エファレム・ コッセイフィ
ニューヨーク:シリア内戦で戦況のこう着が続くなか、いかなる紛争当事者も10年に及ぶ内戦の結末に決定的な影響力を行使する能力がないのは明らかで、軍事的解決という発想は「幻想」でしかない、と27日に国連のシリア担当特使が安保理で発言した。
「戦闘と苦難が続くなか、戦況は2年近く変わっていません」とゲイル・ペデルセン特使は述べた。
「既存の当事者または当事者グループに、シリア内戦の今後の流れや結果を左右する力がないのは明らかで、軍事的解決が想定不能な状況であるのが事実です」
ペデルセン特使は、シリア国内の複数の地域で治安が安定せず「相変わらず国民が多大な苦難を強いられる」状況を強調した。
特使は戦闘が収まる様子が見られないとし、イドリブ県への空爆による民間人殺害とインフラ破壊、各前線をはさんだ砲撃の応酬、北東部での戦闘継続、北部での手製爆弾を使ったテロ事件頻発、シリアの重要物流拠点ラタキア港に対するイスラエルの空爆などを挙げた。シリア北東部と中央部で、麻薬密輸やダーイシュ(IS)による襲撃など治安を脅かす事件が続発している点も指摘した。
ペデルセン特使は、シリアの人権状況が「悪化の一途」をたどり、厳しい冬の寒さが追い打ちをかけていると述べた。
「現在、1400万人の民間人が人道援助を必要としています」と述べた。「いまだに1200万人を超える人々が避難を余儀なくされています。数万人が拘留・誘拐されるか行方不明となっています。シリア経済は崩壊しています。犯罪や密輸が横行しています。さらに、国外脱出を目指す若者たちが、人身売買業者や武装組織の餌食になっているとの情報も寄せられています。
「教育システムが崩壊して壊滅的な被害が出ており、現実に教育機関やインフラ全体に被害が発生しています。シリアは事実上国家が分断された状態が続き、社会の崩壊が深刻です。政治的解決に向けた具体的な動きが、国民には一切見えない状況です」
こうした状況を説明した後、ペデルセン特使(ノルウェー人)は安保理の15の理事国に対し、外交プロセスを前進させるべく自らが最近取り組んだ内容について説明した。ドイツ・イラン・ロシア・トルコ・カタール・イギリスの政府当局者と、ここ数週間「シリア憲法委員会」の進捗状況を議論するため会談した際の最新情報を15の理事国に伝えた。憲法委員会の直近の会合は、昨年10月に開催された。
12月には、ペデルセン特使の代理を務めるカウラ・マター氏(バーレーン人)が、カザフスタンで開催されたシリア問題の解決を目指すアスタナ・プロセス関係国会議に出席した。彼女はロシア・トルコ・イラン・シリア政府および反政府勢力の高官たちと会談した。
さらにマター代理特使は「捕虜や人質の身柄解放・遺体の引き渡し・行方不明者の身元特定に関するワーキンググループ」の各担当者とも会談した。ペデルセン特使は、会談では前向きな提案が出されたが「こうしたアイデアを今すぐ実行に移すことが不可欠で、全当事者に対して行動を促しています」と述べた。
さらにペデルセン特使は、ロシア・EU・トルコ・カタール・アラブ連盟・ドイツ・フランス・イタリア・イギリス・アメリカの当局者と2者協議を重ねてきたと述べた。特使はこうした2者協議は「時間をかけて繰り返し相手に働きかける必要のある圧延工程」のようなものと表現した。
こう付け加えた。「協議の相手全員に同じ質問を投げかけています。自国の要求だけでなく、相手方の譲歩に対しどういった対応を取る用意があるのかを、明確に提示できますか」
特使は「実行可能な斬新なアイデアを出すよう、全当事者に働きかけている」と述べた。問題となっているのは、人質や行方不明者の扱い、難民たちの安全で「自発的な」帰国、「10年を超える内戦・腐敗・国家運営の誤りで崩壊」した経済の復興、シリア全域での戦闘停止、テロとの戦いにおける協力体制、隣国レバノンの金融危機への対応策など。
さらにペデルセン特使は、シリア北東部アル・ハサカ県のアル・グウェラン刑務所の近辺に暮らす民間人が被った窮状に注意を向けた。先週、ダーイシュの戦闘部隊が収容されている仲間を逃がすため刑務所を襲撃し、少なくとも300名の被収容者が死亡した。
国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、襲撃事件に伴う武力衝突と、地域を実効支配する「シリア民主軍」を支援するための米軍主導の有志連合による空爆で、4万5000名を超える民間人が避難を余儀なくされているという。
国連の人権専門家フィオヌラ・ニアレン氏は、刑務所に収容されている700名を超える子供たちの置かれた状況に対し、深刻な懸念を表明した。
彼女は、わずか12歳の少年たちが「刑務所内の混乱や虐殺に巻き込まれ、生命の危機に瀕しています。指定テロ組織との関係が疑われる親のもとに生まれたということ以外、彼ら自身には何の罪もありません。それなのに母国から見捨てられているのです」
ペデルセン特使はこう述べた。「ユニセフ(国連児童基金)は、未成年者用の収容施設にダーイシュ構成員が収容されているとの情報に注意を喚起しました。何百人もの子供たちが収容され危険にさらされています。
「今回の件は、2014年と2015年にダーイシュが元々台頭するきっかけとなった刑務所襲撃・脱獄事件の苦い思い出を彷彿とさせます。
「私は本件により、国際社会全体が団結して国際テロ組織に立ち向かい、テロの温床となる広域紛争を解決することの重要性が明示されていると考えます」
アメリカのリンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使は、アル・ハサカ県の現状を見ると、ダーイシュが「いまだに実在する脅威」であることは「明確だ」と述べた。
彼女は、アメリカがシリア紛争解決に向けた外交プロセスを支援すると繰り返し、ペデルセン特使の対話を促す取り組みに対して「建設的なコメントすら出さない」国が複数あることは嘆かわしいと述べた。
大使はシリアのファイサル・メクダッド外相を名指しで非難し、ペデルセン特使の「シリア紛争の解決に向けた国際協調モデルを、シリア政府は拒否する」と公式発言したことを挙げた。
トーマス・グリーンフィールド大使は、シリア憲法委員会で進展が見られないことに対するペデルセン特使の失望をアメリカ政府が共有し、「アサド政権にシリア新憲法作成に協力する姿勢が見られない」ことに対する失望を表明した。
アラブ首長国連邦(UAE)のモハメッド・アブシャバブ国連代理大使は、ペデルセン特使の取り組みに対する支持を表明した。安保理に対し、UAEが思い描くシリア紛争の平和的解決策とは「対話のチャンネルを開き橋を架け、憲法委員会を支援し再び活性化する機会を作り、外国による介入を終わらせる」ことなどだと述べた。
彼はこう付け加えた。「シリアで和平を成立させ国内を安定させるのに適した環境を作り出すには、シリア問題に対する外国の介入を終わらせることが不可欠です。UAEはこの場にて、シリア・アラブ共和国の統一・独立・領土保全を維持することの重要性を強く訴えます。
「これに関連しUAEは、国連事務総長とシリア担当特使によるシリア全域での即時停戦実施の呼びかけを支持し、停戦を持続させることの重要性を強く主張します」