ジェニン: 治安当局は4日、イスラエル軍がヨルダン川西岸地区のイスラエル占領地にある武装勢力の拠点からの部隊撤退を開始したと発表した。これによって、少なくとも12人のパレスチナ人が殺害され、何百もの武器を押収、広範囲に爪あとを残した2日間にわたる軍事作戦が終了する見込みだ。
しかしジェニンの難民キャンプの一部ではいまだイスラエル軍とパレスチナ武装勢力との激しい衝突が続いており、計画されていた撤退は長引いている。
事態は、ハマスに所属する武装勢力の1人がテルアビブのバス停の人混みの中に車で突っ込んだ上、人々を刺して、妊娠中の赤ちゃんを失ったとされる女性を含む8人が負傷した事件の数時間後に進展した。加害者は武装した通行人に殺害された。ハマスは、この攻撃はイスラエルの攻撃に対する報復だと発表した。
ジェニン郊外の駐屯地を訪れたベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ここ20年近くで占領地内で行われた最も激しい軍事作戦の一つであるこの作戦が終わりに近づいていることを示唆した。しかし同氏は将来類似の作戦を行うことを明言している。
「今回は任務を完了とするが、我々がジェニンで行う大規模作戦は一度限りのものではない」と同氏は述べた。
イスラエル軍は、4日夜に墓地内の武装勢力支部に空爆を行ったと発表した。武装勢力は難民キャンプから撤退する部隊を危険に晒したという。死傷者数についてはすぐには発表されなかった。
イスラエルおよびパレスチナ政府はまた、4日夜に病院近くで武力衝突があったことを報告した。現地にいたAP通信記者によると、爆発音と銃声が聞こえてきたという。パレスチナ医療当局がワファ(Wafa)通信社に発表したところによると、3人の民間人がイスラエルによる銃撃を受けたという。
イスラエルの治安当局関係者は、部隊撤退開始は確かだが、戦闘が続くなか撤退作業は複雑になっていると述べた。同氏は正式発表までの間、匿名を条件に語った。
イスラエルは3日未明、武器の破壊・押収を目的と主張する作戦の一環として、パレスチナ武装勢力の拠点として知られる難民キャンプを攻撃した。パレスチナ医療当局は、死者は12人、負傷者は数十人にのぼると発表した。
軍用大型ブルドーザーが路地を走行したことで、道路と建物が大きな被害にみまわれ、難民キャンプに住む何千人もの住民が避難した。電気と水も遮断されたという。軍の発表では、道路には爆発物の罠が仕掛けられていたためブルドーザーが必要だったという。
数千個の武器および爆発物の材料、また隠してあった蓄財を押収したと軍は発表した。武器は武装勢力のアジトおよび民間居住区の両方で同様に発見され、一件ではモスクの地下で発見された、と軍は発表した。
今回の大規模攻撃は、パレスチナの武装勢力に対するより強硬な動きを求めた結果戦闘状況の悪化を招いてきた過激な国家主義者が多数を占めるネタニヤフ氏の極右政府が苦しめられてきた、1年以上続く暴力の激化のなか行われた。
今年、ヨルダン川西岸地区では140人以上のパレスチナ人が殺害され、パレスチナ人によるイスラエル人を標的とする攻撃では、先月発生した銃撃事件で殺害された4人の入植者を含め少なくとも25人が殺害されている。
軍事作戦が継続されるなか、人権団体からは状況の悪化に関して警告が発せられている。
国境なき医師団は、イスラエル軍が病院に催涙ガスを撃ち込み、緊急治療室に煙を充満させることで、緊急患者の治療がやむなくメインホールで行われることとなった、と非難した。
国際連合人権高等弁務官事務所代表は、軍事作戦はその規模の大きさから「生存権の保護、尊重などの人権に関する国際規範・基準について深刻な問題をいくつも引き起こすものである」と発表した。
今回の攻撃は、空爆や大規模地上部隊の出動など、2000年代前半の第2次パレスチナ民衆蜂起の際のイスラエル軍の戦術と似た特徴を示していた。
しかし違いもある。今回はのイスラエルの軍事作戦は、パレスチナ武装戦力の拠点数カ所に集中する形で焦点を絞っている。
入植者たちの強硬な指導者である イタマル・ベングビール安全保障相は、テルアビブで4日に発生した事件現場に急行した。
「テロが台頭することは分かっていた」と同氏は述べた。同氏は野次馬に怒号を浴びせられるなか、加害者を殺害した民間人を賞賛し、より多くの民間人に武装を呼びかけた。
加害者はヨルダン川西岸地区南部・ヘブロン出身の20歳男性と特定された。
イスラム教武装勢力のハマスは男を「殉教した戦士」とほめたたえ、この攻撃は「英雄的行為であり、ジェニンでの軍事作戦への報復である」と述べた。ジェニンで大きな影響力を持つ武装勢力「イスラム聖戦」も攻撃を賞賛した。
男はハマスの指示に従っていたのか、独自に行動したのかはすぐには明らかにならなかった。
ジェニンでは路上に瓦礫が散乱しており、何年にもわたってイスラエル=パレスチナ間の暴力の火種となってきた難民キャンプ上空には黒煙の柱が時おりのぼっていた。
ジェニンのニダル・アル・オベイディ(Nidal Al-Obeidi)市長は、難民キャンプに居住していた人の三分の一近くにあたる4000人のパレスチナ人が親類の家や避難所に滞在していると発表した。
難民キャンプに住むケファー・ジャアイヤサー(Kefah Ja’ayyasah)氏によると、兵士たちが家に無理やり上がりこみ、家族を中に閉じ込めたという。
「連中は若い男を上の階に連れていき、女子供をアパートの1階に閉じ込めたままにした」と同氏は語った。
同氏によると、兵士たちは子どもに食べ物を運び与えることも許さず、助けを求めて叫んでも救急隊員を家の中に入れさせず、最後の最後にようやく家族は病院に行かせてもらえた、という。
ヨルダン川西岸地区全域で、パレスチナ人はイスラエルによる攻撃に反対するゼネストを実施した。
パレスチナ保健庁は4日、2日間の死者数は12人にのぼると発表した。イスラエル軍は、そのうち10人が武装勢力だと主張したが、詳細を発表しなかった。死者数に関する最新の情報はすぐには公表されていない。
ヨルダン川西岸地区のパレスチナ自治政府およびイスラエルと正常な国交を保っているヨルダン、エジプト、UAEのアラブ三カ国がイスラエルの侵攻を非難し、サウジアラビア含むイスラム協力機構の57カ国も同様に非難した。
イスラエルは2022年始めの一連のパレスチナ人による死傷者を出した攻撃に対する報復として、ヨルダン川西岸地区でほぼ毎日にわたって攻撃を行ってきた。イスラエルの主張では、攻撃はパレスチナ武装勢力の取り締まりおよびテロ攻撃を阻止するためだという。パレスチナ人の多くは、こうした暴力は56年にわたる侵略とイスラエルとの政治過程の欠如が必然的にもたらした避けがたい結果だと考えている。また、ヨルダン川西岸地区の入植地建設の推進や過激派入植者による暴力の増加も指摘する。
イスラエルの発表によると、殺害された人のほとんどは武装勢力だが、侵攻に反対して石を投げる若者や、対立に関与していない人も死亡したという。
イスラエルは1967年の第三次中東戦争でヨルダン川西岸地区、東エルサレムおよびガザ地区を占領した。パレスチナ人は、彼らの望む独立国家のために、これらの領土を求めている。
AP