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レバノンの精神疾患患者が医薬品の入手に苦労し、懸念が広がる

2021年7月9日、全国でストライキが行われる中シャッターが下りたベイルートの薬局の前を通り過ぎる住人たち。(AFP資料画像)
2021年7月9日、全国でストライキが行われる中シャッターが下りたベイルートの薬局の前を通り過ぎる住人たち。(AFP資料画像)
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15 Jan 2022 07:01:47 GMT9
15 Jan 2022 07:01:47 GMT9
  • 2019年末以降、悪化の一途をたどる経済・社会崩壊を受け、精神疾患の件数が劇的に増加した
  • 一部の推計からは国に危機が及んだ結果5人に1人が不安、悲しみ、うつに苦しんでいることが示唆される

ナジャ・フーサリ

ベイルート:レバノン人が同国の経済危機による影響、政治的混乱、壊滅的なベイルート港の爆発事故の余波に苦しみ続ける中、これらの危機が精神衛生面に及ぼす負担に関して懸念が広がっている。

鎮静剤の服用人数に関する正確な統計はないが、精神科医らは昨年に精神科を受診した患者は一日当たり12人を超えたと報告する。

一方、薬剤師らは抗うつ剤、抗不安薬、気分安定剤などの向精神薬の購入希望者は薬局の客の30~35パーセントを占めると推定している。

一部の医学統計によると、レバノン経済・社会の状況により5人に1人が不安、悲しみ、うつを感じているが、多くの人にとって薬や医療が利用しにくい状況だ。

レバノンポンドの対ドルレートは暴落し、物価の高騰が収入や給与を圧迫している。2020年8月4日のベイルート港爆発事故に加え、昨年10月にタユーネで起きた武力衝突も多くの人の絶望をさらに加速させた。

「2019年末以降、悪化の一途をたどる経済・社会崩壊を受けて、精神疾患の件数は劇的に増加しました」と、メンタルヘルスサービスを提供する団体Embraceのコミュニケーションディレクター、ヒバ・ダンダチリ氏は語る。

TVトークショーでレバノンの精神疾患患者の事例を紹介するEmbraceコミュニケーションディレクターのヒバ・ダンダチリ氏。(ツイッター写真)

ダンダチリ氏によると、2021年にはEmbrace Lifelineに電話をした人が過去最高の20,000人になったという。若者やティーンネイジャーがほとんどを占める相談者の多くが経済・社会情勢の悪化や失業の影響により不安やうつ、不眠などの症状に苦しんでいたと氏は語る。

「レバノン人は2019年、路上デモを繰り広げ、怒りを露にしました」とダンダチリ氏は言う。「しかし、危機がなお悪化を遂げ、絶望しています」

「社会正義や安定の基本的権利が確保できなければ、私たちのサービスは人を助けることに留まり、解決策の提供には至りません。私たちが鎮静剤となっているのです」

保険会社で働くジョエルさん(33)は、深刻な経済状況と家族を養えない恐怖による不安感に苦しみ、精神科医を受診した。

「夜、呼吸できなくなり、パニック発作が始まりました」とジョエルさんは言う。処方された治療内容には薬局で入手できないか非常に高価な薬が含まれると、ジョエルさんは付け加えた。

レバノンアメリカン大学が12月に発表した研究では、「8月4日の港の爆発事件以来、18~24歳の若者の16.17パーセントが重度のうつに苦しみ、女性の40.95パーセントがPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいる」ことが明らかになった。

「当クリニックでは主に気分障害の患者が見られます」と、大人や子どもの治療に当たる精神科医のハナア・アザル医師は語る。

アザル医師は「レバノンの70~80パーセントが睡眠障害、胃痙攣、頻脈、湿疹、恐怖症、身体痛その他精神疾患による身体症状の結果、鎮静剤を服用している」と考えている。

アザル医師はさらに、「すべての世代、特に子どもは、不安感の結果何らかの形でこれらの疾患に苦しんでいます。皆が学校や職場に戻ったところ、行動障害や学習障害が現れ、大人では強迫性障害の患者が増えています」と付け加えた。

ほとんどの薬が国の補助金を打ち切られ、その他の薬についても部分的にしか補助金が出ないため、医師や精神科医は特に医薬品不足について懸念している。完全に補助金が下りるのはがん治療薬だけとなっている。精神疾患の薬が補助金の対象となるかどうかは、それぞれの医薬品の薬価によって決まる。



悪化する経済状況により精神的に影響を受けたレバノン住民にライフラインサービスを提供するEmbraceのボランティア医療従事者。(ツイッター写真)

「非常に多くのレバノン人が鎮静剤を服用していますが、鎮静剤の価格はわずか2カ月で25,000レバノンポンドから420,000レバノンポンドに上昇しています」。公式為替レートは1ドルに対し1,500レバノンポンドのままだがこのレートでの両替は不可能で、現在非公式の闇市場で1ドルに対し30,000レバノンポンドで取引されている。

薬剤師のサメル・ソウブラ氏は、為替レート高騰を考慮して価格を上げたにも関わらずなぜまだ医薬品不足が続くのか理解できないと言う。

「医薬品販売者は為替レートの高さにより薬局に販売したがりませんでました」と氏は語る。「現在、多くの薬の補助金が打ち切られ、闇市場の為替レートに従って価格が決定されていますが、それでも乳児用調製粉乳等、入手できない医薬品があります」

レバノンに住む何千人もが、必要な薬、特に向精神薬を入手するのに、他の国に住む親戚やトルコ、キプロス、ギリシャ、ヨルダンなどから持ち込む人、あるいはフランス在住レバノン人からの寄付に頼っている。

それでも、多くの人が入手できてないまま過ごしている。「服用をやめてしまい、治療が止まってした人もいます」と、アザル医師は語る。

精神科医のヤラ・チャモウン医師は、これまで精神疾患の兆候がなかった多くのレバノン人、特に若者が、経済危機の中で精神疾患に苦しむようになったと言う。

「うつや不安に加え、アルコールや薬物の乱用もみられます」と、チャモウン医師は語る。「眠るため、厳しい現実を忘れるために依存するようになってしまったと患者たちは言います」

精神科医らに必要な薬が手に入らないと治療が行き詰ってしまうとチャモウン医師は言う。

「向精神薬の代替品には十分な効果が得られなかったり、価格が高すぎたりします」とチャモウン医師は説明する。

フランス在住のレバノン人アマル・モウカルゼル氏は医薬品の寄付を募りレバノンに送るため、夫や友人らとともにLes Amis du Liban de Colombes(「コロンブのレバノンの友」の意)を設立した。

「現在、困窮する患者に配布してもらうため、病院から入手した120キロの医薬品をミドル・イースト航空の協力により随時レバノンの地元団体に送っています」とモウカルゼル氏は言う。

物流の問題にも直面する一方、「極めて必要とされているこれらの薬をもっと多く送れるよう取り組んでいきます。多くは糖尿病や高血圧、精神疾患の薬です」と、モウカルゼル氏は語る。

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