
エフレム・コサイファイ
ニューヨーク:水曜日、国連安全保障理事会の会合は、常任理事国のメンバー同士の非難の応酬となり、非常に感情的な会合となった。
国連のシリア特使ガイル・ペダーセンと、人道問題担当国連事務次長兼緊急援助調整官のマーク・ローコックが、内戦による死と破壊の10年が経ち、シリアの人々の窮状について、また、痛烈な警告を発したことが安保理ヒートアップの端緒となった。
ペダーセンとローコックは、国際社会がシリア人及び彼らが直面している人道的危機に背を向けてはならないと訴えた。
元国連シリア代表で同国の外務副大臣のバシャール・ジャファリは、現況につき、欧米諸国を非難し、欧米諸国は「シリアの富を略奪」し、シリアのバシャール・アサド大統領の政権に対して、「根拠のない告発」を行っていると指摘した。その結果、かえって欧米諸国は暴力と憎悪を促進し、「国境なきテロリズム」の蔓延を永続させていると述べた。
ジャファリはまた、欧米諸国が二重基準を採用していることも非難した。もし1月6日の米国連邦議会議事堂への右翼の暴徒による攻撃が欧米以外の国で起きたら、「どこそこの春」や「オレンジ革命」、あるいは自由の表現などのレッテルが貼られ、賞賛されたであろうことを示唆した。ところが、暴動が「(欧米の首都で起きたことから)世界中から非難された」と、指摘。
ジャファリはまた、トルコによる「テロリズム」の疑惑を同国の相手方に向けたが、「彼(ジャファリ)はシリア国民の正当な代表ではない」という理由で、トルコ側は回答を拒否した。
今回の安保理の会合は、今月安保理議長国を務めるチュニジアのタレク・ラデブ国連常任代表の要請を受けて開催されている。シリア憲法委員会が来週、ペダーセンの支援の下、ジュネーブでの第5ラウンドの会談に向けて集まる準備をしていることを受けてのことだ。
同委員会は、既存の憲法の変更や新しい憲法の起草を通じて、アサド政権と反政府勢力の和解を求める国連のプロセスの一部である。
ペダーセンは安全保障理事会に対し、10年近くに及ぶ内戦により、何百万人ものシリア人が「深いトラウマ、貧困、個人的な不安、未来への希望の喪失」を抱える状況に置かれていると述べた。「多くの人々が、日々生き残ることで精いっぱいの状況に置かれ、他の問題が覆い隠されている」
ペダーセンは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック、レバノン危機の余波、戦争経済、汚職、誤った管理などの内部要因が組み合わさって、「シリア全土に墜落へと導く、ゆっくりとした津波」が押し寄せて来ていると述べた。
ペダーセンは、シリア政権に課せられる追加制裁は、シリア国民の窮状を悪化させないようにする必要があることを強調した。
ペダーセンは、過去10ヶ月間は紛争が始まって以来最も平穏だったのは事実だとしながらも、北東部での軍事的なエスカレーションが、イスラエルの攻撃、継続的な「イスラム国」の攻撃、イドリブでの両勢力による砲撃や空爆、南西部での不安とともに、この相対的な平穏を乱し続けていると付け加えた。
攻撃は命を奪い続けており、シリア人は拉致、恣意的な拘留、犯罪活動の増加、テロ攻撃の激化など、他にも多くの脅威に直面している、とペダーセンは述べた。
「これは(いつ壊れてもおかしくない)脆弱な静けさだ」と、ペダーセンは語る。
ペダーセンは、政治的プロセスがいまだに目に見える変化をもたらしておらず、シリア人の将来についての現実的なビジョンも示されていないことを認めている。しかし、人道支援団体が制限を受けずに活動できること、永続的な全国的停戦が実施されること、また被拘束者へのアクセスなどの信頼醸成措置が継続される必要があると強調した。
安全保障理事会決議2254に基づく自由で公正な選挙は「まだ遠い未来のように見える」が、ペダーセンは「より真剣で協力的な国際外交は、真の進歩をもたらし、すべてのシリア人にとってこの危機から抜け出す安全で確実な道筋を描くことができる」と述べた。
ローコックは、シリアの人道的危機に対して厳しい見方をしている。 ローコックは、シリア人は深刻な食糧難に直面しており、厳しい冬の間の燃料不足や停電、そして児童労働への依存度も高まっていると安保理に述べている。
悪天候が続き、人々は「洪水で水位が上昇しているため、テントの中で一晩中立って過ごしている」と、ローコックは付け加えた。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新しい波も差し迫っている可能性があると警告した。
ローコックはまた、元「イスラム国」過激派の何千人もの妻と子供たちの拠点となっている悪名高いアル・ホール難民キャンプの絶望的な状況を強調して述べた。
難民キャンプでここ数ヶ月、暴力事件が急増しているが、治安対策は住民を危険にさらしたり、権利を侵害したり、人道的アクセスを制限したりしないようにしなければならないと述べている。
キャンプで暮らす62,000人のほとんどが12歳以下で、「とても受け入れ難い状況の中で育っている」と、ローコック彼は述べた。
ローコックは人道支援を提供するという国連のコミットメントを繰り返したが、それには「適切な資金調達、アクセスの改善、そして10年近くシリアの人々を苦しめてきた暴力の終結が必要である」と述べた。
離任する米国国連大使のケリー・クラフトは、安保理での最後の声明で、トルコで訪れたシリア難民キャンプでの悲劇的な体験談を語り、涙をこらえつつシリアの人々を見捨てないよう世界に訴えた。
「この紛争の恐ろしさに目覚め」、平和を取り戻すための行動を起こそうと、彼女は主張した。
「アサド政権とその支持者によって爆撃され、飢え、避難生活を余儀なくされ、虐げられている(こうした)人々は、大多数が女性と子どもたちであり、彼らの安全を守り、彼らの命を保つために、安保理は負託をうけているのです」と、クラフトは付言した。
クラフトは、「安保理を悩ませ、シリアの人々が平和、安定、希望に向かう道を否定し続ける政治力学」を非難し、また「安保理は何百万人ものシリアの民間人を失望させている、それも今日だけでなく10年以上もの間だ。恐るべきことだ」と、述べた。
彼女は、アサド政権が「今年の偽大統領選挙に備えて、憲法委員会の進行を意図的に引き延ばし、政権とその卑劣な同盟国の野蛮な攻撃によって何千人もの民間人が殺されたり負傷したりしている事実から国際社会の関心をそらそうとしている」と、非難した。
また、「そのような選挙は違法なものであり、米国は認めないだろう」と付け加えて述べた。
クラフトは、如何なる選挙も難民、国内避難民、または離散したシリアの人々の一部の参加を確保しなければならないと述べ、シリアにおける国連の政治プロセスが完了するまで、米国は復興資金の提供を保留することを繰り返した。
クラフトはまたロシアの同僚を非難し、「(シリアについての)事実と全く異なる物語を安保理で主張する-その不誠実さとシニシズムに息をのむような話しをする」と、述べた。
クラフトの今後の変わらぬ活躍を祈念後、ロシアのヴァシリー・ネベンジャ国連大使は、「これからシリアに関するロシアの見解を話す」と述べた。
ネベンジャは、シリアの天然資源からの収益が 、「シリアの国庫に納められていない」ことに対して、国連が「口を閉ざしている」と批判した。また、アサド政権を擁護し、国際的な制裁で経済が崩壊する中、「ダマスカスは経済を浮揚させるために全力を尽くしている」と述べた。
ジェームズ・ポール・ロスコー英国大使はこの見解を認めず、シリアの悲劇の真の原因は政権の 「縁故主義、汚職、国民に対する残忍な攻撃」だと述べた。ロスコーは政権の罪の責任を問うことを求めた。
ペダーセンは、国連のシリアに関する決議が同国の政治プロセスを「シリアが所有し、主導しなければならないとされるが、紛争は高度に国際化しており、シリアでは5つの外国軍が活動している」と改めて述べた。
そのため、世界は「解決策がシリア人の手の中だけにあるかのように装うことはできないし、国連だけで解決できるとも言えない」と付け加え、「より真剣で協力的な国際外交」を求めた。