• イランが認可した立候補者リストは、6月18日の大統領選挙で保守派の政治家、エ
  　　ブラヒム・ライシ候補の当選を事実上示している。
• 専門家によれば、アリ・ラリジャニ前国会議長の失脚により、大統領選
  　　挙は独走状態になったとのこと。

クリス・ハミル-スチュワート

ロンドン：30年以上前、エブラヒム・ライシ氏は、数千人のイランの政治犯の略式処刑を統括したことで一躍有名になった。これは、テヘランの人道に対する最初の犯罪の1つとされた行為である。

そして現在、宗教的強硬派から検察官に転身したこの人物は、イスラム共和国の大統領選に立候補しているが、専門家は、他の候補者の相次ぐ失脚により、この悪名高き法学者が事実上独走状態で選挙戦の先頭に立っていると警告している。

6月18日に行われる大統領選挙は、これまでで最も制限された選挙戦の一つとなることが予想されており、イラン国民はハッサン・ルーハニ氏の後継者を選ぶために投票に赴く。

先週、最高指導者ハメネイ師の諮問機関である監督者評議会（GC）は、国家が公認する大統領候補者のリストを発表した。

大統領選挙候補に応募した約600人の候補者のうち、マフムード・アフマディネジャド元大統領や、アリ・ラリジャニ元国会議長、イスラム革命防衛隊（IRGC）司令官などの著名な政治家を含む、約585人という膨大な割合の候補者が監督者評議会（GC）によって不許可となった。

現在残る候補者は7名：公益判別会議のモフセン・レザイ議長、サイード・ジャリリ元核交渉担当者、アミール・ホセイン・ガジサデ・ハシェミ副議長、モフセン・メハラリザデ元副大統領、アブドルナセル・ヘマティ中央銀行総裁、アリレザ・ザカニ議員、そしてイスラム共和国最高裁長官のライシ氏、7名である。

戦略的諮問グループのプレリア（Prelia）の創設者であるミロコ・ジョルダ二氏は、これまでライシ氏に対抗する唯一の有力候補と見られていたアリ・ラリジャニ氏の予想外の失脚により、大統領選挙はライシ氏に有利な「独走状態」になったと述べている。

「ラリジャニ氏は保守的な陣営にいたが、最近は穏健派に転向した。彼はライシ氏の唯一の対立候補となる可能性があったが、それでもライシ氏が勝つと思われていた。」とジョルダニ氏はアラブニュースに語った。

現職のルーハニ氏やライシ氏自身も、より多くの候補者を募ることを訴えているほど、候補者の顔ぶれは競争力に欠けている。

2021年5月27日、イランの首都テヘランで開催されたオンライン会議で、ビデオを通じて国会議員に演説するイランの最高指導者、ハメネイ師。

保守的な大統領選挙候補者に対抗する数人の立候補希望者が候補から除外された事を受けて、来月の大統領選挙をボイコットしようという声を無視するよう、イラン国民に呼びかけた。(AFP)

「通常、イランの選挙は70％前後の高い投票率が特徴だが、現在の数字は50％前後になると予想されている。正当性という意味では大きな打撃となるだろう。」とジョルダニ氏は述べた。「仮にライシ氏が選挙を制したとしても、多くの疑問が出てくるであろう。」

ライシ氏がイスラム共和国の内部にいた期間、大統領のお気に入りとして、国民や権利団体、国際社会に衝撃を与えた各種の人権への侵害を統括してきた。

彼が死刑を宣告した人物の中には、反政府抗議活動に関与したとされるレスリングのチャンピオン、ナヴィド・アフカリ氏がいる。彼は2020年末に殺害され、その処刑は世界中の怒りを呼び起こし、オリンピックを含む世界のスポーツ団体から抗議を受けた。

ライシ氏の最も凶悪な犯罪は、1988年に何千人もの政治犯の処刑を命じた「死の委員会」に直接関与したことであろう。アムネスティ・インターナショナルによって人道に対する犯罪。と呼ばれ、当時テヘランの副検察官だったライシ氏は、数千人を死に至らしめた偽装裁判を監督した。

2021年5月12日、首都テヘランの内務省本部前に集まるイランのアフマディネジャド元大統領の支持者たち。史上最も制限された選挙の一つとなる用意が整っている。6月18日、イラン国民はハッサン・ロウハーニー氏の後任を選出するために投票に行く。(AFP/File Photo)

「招集された囚人グループは目隠しをされ、司法、検察、諜報機関、刑務所の職員らによってなる委員会の前に引き連れて行かれた。」とアムネスティ・インターナショナルは報告する。
この 「死の委員会 」は法廷とは似ても似つかぬもので、その手続きは極めて簡潔で恣意的なものであった。

「囚人は、彼らの政治的意見を悔い改め、自らの政治グループを公に非難し、イスラム共和国への忠誠を宣言する準備ができているかどうかなどの質問を受けた。また、軍隊を支援するために地雷原を歩いたり、銃殺隊に参加したりする意思があるかどうかなど、残酷な質問をされた人もいた。」
　

「そして、彼らはその答えが死を意味するものであることを知らされていなかった。」

ライシ氏が死刑処分にした正確な人数は不明だが、1988年の夏だけで1人から3,000人と推定されている。その他の反体制派と思われる人々は、拷問や嫌がらせに直面した。

アムネスティは、「1988年の殺害に関与したとされる者の多くは、未だに権力の座に就いている。」と述べており、その中でもライシ氏は間違いなく最も著名な人物である。そして現在は、最高指導者と監督者評議会の支援を受けて、大統領への道を歩んでいる。

「政権は基本的に、立候補した多くの候補者を失脚させることで、誰が次期大統領になるかを選んでいる」IDCヘルツリヤのイラン講師で、元BBCペルシャ語記者のメイル・ジャベダンファール氏は、アラブニュースの取材に対し語った。「逆転の可能性も、他の誰かが勝つ可能性も非常に低い。」

2021年5月19日、首都テヘランのパレスチナ広場で行われた、イスラエルによるガザ地区への空爆継続を非難するデモ行進で演説を行なったのち、退出するイラン革命防衛隊のホセイン・サラミ隊長。(AFP)

ジャベダンファール氏にとって、ライシ氏は現政権の継続候補である。

「ライシ大統領の就任は、ハメネイ師の外交政策の継続を意味し、それはアメリカとの険悪な関係を意味する。シリア、レバノン、イラク、イエメンにおけるイランのプレゼンスへの支援の継続、抵抗経済の継続を意味する。」

「私は、ソーシャルメディアのような、現在の自由メディアへの取り締まりも実施されると考える。ライシ政権が全国規模のイントラネットを導入するのではないかとさえ心配している。」と述べている。

イントラネットの導入により、テヘランはイランのサイバースフィアを効果的に封鎖することが可能になり、イランを出入りするオンライン情報の流れを厳密に制御することが可能になる。

「イスラム共和国は、イラン人の間に西洋の思想、特にフェミニズムが広まることを懸念している。ライシ氏はそのための人材であろう。」とジャベダンファール氏は語った。

ジョルダニ氏は、ライシ大統領は汚職の根絶に重点を置く可能性が高いと述べている。これは、この国で物議を醸している司法の場で、保守派の特徴となっていると言う。

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2021年5月16日、イランの首都テヘラン中心部にあるエンゲラーブ広場で、イスラム共和国の創始者アヤトラ・ルホラ・ホメイニ師（右）と最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師（左）を描いた看板の下を歩く、COVID-19コロナウイルスのパンデミックのためにマスクを着用した人々。(AFP)

ワシントンに拠点を置くアラブ湾岸諸国研究所の上級研究員であるアリ・アルフォネ氏は、汚職への注目は常に非常に選択的であり、政治的なものであると考えている。

アルフォネ氏はアラブニュースに対し、「ライシ氏は、イランの最高裁判事としての任期中、選択的に汚職との戦いに従事することに専念していた。」と語った。「選択的 、とは、ライシ氏はほとんどの場合、政敵とその近親者を対象としていたからである。」

アルフォネ氏はまた、保守派の大統領候補者リストがメディアの注目を集めているにもかかわらず、「強硬派」と「改革派」という区別は、イランの不透明な政治を正確に表現していない誤った呼び方だという。

アルフォネ氏は、「イランの政治における強硬派と軟弱派という二分法は、まったくの誤りである。」と言う。「イランには、書面による政党プログラムを備えた正式な政党が無いため、イスラム共和制の支配階級エリートは、個人的な利益を確保するために、リーダー格の人物を中心に流動的なネットワークを組織している。」

2021年5月27日、イランの首都テヘランで開催されたオンライン会議で、ビデオ接続で敬礼するイラン国会議員たち（イラン最高指導者ハメネイ師事務所提供の資料写真）

従って、「イデオロギーではなく個人的な利益 。」が、「イラン政治の組織原理 」となっている。

アルフォネ氏は、6月18日の選挙が、イラン国民の目に明らかに正当性を欠いているというジョルダニ氏の見解に共感する。

「イスラム共和国の支配層は恒常的に粛清されており、年々、イラン国民を代表する政権ではなくなってきている。」と彼は語った。

「このことは、その権威主義のために、世論に敏感である政権にとって、すでに問題を引き起こしている。」

—————- ツイッター。@CHamillStewart