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活動家への殺害行為絶えぬイラク 身近な恐怖におののく

カルバラーの反政府抗議集会でデモ参加者の1人が催涙ガス弾を指にはめてVサインを示している。(AFP)
カルバラーの反政府抗議集会でデモ参加者の1人が催涙ガス弾を指にはめてVサインを示している。(AFP)
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22 Aug 2020 03:08:48 GMT9
22 Aug 2020 03:08:48 GMT9
  • 犠牲者の数、絶えず――近年イラクでは、何十人という活動家らが殺害されている。2018年、バスラの公衆衛生が危殆に瀕したときにも流血の抗議活動が起き、10万人以上が入院する沙汰となっている

【バスラ】この1週間たらずの間にイラク南部では2人の活動家が暗殺され、辛くも殺害から逃れた者も3人、といった状況下にある。親イラングループと欧米寄りの政権の間で緊張が高まった結果、犠牲者が次々と出ているのだ。

犠牲者の一人は運動競技のコーチだったリーハーム・ヤークーブさん(29)。反政府抗議活動に深く関わっており、19日南部のバスラで射殺された。

バスラではその5日前にも、活動家のタフスィーン・アッ=シャフマーニー氏が20発以上の銃弾を受け死亡している。

7月には政府のアドバイザーを務めるとともに歴史家としても広く国民の敬愛を受けていたヒシャーム・アル=ハーシミー氏がバグダッドで殺害され、イラクの市民社会に動揺が広がった。特定の相手を狙っておこなわれるこうした一連の暗殺は市民社会の肝胆を寒からしめている。

「政府も治安部隊も何もしてはくれない。殺人をおこなっているのが誰なのか、みなわかっているんだ……。リーハームもタフスィーンもヒシャーム・アル=ハーシミーもみなやつらに殺されたんだ」。よく知られた活動家のアンマール・アル=ヒルフィー氏はそう言う。

犠牲者の数は数えきれない。近年イラクでは、何十人という活動家らが殺害されている。2018年、バスラの公衆衛生が危殆に瀕したときにも流血の抗議活動が起き、10万人以上が入院する沙汰となっている。

同年10月には、腐敗し無能で隣国イランの庇護下にあるとみられていた政府への大規模反対集会がバグダッドと南部で火を噴いた。この抗議活動にからんだ暴行による死者は600人近くに上り、中には集会場から自宅まで歩いて帰宅中に射殺されたという人もいた。

その他、誘拐された者、襲撃を受けた者、脅迫された者もいた。

17日にはバスラで活動する3人の活動家、ルーディヤー・リームーン氏、ファハド・アッ=ズバイディー氏、アッバース・アッ=スブヒー氏がシャフマーニー氏宅まで弔問に訪れる途中で、武装した男たちが多数乗り込んだ車両から銃撃を受けている。

3人は負傷したものの何とか逃げのびた。受けた衝撃は大きいが一命は取り留めた。

突如として暴力が横行しはじめたことに、バスラの活動家らの間では動揺が広がっている。

「8月の1か月の間に暗殺ないし暗殺未遂は6件起きている」。そう語るのは、バスラ人権評議会の代表を務めるミフディー・アッ=タミーミー氏だ。

タミーミー氏はAFPの取材に対し、昨年1年間では同様の暗殺事件が8件、未遂は7件を数えた、としている。
バスラは原油には事欠かないが社会インフラは脆弱だ。電気・水道や道路事情はイラク国内でも保守管理が最悪の部類に入る。法の支配も確乎としているとはいえない。

2018年のバスラでの抗議活動を通じて、ヤークーブさんはメディアに登場するなどして声を上げはじめていた。彼女の故地では女性の公的な役割には限界があるにもかかわらずだ。

彼女は2年前には、米国の駐バスラ領事と面会したとして、ネット上で中傷キャンペーンを張られている。

今週に入ってネット上の複数アカウントがメフル通信の2018年の記事を再掲するという動きを始めている。メフル通信はイランの通信社で、イラン政府の超保守派に近い。そこではヤークーブさんなどの活動家らが「中東でのイランの活動を封じる目的で米国人が構築したネットワーク」に所属しているとして難じられている。

その他活動家、ジャーナリスト、研究者なども、西側の外交筋や情報筋との関わりがあると難じる中傷キャンペーンを張られている。

こうした一連のキャンペーンや殺害行為に加担していると主張するグループはなく、当局も特定のグループの責任を問うという考えをいまだ示していない。
が、イランやイラク国内の親イラン派を支持する姿勢を隠していないネット上のアカウントによる活動家らへの脅しはますます大胆となっている。

国連や西側の外交筋の非難の矛先は「民兵」だ。イラク政府に対しては言論の自由を十全に守るよう促している。

ヤークーブさんの殺害を受け、米国務省は、「こうしたむごたらしい行為の実行犯らがなんら罪を問われることなく活動を続けていることは良心に照らし容認できない」としている。

ヤークーブさんが殺害された時期にはちょうど、ワシントンでは米外交トップのマイク・ポンペオ国務長官がイラク外相フアード・フセイン氏と対談していた。イラク政府が米国へ政府要員を送りこんだのは数年ぶりのことだった。

訪米団トップはムスタファー・アル=カージミー首相だった。国内で国軍から独立して自由に振る舞う強力なイラン支援グループの抑制、という公約実現に同首相は苦慮しているところだ。

カージミー氏はすでに、親イラングループから公然と、米国の「傀儡」だとして難詰されている。このグループの一員らは、米国国旗を燃やしたり、首相の肖像を踏みつけたりなどといった行為にも及んでいる。

カージミー氏は5月に首相に就任するとすぐに、バスラ市内のある武装グループの拠点群の閉鎖を命じた。にもかかわらず、活動家らを黙らせようとする動きに陰りは見えない。

カージミー政権が国家統制を広げようとする動きへの反動として、「暗殺の恐れ」も疑われる、と先月にはイラク政府高官が語っている。

カージミー氏はヤークーブさんの暗殺を受けてバスラ警察トップの解任を発表した。また、ウスマーン・アル=ガーニミー内相をバスラ現地へ送り治安維持に当たらせるむねも公言している。とはいえ、バスラの市民社会が安堵しているわけでもない。「民兵に比べれば政府は脆弱ですからね」とヒルフィー氏は言う。

「こんなことがあっても、われわれの決意はますます固まるだけだ。自分たちの人権を訴えるだけではない。今後は、犠牲になった者たちの人権についても訴えていく」

AFP

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