百万人というイスラム教徒はもうすでに今年のラマダンが例年とまったく違うものになると感じている。
アフリカからアジアに至るまで、新型コロナウイルスは暗い影を落とした。その影は真っ暗で先も見えない。
アルジェリアでは、レストランのオーナーたちが、店の閉鎖状態でどうやって貧しい人たちにイフタールを提供できるかを思案している。
セネガルでは、予定では限られた方法で慈善活動を続けるとされている。首都ダカールでは、「ンドグ」として貧しい人たちにチョコレートのスプレッドが塗られたバゲット、ケーキ、ナツメヤシ、砂糖、牛乳を配ることで知られる慈善団体が、今年はンドグを街頭ではなくコーラン学校に提供することにしている。
世界最大のイスラム人口を擁するインドネシアでは、今年は愛する人たちと遠くから会わなければいけない人たちも出てきている。
プラボボさん(苗字なし)は、ラマダン月の終わりを祝うイード・アル=フィトルを、故郷に帰らずにオンライン会議サイトのZOOMを介して主催しようと計画している。
「新型コロナウイルスは心配です」とプラボボさんは言う。「ですが、あらゆる種類の一体感が失われます。イフタールを一緒に行ったり、モスクで一緒に祈ったり、友達とのおしゃべりすらできないのです」
ロイター