ロンドン/ワシントン：一般公開されているウェブアーカイブおよび3人のサイバーセキュリティ研究者によると、この数週間、イランと関連のあるハッカーが、コロナウイルス治療薬の開発を急ぐ米国の製薬会社ギリアド・サイエンシズ社の社員を標的に攻撃を試みた。

悪意のあるウェブアドレスをスキャンするために使用されたウェブサイトのアーカイブ版によると、あるケースでは、4月にパスワードを盗むために設計された偽の電子メールログインページが法務・総務に関わるギリアドの幹部宛に送信された。ロイターは攻撃が成功したかどうか確認できていない。

イランのハッカー活動を綿密に追跡し攻撃を調査したイスラエルのサイバーセキュリティ企業ClearSky社の主任情報研究者オハド・ザイデンバーグは、この試みはイランのグループがジャーナリストになりすましたメッセージを使ってギリアド社員の電子メールアカウントを侵害する企みの一環だと語った。

その他2人のサイバーセキュリティ研究者は自らの分析について公に話す権限を与えられていないが、ハッキングの試みに使用されたウェブドメインとホスティングサーバーがイランとつながっていることを確認している。

イランの国連代表部は攻撃への関与を否定した。「イラン政府はサイバー戦争に関与していない」と報道官のアリレザ・ミリェシフィは述べた。「イランが行うサイバー活動は純粋に防御的なものであり、イランのインフラに対するさらなる攻撃から守るものである」

ギリアドの広報担当者はサイバーセキュリティ問題について議論しないという会社の方針を理由にコメントを控えた。ロイターはその試みが成功したかどうか、誰のために行われたものか、およびその動機について確認できていない。

それでもこのハッキングの試みは、世界中のサイバースパイが諜報活動において新型コロナウイルスが引き起こすCOVID-19感染症に関する情報収集に注力している様子を示している。

ロイターはここ数週間、イランとつながりのあるハッカーやその他グループが世界保健機関（WHO）に侵入を試み、ベトナムと関連のある攻撃者がコロナウイルスアウトブレイクへの対処をめぐって中国政府を標的にしたと報じている。

英国と米国は今週、国家の支援を受けたハッカーがこの新しい疾患の治療薬開発に取り組む製薬会社や研究機関を攻撃していると警告した。

共同声明では攻撃を受けた組織の名前は挙げられていないが、内情を知る2人の人物が標的の一社がギリアド社であると述べた。同社は、今のところコロナウイルス感染患者への効果が唯証明されている唯一の抗ウイルス薬レムデシビルの製造会社だ。

ギリアド社幹部の電子メールアカウントを侵害する目的で使用されたハッキングインフラは、以前Charming Kitten（「魅力的な子猫」の意味）の名で知られたイラン系ハッカーとみられる集団によるサイバー攻撃にて使用されていたものだと、ロイターが特定したウェブアーカイブを調べた米国のサイバーセキュリティ企業Recorded Future社の戦略的脅威開発ディレクター、プリシラ・モリウチ氏は言う。

「西側諸国の最先端の製薬企業社員のメールにアクセスするだけでも、イラン政府が治療薬を開発し、病気に対抗する上で有利となる」と米国国家安全保障局の元アナリスト、モリウチは語った。

イランはCOVID-19による深刻な被害を受けており、中東で最も多くの死者数を記録している。この病気はこれまでに世界中で26万人以上の死者を出し、政府、民間製薬会社、研究者の間で世界的な競争を引き起こしている。

ギリアドはその競争の最前線に立っており、3月と5月にはカリフォルニア州に拠点を置く同社のCEOダニエル・オデイがホワイトハウスでCOVID-19に関する仕事についてドナルド・トランプ米大統領と協議し、大統領から賞賛を受けている。

米国食品医薬品局は先週、ギリアド社のレムデシビルにCOVID-19感染症の重症患者に対する緊急使用許可を与え、米国各地のより多くの病院でより広範に使用されるための道を開いた。

ヨーロッパのあるバイオテクノロジー企業の役員によると業界は今「非常事態」にあり、例えばワクチンの臨床試験に関連するすべての作業をインターネットから隔離されたいわゆる「エアギャップ」のコンピュータで行うなどの方策をとり、COVID-19に関する研究を盗もうとする企みから防御するために通常以上に注意を払っていると語った。

ロイター