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天然ガス資源に恵まれた東地中海 トルコが武断主義かざし荒海へ

トルコ国防省が2020年8月12日に配布した資料写真。地球深部探査船「オルチ・レイス」号(中央)と、同船を護衛するトルコ海軍の船舶群。アンタルヤ市沖の東地中海。2020年8月10日付。(AFP)
トルコ国防省が2020年8月12日に配布した資料写真。地球深部探査船「オルチ・レイス」号(中央)と、同船を護衛するトルコ海軍の船舶群。アンタルヤ市沖の東地中海。2020年8月10日付。(AFP)
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12 Sep 2020 08:09:17 GMT9
12 Sep 2020 08:09:17 GMT9
  • トルコが多くの国々との間で抱える緊張関係の緩和に向け、マイク・ポンペオ米国務長官がキプロス訪問へ
  • 数十年続くキプロスへの武器禁輸措置、逆効果と見る向き多く 米国の一部解除でトルコが激怒

アルナーブ・ニール・セングプタ

【ドバイ】今は昔、学者出身の外相が案出し、のちに近隣諸国との「ゼロ・プロブレム」外交として知られるようになる外交政策を追い求めていた時期が、トルコにもあった。

国家の興亡に照らせば10年などはごくわずかな年月にすぎないとはいえ、それでもいまのトルコの外交政策といっては、かつて2010年にアフメト・ダヴトオール外相が策定したその政策と似ても似つかぬものとなり果てている。

元外相が仕えたレジェップ・タイイップ・エルドアン氏がいま追い求めているのは「ゼロ・プロブレム」どころではない。「ゼロ・フレンド」、「プロブレム以外ゼロ」「プロブレムなき近隣諸国はゼロ」などともさまざまに称されているとおりだ。

このような政策を取りつづけたがためについに、米国のマイク・ポンペオ国務長官が地中海の分断国家・島国キプロスを訪れることになった。トルコ政府がのべつ増やしつづけている近隣諸国との問題の一端でも解決したいとの意図だ。

「われわれとしては将来的な真の対話を望む。また、そうした対話が取り持たれるべく、当地の軍事資産の撤収も望む」。カタールへの機上でポンペオ氏はそう記者団に語っている。

ポンペオ氏の言う軍事資産とは主としてトルコおよびギリシャに帰着するものだ。が、多くの国々がひとしなみにトルコに厳しい視線を注ぐのは、砲艦外交をバックにしてエネルギー資源の略奪行為を野放図に働くトルコの姿勢だ。

トルコは1974年以来キプロスの3分の1に当たる地域を占領統治している。ギリシャ政府の意を受けた軍指導者らによりもくろまれたクーデターを受け、北部地域に侵攻したことに端を発する。目下トルコは、NATO加盟国同士でありながらギリシャ・キプロスの2国を同時に相手にした紛争のただなかにある。海洋境界や天然ガス採掘権をめぐりいさかいを起こしているのだ。

トルコは、ありとある軍需産品需要にかちりと嚙み合う国内の軍需産業への投資を進めており、これが大国を志向してやまないトルコの熱意をたきつけている形だ。こうした軍需品は、軍艦に潜水艦に、フリゲート艦に戦闘ヘリに、武装ドローンに軽空母にと、およそ一切合切といえる。

現在トルコは数か月にわたり、ギリシャが領海と主張する東地中海の海域で天然ガスおよび原油の埋蔵調査をおこなっている。8月にトルコが軍のフリゲート艦をともなわせて調査船を派遣すると、ギリシャはこれに呼応して海上軍事訓練をおこない、威嚇射撃をしている。

やはり8月にはトルコの軍用船とギリシャ海軍艦とが小規模な衝突を起こした。そのときには、1996年にエーゲ海上の2つの島嶼をめぐりあわや戦争の瀬戸際にまだいたったとき以来絶えて見られなかったほどの激しい緊張が走った。

トルコとギリシャは地中海の領海をめぐりそれぞれが海事演習おこなってその主張を強めている。このことからEUはトルコに対し、緊張緩和に動かなければ制裁が科されると申し入れている。

米国のドナルド・トランプ政権は、何十年と続いてきた対キプロス武器禁輸措置の一時的な解除に踏み切り、攻勢を強めた。この措置は、キプロス再統合の助長を目的に1987年に取られたものだが、その戦略的な影響は逆効果と見る向きが多かった。ともあれ米側は10月1日より、1年にわたってキプロスに対する「殺傷能力なき防衛物資および防衛用役」の販売ないし移転について従来の遮断措置を解くこととなる。

ポーランド国際問題研究所のアナリスト、カロル・ヴァシレフスキ氏はアラブニュースの取材に対し、今回の米国の決定はトルコ側から見れば公正な仲裁者としての地歩をなみしたものに映る、と答えている。

「米側はギリシャ側に対し前提条件なしにトルコとの交渉を始めさせられるようなアメなどは与えられない。なので、ポンペオ氏が平和的な問題解消を支持し、緊張緩和に向けて動いているドイツの取り組みを称讃したのは確かによいことだ。が、米国には大した影響力がない。そこが問題だ」と同氏は語る。

エルドアン氏は地政学的な緊張を高めることで、民族主義的な右派層、ことに保守的な若者層の間で失われつつある政権への支持に対処できるツールをさらに手にすることができる。このようにみているアナリストは多い。

さらに言えば、エルドアン氏は権威主義的な指導者の姿を示してキプロス・ギリシャとのいさかいに強権的に対することをアピールすることにより、経済成長の鈍化や高い失業率、安定しない通貨、新型コロナウイルス感染症の感染拡大といった問題から注意をそらせる。これが多くのアナリストの見解だ。

エルドアン氏が論理的整合性などあらばこその汎イスラム主義的な情熱なりネオ・オスマン帝国的な世界観のままこのまま突き進むことになれば、スンニ派アラブ諸国とはいずれ衝突は避けられない。

アンカラのベシュテペ人民コンベンション・文化センターで新設の「トルコ保険」発足式に臨みスピーチをおこなうトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領。2020年9月7日。(AFP)

エジプトのサーミフ・シュクリー外相は先におこなわれたアラブ連盟閣僚会合の場で演説し、トルコがリビアやシリアやイラクに軍事的に関与することは地域の安全保障と安定への脅威であり、共同歩調を取るよう訴えた。

報道によればトルコはこの7月にリビア国内に2万5,000人の傭兵を送りこんでいる。その内訳は、シリアの武装勢力1万7,000人に加え、チュニジアやスーダンなどの国籍をもつ外国人傭兵2,500人などであるという。

トルコはさらに東地中海の天然ガス田の探査にも乗り出し、世界の耳目を集める沙汰になっている。こうした海底ガス田については、トルコのほか、キプロス、エジプト、ギリシャ、イスラエルもその権益を主張しているところだ。

この海域の資源供給源としての可能性については、先にもイスラエルやキプロスやエジブトの沖合で発見が相次いでいることもあり、注目を浴びている。特に2015年にはエジプトの沖合で巨大ガス田発見の報があり、こうした国々の間では欧州へのエネルギー資源供給元となる夢も募っているところだ。

トルコがギリシャやキプロスとは言うに及ばず、EUやエジプト、イスラエル、UAEともますます関係を悪化させているなか、新たなエネルギー源の発見はこれら国々の間に地域同盟を組ませるよすがとなっている。

ギリシャ、キプロス、イタリア、イスラエルの各国は東地中海パイプライン計画で初期合意に達しているが、これにエジプト、ヨルダン、パレスチナを組み込む形でいまや東地中海天然ガスフォーラムの結成へとあいなった。8,300万人の国民を権威主義的な指導者が治める国トルコは、レバノンやシリアと足並みをそろえるように孤立を深めている。

7月末には自国の権限を改めて主張する意図の見え透いた施策として、トルコは、トリポリを支配下に置くリビア国内の勢力のひとつ「リビア国民統一政府(GNA)」との間で「海事裁判権制限」に関わる合意を交わしている。これにともない、キプロス島とクレタ島の間に広がる紛争海域における探査活動の実施についても正当性を主張している。

しかしながらギリシャ、キプロス、エジプトに加えフランスおよびUAEも、反対を唱えている。トルコとリビアの間で海事協定が結ばれても、「第三国にはなんら法的効果は発生せず」との見解だ。

大陸棚の算定については、ギリシャ政府は国連海洋法条約に基づき、島嶼も考慮に入れるべきとするが、トルコは締結国ではない。トルコ政府の主張では、大陸棚はその国の本土からの算定が妥当、とする。本土よりも沖合の島嶼のほうが優先するとする主張では15万平方キロメートルにもわたる大陸棚の権益を求められてしまうことになるため、これは一蹴する。

キプロス政府の主張を見よう。同政府は、地域諸国との「緊密な協力関係を積極的に推進」し「全体の便益のため相乗効果を生み出す」同国の政策が、「法の支配にもとづく魅力的な環境を打ち立てる」ことに帰結したとしている。その証左としてキプロス政府は、自国の排他的経済水域(EEZ)内に国際石油資本のエニ(イタリア)、トタル(フランス)、エクソン(米国)といった企業が進出しているとしている。

キプロス政府の非公式の外交文書には次のように書かれている。「他方でトルコは東地中海の目下の危機的状況と不安をもたらした要因だ。相互の海上境界線画定の合意に達するためキプロス側との交渉に入ることを拒んでいるだけではない。そればかりか、キプロスの国家主権および主権的権利をも執拗に侵している。その言い訳として持ち出すのが、トルコ系キプロス人コミュニティの権利の保護、だ」

ギリシャやキプロスの軍事力では荷が勝つということもあるだろう。それについては両国は外交力で後ろ盾を得る構えだ。9月24日~25日にかけて予定されるEU特別首脳会議ではキプロスとトルコの緊張関係について話し合いがもたれる運びだ。その準備会合でギリシャ政府は、トルコがキプロス沖の海域から軍用船および天然ガス掘削船を撤収させない場合、「厳格な」経済制裁をトルコへ対し期間限定で科するよう求めている。

EU加盟の南欧圏(南欧7国、MED7)の首脳らは9月10日に次のような声明を出している。「トルコによるキプロスおよびギリシャへの挑発行為の数々、ならびに再三にわたる国家主権および主権的権利の侵害に際し、われらは改めて両国への完全なる支持および団結を宣するものである」

トルコ外交の「ゼロ・プロブレム」政策を編み出したダヴトオール元外相は、いまのこのトルコによる「挑発行為の数々」を耳にしてその胸中はいかばかりであろうか。

エルドアン氏の公正発展党を離党したダヴトオール氏は、みずから政党を旗揚げし、政権に挑む立場に身を置く構えでいる。その同氏はこのほど、いまのトルコでは外交よりも力に重きが置かれているがために、東地中海で軍事衝突が起きる懸念があると警告している。「残念ながらわが国はまともに外交力を発揮できていない」。ダヴトオール氏はロイターにそう語っている。

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