
カリーン・マレック
ドバイ:カトリック教会の最高権威ローマ教皇フランシスコが2022年度「人類の友愛ザイド賞(the Zayed Award for Human Fraternity)」の選定委員会とバチカンで会合し、「希望と寛容さ」についてのメッセージを発した。
12月1日の今年度受賞候補者の推薦受付締め切りまで2ヶ月を切った10月6日の会合で教皇は人類の友愛への道筋を「維持・持続させなければならない」と選定委員会に対して述べた。
同賞は2019年2月4日にアブダビで開かれたローマ教皇フランシスコとアル・アズハルのグランド・イマーム、アフマド・アル・タイーブ師の歴史的会談に基づいて設立された。
ローマ教皇初のアラビア半島訪問の際に行われたこの会談の結果、両者は「世界平和と共存のための人類友愛に関する宣言(別称アブダビ宣言)」に共同で署名した。
「お互いを尊重する文化」を広めるために宗教指導者が人々を導く、という友愛についての2人の議論から生まれた賞であり、この賞について教皇フランシスコはその後「単なる外交辞令ではなく、対話と共通するコミットメントの反映である」と説明していた。
共同宣言に基づいてアブダビのシェイク・ムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン皇太子を後援とする「人類友愛のための高等委員会」ならびに「人類の友愛ザイド賞」が設立された。
今年の授賞で3度目となる同賞はアラブ首長国連邦の建国に貢献した同国初代大統領でシェイク・モハメド皇太子の亡き父であるシェイク・ザーイド・ビン・スルターン・アル・ナヒヤーン氏にちなんで命名された。人類の進歩と平和的共存に多大な貢献を示した人々を称えるために立ち上げられた国際的で独立した賞である。
2021年度同賞はアントニオ・グテーレス国連事務総長とモロッコ系フランス人の活動家ラティファ・イブン・ジアテン氏に共同で授与された。ジアテン氏は「若者と平和のためのイマド協会」の設立者で、息子をテロによって失った悲しみを若者のための活動への活力と変えた女性だ。
同賞選定委員は2020年度「アフリカのリーダーシップに対するモ・イブラヒム賞」受賞者ニジェール前大統領マハマドゥ・イスフ氏や東ティモール元大統領ジョゼ・ラモス=ホルタ氏などが務める。
「人類友愛宣言」の共同執筆者で「人類友愛のための高等委員会」の事務総長を務めるモハメド・アブデルサラム判事や「アラジン・プロジェクト」代表のリア・ピサール氏も選定委員である。
教皇フランシスコとの会合後ピサール氏はアラブニュースに対して「希望を必要としている時にそれを与えてくれる特別な会合でした」と語った。
「人類の歴史において重要な分岐点に現在差し掛かっており、注意を怠れば人類はどっちに転ぶかわからない状況です。私たちにはその機会をつかむという選択肢しかありません。『人類友愛宣言』は、行動を起こせ、という非常に大胆で果敢な呼び掛けです」
「アラジン・プロジェクト」とは、憎悪や過激主義と戦うため異文化間の友好関係と歴史の教訓の活用を促進することを目指したフランスの故ジャック・シラク元大統領など各国元首を務めた数名によって設立された国際NGO組織である。同プロジェクトはユネスコと提携している。
教皇ならびにアル・アザハルのグランド・イマームが監督している、という事実はこの賞の信用性を大きく向上させ、大衆や地域社会の指導者らに姿勢を正して耳を傾けさせる力・深み・響きを与えるものだ、とピサール氏は述べた。
「選定委員の中でユダヤ人は私だけで、とても温かく歓迎されました。賞に関わる全員が『兄弟・姉妹』という言葉の意味を理解しているということを示すものであるため、抱擁され歓迎されたと感じたことはとても重要です。私たちは皆同じ神に祈ります。私たちを分断する以上に団結させるものは共通の人間性以外にも多くあるのです」とピサール氏は語った。
選定委員会の精神的・理知的リーダーシップは互いの宗教的見地の違いこそあれ「すべての文化における偏見のない心の持ち主の声の連合体」であり、突き詰めるところそれは広い観点から見た同種の価値観を象徴し、そして互いから学べることはたくさんある、とピサール氏は述べた。
「選定委員はすべてにおいて同意するわけではありませんが、皆がどのような背景を持っているのかを理解しなければなりません。それに必要とされる勇気と偏見のない心を持つことができれば、より多くの共通点が見つかり寛容性が広まるのです。現在の私たちには寛容性が切実に必要なのです」とピサール氏は説いた。
過去4年間のレトリックが人々の対立を煽った米国は今「醜い」憎悪の時代直後にある、と彼女は述べた。
そうした否定性のうずきが助長されないことをピサール氏は目指している。アラジン・プロジェクトはそのために異文化交流や教育イニシアチブを用いて寛容性を擁護するものである。
スポーツ専門の青少年プログラムや提携する70校の大学生を集めた毎年の夏期講習など、アラジン・プロジェクトは異文化の人々に互いを知り、違いを尊重しあい、共通理解を育む機会を提供している。
「とてもパワフルなやり方だと私は考えます。他人と交流し、その声に耳を傾けることが重要なのです。私は4年前にアラジン・プロジェクト代表に選出されて以来、さまざまな国で並外れた人々で出会ってきました。その人々から私は学びたいのです。立ち止まって耳を傾けることが少しでもできれば、私たちにとって大きな効果があるのです」とピサール氏は述べた。
アラジン・プロジェクトはこれまでに歴史や文学といったさまざまな分野においてアラビア語・ペルシア語の本をいくつか出版してきた。『隣人の宗教を知る』と題された宗教についての本は「アブラハムの宗教」であるイスラム・キリスト・ユダヤの一神教3宗教の権威らによって執筆されたものだ。
この本は3宗教の宗教学校神学生が自身の教義による厳格なレンズを通してではなく、他宗教について直接学ぶための手段となる目的で書かれたものだ。フランス語で書かれたこの本は現在アラビア語・英語・イタリア語・ドイツ語に翻訳されている。
「教育の手法として広まることに期待していいと考えます。寛容性を教えることについて、その道のりは長いのです」とピサール氏は語った。
「幼稚園児から小学生までの子供の目を外に向けさせる幼児教育プログラムを準備しています。私は6歳の息子がいる母なので、人類の歴史や人間の行動の暗部を親が子供に説明するのは難しい、ということを個人的な体験から理解しています」とピサール氏は述べた。
反ユダヤ主義・イスラム恐怖症などすべての憎悪や偏見と戦うことがアラジン・プロジェクトの大きな目標である。「私たちは皆同じ船に乗っているのですから」とピサール氏は語った。
「アブダビ宣言」は異宗教交流における画期的な出来事であるが、ピサール氏はそれが宗教的・文化的寛容性を持つ世界を築く道のりの象徴的な第一歩に過ぎないと考える。
「答えが単純であるのなら問題は既に解決されていたでしょう。私たちにはそれぞれ役割があり、私自身ならびに集団としての目標は築こうとしている社会にわずかながらでもコツコツと貢献することです」とピサール氏は述べた。
その観点から共存と寛容性を可能にするのは対話、人類の友愛、尊重だけである、と同氏は語った。
「行動を起こすという選択肢しかありません。世界を変えたいと考える人々と出会うと私は楽観します。私たちにはテクノロジーといった手段があります。やらなければならないことは多いですが、できると信じるだけでなく、具体的な方法でそれを実行して前進しなければなりません」とピサール氏は説く。
主要宗教の指導者や機関の支持があることで人々は孤独でないことを知り、影響力を持つ後ろ盾が本当に心に響くメッセージを支援していることを理解する、と同氏は述べた。
2019年のアブダビ宣言はすべての宗教、すべての文化が繋がりを持つことができるよう、できる限り包括的・全般的であるべき果敢で重要な文書である、と同氏は語った。
「異宗教を代表する2人の指導者が、互いを隔てる相違よりもこの文書の重要性は大きなものであると理解し、共通する文面に署名することに同意しました」とピサール氏は述べた。
「過激主義者は声を張り上げますが、穏健派はそうではないことを私は実感します。さまざまな文化・宗教の穏健派がエネルギーを結集して生産的な声を上げる時が来たのです。それによって重要な進歩が得られるのです」
2022年度「人類の友愛ザイド賞」受賞者は2022年2月4日に発表される。
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ツイッター: @CalineMalek