
アラブニュース
ロンドン:アルジャジーラ・アラビア語局は今月、サウジアラビアやアラブ首長国連邦の罪のない一般市民の殺害を奨励する発言を放送したことで、プロ意識に欠けるとして非難されている。あるニュース解説者などはこれを「宣戦布告」とまで呼んでいる。
カタールのニュース専門局であるアルジャジーラで8月9日に司会者が、失脚した元イエメン大統領アリ・アブドゥラ・サレハ氏の甥がサウジやUAEの空港を標的にするよう民兵組織に呼びかけた発言を、そのまま繰り返して伝えたのだ。
この発言は、イエメンで内戦が進行するなかで発せられた。政府派治安部隊やイエメン合法政府を支持するサウジアラビア主導の連合軍と、フーシ派民兵組織やサレハ氏に忠誠を誓う者たちとの間で起きている内戦だ。
アルジャジーラの司会者は放送で次のように述べた。「失脚したイエメン大統領の甥であるヤヒヤ・モハメッド・アブドゥラ・サレハ氏は、イエメンのサヌア空港が引き続き閉鎖されているのを受け、フーシ派民兵組織とサレハ氏の部隊に対してサウジアラビアやアラブ首長国連邦の空港を標的にするよう呼び掛けました」
「サレハ氏の甥である彼はテレビのインタビューで、彼が言うところの「イエメン軍」がサヌア空港を再開させるには、現場の状況からみてリヤド、ジッダ、アブダビ、ドバイのすべての空港を軍事区域として宣言することが必須だと述べました」
その発言が非常に物議を醸す類のものであり、SNS上では多くの人々がこれに対して異議を唱えているにも関わらず、この事件は国際メディアからは見過ごされているようにみえる。
アルマスリ・アルイオウム・メディアグループの経験豊富な幹部であり業務執行取締役であるエジプト人ジャーナリストのアブデラティフ・エル・メナウィ氏は、アルジャジーラはこのコメントを不問のままにしており、深刻なプロ意識の欠如を示していると述べた。
「『プロ意識』を標榜するテレビ局が、宣戦布告のような挑発的発言を、他の意見を紹介してバランスをとることもせずに放送するのはおかしなことです」と彼はアラブニュースに語った。
解説者たちは、アルジャジーラ・アラビア語局と英語局との間で報道のトーンが大きく違うと指摘してきた。この見解は、カタールが過激派組織を支援しているとされることに関して、カタールと、反テロ主義の4カ国であるサウジアラビア、UAE、バーレーン、エジプトとの間に外交的不和が起きて以来言われていることだ。
アルジャジーラの英語局は概ねジャーナリズムの基準やバランスを保っているいっぽうで、アラビア語版の姉妹局はカタール政府の外交政策を偏向的に支持しているとの指摘があった。今回このような発言がアラビア語局だけで取り上げられたという事実は、そうした意見を裏付けるものだと多くの批判者たちはいう。
ヤヒヤ・モハメッド・アブドゥラ・サレハ氏の扇動的な発言は、アルジャジーラの英語局では伝えられておらず、2つの局の放送アジェンダが異なっていることが露見したとエル・メナウィ氏は指摘した。
「これは局の運営担当者たちが大衆を熟知しているということです」と彼は述べた。
アルジャジーラはアラビア語局では視聴者に特定のメッセージを報道するいっぽうで、国際的な監視に晒されることになる英語版ではそれを報道しないでいるのだとエル・メナウィ氏は述べた。アラブニュースはアルジャジーラに対していくつかコメントを求めているが、返事は得られていない。
しかしながら、今回の件はサウジアラビアとアラブ首長国連邦の空港における明白な一般人への攻撃を含むものであるにも関わらず、今回のアルジャジーラ・アラビア語版に対する非難は国際メディアでは報道されていない。
これは、別の湾岸テレビ局であるアル・アラビーヤ・ニュース放送局が、非常によく似た理由で最近注目の的となったのとは対照的だ。
アル・アラビーヤは最近、一見すると戦闘機が民間機に向けてミサイルを発射したところを映しているようなシミュレーション動画を放映した。ロンドンを拠点とするオンライン紙のインディペンデントによれば、視聴者のなかにはこれを「非常に扇動的」と捉えた人々もいた。
しかしアル・アラビーヤは、インディペンデントの記事は「誤解を招くもの」であるとし、このアニメが「サウジの戦闘機がカタールの民間機を撃ち落とす」ところを描いていると主張するこの記事は「完全に文脈を無視して」取り上げていると述べた。
「インディペンデントは、アニメの異なる部分をつなげて説明描写しており、誤解を与えるものだ」とアル・アラビーヤは8月19日の記事で述べた。
「この記事は、戦闘機が無許可の空域からカタール機を強制的に立ち退かせている場面と、国際法が国に対して敵機の攻撃をどのように認めているかを説明する別の場面とをつなぎ合わせている」
「アル・アラビーヤがアニメの中で航空機に区別をつけていることに記事は留意していない。2つ目の場面では、明らかに戦闘機はロゴのついていない航空機を追尾している」
「インディペンデントはまた、サウジ当局がカタール機に対して必要があれば緊急ルートの使用を許可していることを見落としている」
多くの解説者たちは、カタールの放送局であるアルジャジーラのアラビア語放送と英語放送の編集路線の違いを指摘している。
1996年の開局から長年アルジャジーラは、米国ではテロリズムに機会を与える報道局だと噂されてきた。
米国での2001年9月11日のテロ攻撃後にアルジャジーラ・アラビア語局は、アルカイダの動画メッセージを積極的に放映したことや、反米バイアスが感じられることなどから、オサマ・ビン・ラディンの「代弁者」であると非難された。
アルジャジーラ・アラビア語版は今でも対テロリズムの戦いにおいては「逆効果的な影響力」をもつと、外交政策と国家安全保障に着目した非営利・無党派の政策研究所である民主主義防衛財団のデイビッド・ワインバーグ上級研究員はいう。
ワインバーグ氏は6月にアラブニュースに対して次のように述べた。「アルジャジーラは、テロリストであってもイスラエル人を殺害しようとしていたのであれば常に殉教者として称えます。武装部隊ではなく、一般のイスラエル民間人の殺害を試みた者であってもです」
「アルジャジーラは、ハマスやイスラム聖戦といったイランを後ろ盾とする過激派集団を極端に支持する放映時間をとっています。彼らのプロパガンダを疑問を挟むことなく放映し、彼らの戦闘員たちを『殉教者』の死亡リストに入れています。しかしアルジャジーラの視点では、ユダヤ人は決して『殉教』しないのです。ユダヤ人たちは単に『殺害された』となるだけです」