



ドバイ : ザクロに麻薬を忍ばせ密輸しようとしたことが、警戒の目を光らせている王国の港湾当局によって阻止されてからというもの、レバノン産の青果は、サウジアラビアではもはや歓迎されていない。
先月、ジェッダイスラム港の税関職員が、レバノンからの委託貨物のザクロに、500 万を超えるカプタゴンの錠剤が巧妙に隠されているのを発見した。別件で、レバノンからの積み荷のザクロに隠されていたアンフェタミンの錠剤が、ダンマンのキング・アブドゥルアズィーズ港で押収された。
王国は、この事例に関し、レバノンからの青果の輸入および輸送を禁止するという対応をとった。
過去 6 年間に、レバノンから 6 億錠を超える密輸が試みられています、とサウジアラビアのレバノン大使ワリード・アル=ブクハリ (Waleed Al-Bukhari) は明らかにした。
農民と正規の輸入業者が「カプタゴンの密輸業者が原因で、現在その代償を払っているのです」、とレバノンの政治家、ミシェル・モアワド (Michel Moawad) は話した。彼は、2020 年 8 月 4 日のベイルート爆発に対する抗議により議員辞職したが、麻薬の押収と輸入禁止による経済的影響を憂慮している。
「ミサイル、市民軍、そして麻薬を輸出して、私たちが何を得るというのでしょう」、と彼は話した。「アラブや国際社会に敵意を抱いて、イエメンや他の場所に戦闘に向かうのであれば、私たちにはどんな利点があるのでしょう。」
レバノンの「大地は、安全保障上の要塞、違法な兵器、ミサイル、フーシ派の軍事訓練キャンプのない、そしてカプタゴンの製造工場とは無縁な状態で、完全に統治されている必要がある」、とモアワドは要請したが、その際、ヒズボラの名前をはっきりと挙げる必要はなかった。
サウジアラビアへのアンフェタミン錠剤を密輸する試みが失敗した原因は、イランと同盟関係にある活発な軍事組織を持つシーア派グループと関係がある可能性が最も高い、と匿名の情報筋が、インデペンデント・ペルシアン 紙(Independent Persian) に話した。
シリアで製造されたカプタゴン錠剤を含む麻薬の密輸は、ヒズボラと関係があることが噂されている、と情報筋は指摘した。もっとも、グループはそうした非難を強く否定している。
シリアとレバノンの間の、「合法および非合法」な双方の国境検問所当局によるところ、ヒズボラは、麻薬に関連するあらゆる活動に関し統制を受けていない、と情報筋は加えた。
ヒズボラ関係者および政治家は、非難に対するコメントはまだ行っていない。
レバノンの安全保障当局者は、押収した貨物に関係があるという嫌疑で、現時点で 4 名を逮捕している。ザクロは、アル=マスナー国境検問所、もしくはアル=アブデイェ北部の国境検査所を経由してシリアから密輸された、と地元ニュースメディアの記事では推測された。
委託貨物は、原産地証明書をシリアからレバノンに変更してから、ベイルートの港を通じてサウジアラビアに輸送された。ベイルートの港には、麻薬を検知する走査装置が配備されていない。インデペンデント・ペルシアンは、情報筋は「カプタゴンはシリアで製造、ベイルートに輸送され、その後王国に託送された」と話す、と引用した。
4 月初旬、ギリシャ当局は、レバノンからスロバキアに向かう、砂漠地帯で製造された機器の積み荷に隠されていた、4 トンを超える大麻を押収した。これは、同国の主要港ピレウスでのことで、アメリカ麻薬取締局 (DEA) からの秘密情報によるものだった。
麻薬の末端価格は 400 万ドルと推定され、サウジアラビアの麻薬取締局はこの件に関してギリシャを援助する、とギリシャ当局は発表した。
1 月、BBC は、イタリア警察が 2020 年 6 月に押収した 8,500 万錠、重さにして 14 トンのアンフェタミンを焼却する場面を取材したドキュメンタリーを放映した。密輸品は、ラタキアというシリアの港からのものだ、とイタリアの金融犯罪警察は発表した。
密輸品の発送元は、当初ダーイシュと考えられていたが、シリアと分かった。BBC のドキュメンタリーでは、シリア政権とその同盟ヒズボラは、主たる資金源として麻薬取引に深く関わっている、と放送された。
押収された密輸品の規模からは、アンフェタミン錠剤は、製造に適した工場で非常に大規模製造されたことが窺えた。領地の大部分を失ったことを考慮すれば、これは、ダーイシュの持つ能力を遥かに超えるものだった。だとすれば、錠剤の製造元として可能性があるのは、シリア大統領バシャール・アサドが統治する地域となるのだった。
しかし、カプタゴンはレバノンで違法に製造される、と BBC の報告では言及された。イタリア当局は、薬を製造している者について公式には発表しなかったが、ラタキアから密輸されたことを確認した。
違法な麻薬製造は、内戦中にシリアで急増したと考えられる。アサド政権が必要とする多額の収入源として始まったのである。支配派閥とその海外の同盟は、麻薬の不正取引から上がる収益を利用し、西側の課す制裁を逃れている。
カプタゴン中のアンフェタミンには、恐怖心を抑え、刺激作用があることも知られる。中東の、戦争に疲弊する地域において銃撃戦が長引いた際、その作用は、有益であることが証明されている。
過去数年間、他の国々のうち、サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、そしてヨルダン当局は、莫大な量のカプタゴンを押収している。そして時にそれは、シリアから発送されたものであった。
1 月にテレビで放映された講演で、アンフェタミンの製造に関与しているという非難は「まったく根も葉もないものだ」、とヒズボラ書記長ハサン・ナスルッラーフ (Hassan Nasrallah) は話した。
「麻薬、そういった類のものすべてに対する私たちの立場は ( 明らかです )。製造、販売、購入、密輸、そして消費することは宗教上禁止されています。場合によっては、イスラム法シャリーアによって、処分が行われることもあります」、と彼は話した。
しかし、米国およびヨーロッパの麻薬取締局は、ヒズボラは麻薬取引から利益を得ていると確信している。欧州刑事警察機構、ユーロポールは、2020 年に報告書を発行し、ヒズボラのメンバーはヨーロッパの都市を、「麻薬とダイアモンド」の取引拠点として利用し、その利益の資金洗浄をしている、と警告した。
2018 年、米国国務省は、ヒズボラを世界の犯罪組織のトップ 5 に指定した。報告書では、ヒズボラの犯罪行為は最近増加している、と指摘されている。米国の制裁をかわすための取り組みの一環として、収入を生み出すようイランが指示したことに対応したためと思われる。
イスラエル警察は、彼らとしては、ヒズボラが同国にハシッシュを密輸していることを非難した。
レバノンは、世界屈指の大麻生産国の一つであることで知られる。大麻は、ヒズボラの要塞と考えられている地域、特にバールベックとヘルメルで、広く栽培されている。
昨年、米国国務省およびワシントンの情報活動コミュニティーは、南米やヨーロッパにおける麻薬の違法売買を含む犯罪活動に、ヒズボラが関連しているという主張を支持するだけの十分な証拠がある、と発表した。
2009 年以来、麻薬の違法売買および資金洗浄に関与する組織犯罪に関連があるという理由で、多くのレバノン人が米国財務省の制裁を受けている。制裁を受けた人の多くは、ヒズボラに関係があった。
ヒズボラは、南米のパラグアイ – アルゼンチン – ブラジル 3 ヵ国の国境地域と強力な関係を構築している。そこは、レバノンに出自を持つ 500 万を超える人々の郷里である。現地の窓口となる人々は、この地域でのヒズボラによる麻薬の違法売買、資金洗浄およびテロリストの資金調達活動の手助けと隠ぺいをすると考えられている。
ジェッダに到達した委託貨物のザクロから見つかったカプタゴンの背後に、ヒズボラがいることはほぼ間違いない、とレバノン・ロー・レビュー (Lebanon Law Review) の主任編集者アントニー・カナーン (Antoine Kanaan) は話した。
ザクロは、レバノンでは商用生産すらされていません、と彼は話した。そして、ザクロは二次的な果樹で、その栽培は「個人の果樹園や庭ほどの小さな区画に制限されているのです」、と加えた。
それとは対照的に、シリアのザクロ生産は非常によく知られています。ダルアーといった地域は特にそうです、と彼はアラブニュースに話した。
「これが意味するのは、シリア産のザクロがレバノンからサウジアラビアへ運ばれている、ということです」、とカナーンは話した。彼は、レバノンで果実にカプタゴンが混入される、と考える。
カナーンによれば、関連するカプタゴンの量と計画の巧妙さから、ヒズボラが関与していることが、あるいは少なくとも同意し、利益を共有していることが確認できる。レバノンでは、合意がすべてを決めるのです。たとえそれが麻薬でもです、と彼はさらに指摘した。
「ヒズボラは、同地域で屈指のカプタゴンの供給者で、独立したレバノンの貿易業者がいるとは考えられません。あるいは、シリア政府が大胆にも、ヒズボラを関与させることなく、うまくやっているのです」、と彼は話した。
麻薬がサウジアラビアに密輸される理由について、カナーンは次のように話した。「イエメンにいる ( イランの支援を受けるフーシ派の ) 戦士に送る可能性はありますが、眉唾です。」
ジェッダの違法薬物の押収によって、レバノンが、国際的な麻薬取締機関に協力しない国の一つであることが明らかとなった、とレバノン国内治安部隊麻薬取締部、前主任アデル・マックモウチ (Adel Machmouchi) 准将は話した。
週末のテレビの会見で、関係するレバノン大臣および治安機関は、ベッカー高原およびレバノン北部の、この地域に対する「より良い、親密な統治」を行うべきだ、と彼は提案した。同地域では、違法な麻薬栽培および生産が行われている。
政府はこうした違法事業を、合法的、生産的計画へと変革するべきだ、と彼は話した。
処罰は「厳しくして麻薬の製造、違法売買、密輸の罪を減らすのではなく」、抑止力となるためにより厳しいものとするべきです、とマックモウチは話した。
レバノンには、カプタゴンの製造に使用される工場が約 20 あります、と彼は主張した。「レバノンの麻薬取締機関は、サウジアラビアや GCC 諸国の関係機関と ( 力を合わせ )、この犯罪と闘い、レバノンが麻薬密輸の発射地点として利用される事態に終止符を打つべきです」、とマックモウチは話した。