




デビッド・ロマーノ
米国ミズーリ州:過去10日間、トルコとイランはイラク北部のクルド自治区を標的として連携攻撃とみられる一連の空爆と集中砲撃を行っている。
今回の攻撃には、クルディスタン労働者党(PKK)の過激派が引き続き活動しているイラクとトルコの国境地帯、イラクとシリアの国境シンジャル付近のヤジディー地区、PKKとその他のクルド人反体制派グループがいるイラクとイランの国境地帯も含まれていた。
ここでは国際法が大変限定的に適用されているようだ。トルコとイランの両国は、イラク領クルディスタンから侵略してくるクルド人組織に対する正当防衛だと主張している。
特にトルコは、トルコ軍が占拠しているシリア北部の主なクルド自治区に対する、最近の一連の爆撃に関してPKKを非難している。
対照的に、イラク、サウジアラビア、UAEは、今回の攻撃は明らかにイラクに対する領有権侵害だと見ている。アラブ人の観点では、トルコとイランがイラクのムスタファ・アル・カディミ新首相に対し、この地域の実権を握っているのは誰かを思い知らせるために厚かましくも力を誇示している。
イラク政府とイラクのクルディスタン地域政府はこの攻撃に対し何もできないほど弱った状態にあり、世界の他の国々はこの問題について沈黙しているように見える。
[caption id="attachment_16991" align="alignnone" width="500"]トルコの特殊部隊が国境地帯に空輸されそこで地上作戦を展開した。トルコはまた自国とイラクの国境地帯だけでなく、初めてイラクとイランの国境地帯ハジ・オムラン周辺で、クルド人攻撃のため空軍を用いているとみられる。
イランの砲撃には慣れていたが、ハジ・オムランは今月までトルコから狙われたことは一度もなかった。同様にイランも、その砲口をイラン・クルド党に対してだけでなく、トルコの大敵であり続けてきたPKKに向けているようである。
トルコとイラクの国境付近にあるドホーク地区では、少なくとも4人の民間人が砲撃の犠牲になったと報告される一方で、イラクとイランの国境から他の犠牲者の報告も徐々に伝わっている。
トルコの軍当局は、150ほどの様々なPKKの標的を砲撃した際に死亡したのは多くのPKK戦闘員であり、民間人ではないと主張する声明を発表した。
アルビルを拠点とする報道機関ルダウによれば、シダカン地区だけで264の村のうち「トルコによる空爆とPKKおよびその他のクルド反体制組織のゲリラを標的にしたイランによる砲撃のため、118の村が無人になっている。」
今回の攻撃に対しイラク領クルディスタンは怒りをあらわにし、バグダッドの当局は今回の攻撃に関しトルコとイランの両国に抗議を申し立てた。とはいえ中東の地域では、権威主義的な指導者は「勝てば官軍」の原則に沿って軍事行動を遂行する。
トルコはイラク、シリア、キプロス、そして今ではリビアにおいてさえも定期的な軍事行動を展開しており、特にこの周辺地域を重視している。
トルコ政府はいつでもどこでも望むがまま強引に行動する、とでも言いたげであり、同国の海軍艦艇は今や地中海のガス鉱床をめぐり瀬戸際政策を推し進めている。
国際法の曖昧さにもかかわらず、イラクへの砲撃はその地域に住む不幸な民間人に危害を加える以外には何も達成しそうにない。
トルコとイランは過去30年にわたり山深いイラクとクルド人の国境地域を攻撃しており、両国の国家主義者の感情を国内でなだめる以上のこれといった成果を得てはいない。
トルコもイランも、ましてイラクのクルド当局も、このような山岳地帯からPKKおよび様々なイラン系クルド人の反体制勢力を排除することはできない。反体制グループが空爆と砲撃の結果として突如降伏し軍事行動を停止することはない。
その間、地元のクルド人農民や羊飼いはこの紛争の集中砲火にさらされて苦しむ。難題を抱え貧困状態にあるクルド人たちは、この状況下で励ましの言葉以上の支援を必要としているが、国際社会からはほとんど期待できないようだ。
特にドナルド・トランプ米大統領は、クルド反体制グループに対するこれらの攻撃にほとんど関心を示さなかった。米国防総省の多くはクルド人との密接な関係を評価しているが、米国の政策決定において彼らが果たす役割は限定的であり、その事実は最近、トランプ大統領の元補佐官で国家安全保障を担当していたジョン・ボルトン氏のホワイトハウス回想録「The Room Where It Happened」により裏付けられた。
昨年、米国国務省内の有力な発言者たちでさえ、イランけん制の手段としてトルコとのより緊密な協力関係に賛同した。これが、2019年10月にトランプ大統領がシリアのクルド人グループを裏切りトルコの猛攻にさらした際、同大統領の論理の一部となった可能性が高い。
この地域に詳しいほとんどの観察者には、イランをけん制するためにトルコと提携するという概念全体がひどく馬鹿げているように思える。トルコとイランはしばしば同盟国として振る舞う。トルコの当局者とビジネス界のリーダーたちはイランが制裁を回避するよう何年も支援し、今でさえトルコ政府はイランに対する米国の新たな制裁に反対している。
トルコとイラン間にある国境で緊張が高まったという報告は聞いたことがない。両国はまたロシア政府からより一層恩恵を受けているように見える。先週アラブ世界が目にしたように、トルコとイランはクルド人の標的に対する共同軍事作戦で緊密に協力し合ったのである。
シリア内戦において別々の陣営を支援した点や、(イランがほぼ勝利した)イラクに対する影響力の競争など、両政府の間にはわずかな相違点が残るのみである。
こうした相違点は、両国における宗教の役割の増加から、米国と欧米に対する反感の共有に至るまで、双方が非常に多くの共通点を持つ関係の中で簡単に処理できる。
[caption id="attachment_16992" align="alignnone" width="500"]2002年より以前、トルコが異なる政権下にあったとき、トルコはイランの拡張主義に対する防波堤だと合理的に考えられていた。今日では対照的に、両国はむしろ戦友のようであり、片手間に少し友好的な競争を行っている。
イランとトルコの関係において今も昔も同様に当てはまるのは、両国ともこの地域におけるクルド人政府の政治的利益に反対していることだ。トルコの反クルド的姿勢はより率直に表明されるが、イランはおそらくそれほど強硬ではない。
両国とも、自国のクルド人がいかなる形態の自治あるいは政治的および社会的改善を求めることを望んでおらず、それゆえ近隣諸国のクルド人グループに対する攻撃を正当化している。
例として、2017年10月にイラクのクルド人が独立を問う住民投票を実施した際、両政府が同時に反対の声を上げてもほとんど問題にはならなかった。
対照的に、アラブ世界の多くでは、クルド人に関する考え方が進歩しているようである。アラブ世界で、イラクやシリアからのクルド人独立に賛同する人はほとんどいないとはいえ、クルド人の政治的利益の見通しはアラブ世界にとって以前ほど受け入れ難いものではなくなった。
イラク領クルディスタンに対する最近のトルコとイランの攻撃の期間中、イラクおよびクルド人のために声を上げたのはアラブ世界だけだった。