
国際連合:イラクでの残虐行為を調査している国連チームの責任者は、ダーイシュ過激派が2014年6月にモスルの刑務所で人道に対する罪と戦争犯罪を犯したと発表した。ほとんどがシーア派イスラム教徒である囚人1千人以上が組織的に殺害された。
12月2日、クリスチャン・リッチャー氏は、バドゥシュ中央刑務所で行われた処刑の犠牲者の遺体が埋葬されている集団墓地や生存者から集めた証拠から、ダーイシュ幹部が詳細に準備をした上、同年6月10日朝に襲撃が実行されたことが判明したと国連安全保障理事会に報告した。
「囚人たちは刑務所からそれほど離れていない場所に連れていかれ、宗教によって分けられ、辱めを受けた。その後、主にシーア派の囚人1千人以上が組織的に殺害された」
リッチャー氏は、ダーイシュの文書を含む、デジタル、文書、生存者、鑑識の証拠を調査団が分析して、ISまたはISILとも呼ばれるこの過激派集団の多くの構成員がこの犯罪に責任があることを特定したと述べた。
リッチャー氏によると、ダーイシュがイラクで犯した犯罪の責任を明らかにするための国連調査チームは、調査の結果として、ダーイシュがバドゥシュ刑務所で「殺人、絶滅、拷問、強制失踪、迫害、その他の非人道的行為という人道に対する罪」と、「故意の殺人、拷問、非人道的な扱い、個人の尊厳の蹂躙という戦争犯罪」を犯したと結論付けたという。
ダーイシュの戦闘員はイラクの諸都市を占領し、2014年にシリアとイラクの広大な領域で自称カリフを宣言した。数万人が死亡し、都市が廃墟と化した3年に及ぶ血みどろの戦いを経て、同集団は2017年にイラクで正式に敗北を宣言したが、同集団のスリーパーセルは引き続きイラクのさまざまな地域で攻撃を実行している。
5月に、リッチャー氏の前任者であるカリム・カーン氏は、調査団は2014年にダーイシュ過激派が少数派であるヤジディ教徒にジェノサイドを行ったという「明確で説得力のある証拠」を発見したと同理事会に報告している。同戦闘集団が化学兵器の開発に成功し、マスタードガスを使用したとも述べている。
リッチャー氏は、2日前にダーイシュの構成員がドイツ・フランクフルトの地方裁判所で初めてジェノサイドの罪で有罪判決を受けた「画期的な瞬間」を歓迎した。この29歳のイラク人被告は、人道に対する罪、戦争犯罪、傷害致死でも有罪判決を受けた。傷害致死は、母親と共に奴隷として購入した5歳のヤジディ教徒の女の子を炎天下で鎖につないで死に至らしめた事件だ。
リッチャー氏は、「今私たちは、こうした犯罪訴追を有名な例外ではなく規範にする集団的なチャンスを手に入れた。私たちはイラク当局やクルディスタン地域の当局と協力し、生存者とともに、この理事会の支援を得て、イラクにおけるISILの犯罪の被害者全員にとって意義のある正義を実現できる証拠を固めようと努めている」と述べた。
リッチャー氏によると、バドゥシュ刑務所の襲撃に関連して収集した証拠は、残虐行為の実行にあたってダーイシュが詳細に計画を練っていた事実を浮き彫りにしているという。
同過激派集団の手法は「この6カ月間に加速した他の2つの重要な調査項目、すなわちISILによる生物・化学兵器の開発と使用、および暴力活動の維持するための資金メカニズムに、よりいっそう明確に見てとることができる」とリッチャー氏は述べた。
チームが収集した証拠は「ISILが化学物質製造工場やその他の前駆物質の供給施設を明確に特定して接収し、モスル大学キャンパスを研究開発拠点にしたことも示している」とも述べた。
リッチャー氏は、同過激派集団のプログラムはより洗練されたものになり、調査団はダーイシュの化学兵器攻撃で3千人以上の犠牲者が出たことや、マスタードガスを装填したロケット砲が使用されたことを特定したと述べた。
安全保障理事会への次回の報告では、ダーイシュによる化学兵器の使用やそれに関連した犯罪についてのチームの調査結果を発表すると述べている。
リッチャー氏は、ダーイシュの財務担当者や同集団の犯罪から利益を得ている者を裁判にかけることがきわめて重要であることも強調した。
リッチャー氏によると、調査団はダーイシュの中央財務部門の内部の仕組みと、「信頼できる財務担当者として、ダーイシュが略奪や、標的にしたコミュニティからの財物の窃盗、ISILの支配下にある住民に課した搾取的な税制体系によって得た富を転用する」役割も果たす上級幹部のネットワークも明らかにしたという。
チームは最近では、同集団による「集団の資金調達を円滑にする重要な働きをしている」マネーサービスビジネスの利用に関する情報をイラク司法当局と共有しており、この種の協力を拡大することを目指しているとリッチャー氏は述べた。
AP