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ウクライナ戦争は中東と北アフリカの食糧安全保障の問題を悪化させる

2019年7月5日。キエフから北にあるチェルニーヒウ地域のクラースネ村付近の畑で小麦を刈る収穫用コンバイン。(アナトリー・ステファノフ/FAO/AFP)
2019年7月5日。キエフから北にあるチェルニーヒウ地域のクラースネ村付近の畑で小麦を刈る収穫用コンバイン。(アナトリー・ステファノフ/FAO/AFP)
ロシア南部スタブロポリ地方の小麦畑。コンバインで刈り取った収穫物を搬入する農民たち。(AFP/ファイル・写真)
ロシア南部スタブロポリ地方の小麦畑。コンバインで刈り取った収穫物を搬入する農民たち。(AFP/ファイル・写真)
2022年3月1日、紛争で荒廃したイエメン西部のホデイダ県。内戦で避難したイエメン人に配給する食糧援助の準備をする作業員。(写真:カレド・ジアド/AFP)
2022年3月1日、紛争で荒廃したイエメン西部のホデイダ県。内戦で避難したイエメン人に配給する食糧援助の準備をする作業員。(写真:カレド・ジアド/AFP)
2020年4月24日、シリア北西部の都市イドリブで、パン屋の前に列を作る人々。(オマー・ハジ・カドウアー/AFP)
2020年4月24日、シリア北西部の都市イドリブで、パン屋の前に列を作る人々。(オマー・ハジ・カドウアー/AFP)
2022年3月3日、ウクライナ第二の都市ハリコフで、ロシア軍による最近の砲撃で壊滅した建物の様子。(サージェイ・ボボック/AFP)
2022年3月3日、ウクライナ第二の都市ハリコフで、ロシア軍による最近の砲撃で壊滅した建物の様子。(サージェイ・ボボック/AFP)
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12 Mar 2022 12:03:07 GMT9
12 Mar 2022 12:03:07 GMT9
  • ロシアのウクライナ侵攻により、食料、石油、輸送コストにインフレの影響が及ぶと各国当局が予測
  • 低コストの黒海産穀物に依存しているMENA諸国と援助機関は、代替供給源を探すために奔走

ナディア・アル・ファオール

ドバイ:2月24日、ロシアの戦車がウクライナに突入したとき、戦場から遠く離れた地域でも警鐘が鳴り始めた。この紛争は、中東・北アフリカ地域のアラブ諸国を筆頭に、多くの国が小麦の供給を両陣営に大きく依存していることを明白にした。

レバノン、エジプト、チュニジア、イエメン、スーダンの各政府や国際援助機関にとって、この紛争が地理的な距離以上に身近に感じられたのは、そのためでもある。

この戦闘により、ロシアとウクライナは、数日のうちに、最大の市場の一つである同地域への小麦の輸出を継続する能力を制限することになった。両国とも、主食の多くを価格の安い黒海産の小麦に依存しているためだ。

ウクライナはいくつかの港を閉鎖し、アゾフ海での船舶の移動は、追って通知があるまで停止するよう要請している。その影響はすぐに現れている。

輸入コストの上昇、財政赤字、紛争によってすでに食糧不足に陥っていた中東・北アフリカ諸国(MENA)は、新たな課題に直面している。ウクライナやロシアからの小麦の供給が停止・減少すれば、世界で最も食糧事情が不安定な国々の国民から、パンやその他の生活必需品を生産する力を奪うことになる。

ロシアとウクライナは、コンピューターチップ、石油、木材、穀物、ひまわり油などの主要産業であるほか、両国合わせて世界の小麦輸出の14%以上、世界のトウモロコシ市場においても同程度の割合を占めている。


2019年7月5日。キエフから北にあるチェルニーヒウ地域のクラースネ村付近の畑で小麦を刈る収穫用コンバイン。(アナトリー・ステファノフ/FAO/AFP)

米国農務省の推計によると、ロシアは世界トップの小麦輸出国であり、ウクライナは世界第4位の小麦輸出国である。また、ロシア、ウクライナ、ベラルーシは、世界有数の肥料輸出国でもある。

ロイターは、貿易業者や銀行家の話を引用し、次のように報告した。「戦争がウクライナの港からの出荷を停止させ、金融制裁がロシアの小麦購入のための支払いを押し留め、MENA諸国の政府の肩に追加のリスクを積み重ねた」

ある中東の商品仲買人は、海運の途絶、新たな経済制裁、保険料の上昇などを理由に挙げて次のように述べた。「ウクライナやロシアから商品を買うのは不可能になりつつある。誰もが他の市場を探している。市場は、戦闘が終わるまでウクライナとロシアの輸出が再開されるとは思っていない」


ウクライナの黒海に面した都市オデッサの海港は、同国の穀物供給を外国に出荷していた。現在はロシアの侵攻と国内における穀物供給のために閉鎖され、各国の食料供給を脅かしている。(写真:オレクサンダー・ギマノフ/AFP)

レバノン当局は、同国の小麦の在庫は1カ月で底をつくと予想している。小麦の90%を輸入に頼っているイエメンは、まさにパニック状態である。長年にわたる干ばつで飢餓に近い状況が生まれ、イエメンの人口の大部分は食糧援助に頼るようになった。2014年にフーシ派が首都サヌアを占拠して以来、状況は悪化している。

昨年、ウクライナは国連の世界食糧計画(WFP)に小麦を供給する第2位の国であった。その援助の多くは、戦前における人口の10人中9人が貧困線上にあるか、それ以下になっているシリアに送られたと国連は発表している。

WFPのデイビッド・ビーズリー事務局長は、資金不足のため800万人の市民への配給を半減し、さらに大幅な削減を余儀なくされたと述べた。WFPのウェブサイトに掲載されたビデオでは、「最悪の状況だと考えていたが、さらにウクライナで戦争が起きてしまった」と付け加えた。

「私たちは穀物の50%をウクライナとロシアから調達している。これから、食料、石油、輸送コストに劇的な影響を与えるだろう。これ以上悪くならないと思った矢先、さらに悪くなりそうだ。ここは大惨事の上に大惨事が重なっている。心が痛む」


2022年1月14日、内戦で荒廃したイエメン西部ホデイダ州コーハ地区のキャンプ。最低限の生活維持のための食糧支援を受ける避難民。(カレド・ジアド/AFP)

レバノンでは、2020年8月にベイルート港を破壊した爆発によって、差し迫った食糧危機のイメージが国民の記憶に刻まれた。レバノンは輸入小麦の新たな貯蔵場所は確保したが、今度は小麦の新たな供給源を見つけなければならない。

レバノンのアミン・サラム経済貿易相は、レバノンは小麦の約60%をウクライナとロシアから輸入していると述べた。政府は代わりに、フランス、インド、米国と、より高いコストで小麦を調達することを目的として協議を開始したとしている。

ベイルート在住のエリオ・アラム氏は木曜日、アラブニュースに対し、「今日はクロワッサンもマヌーシュも買えなかった」と語った。「多くの店に立ち寄ったが、どの店もパンを作るための小麦粉を節約するために、他のものは作っていないと言っていた。しかし、いくつかのパン屋ではパンさえもなくなっている」

レバノン経済の惨状を考えると、懸念点は2つある。政府がどこから物資を調達するのか、そして、どうやってその費用を支払うのか、である。ベイルートの農業研究センター兼コンサルタント会社CREALのリアド・サーデ社長は、アラブニュースに次のように語った。「レバノン財政の実態は、財政運営のプロフェッショナリズムが全く欠如しているため、明確とは言い難い。その結果、国庫内にまだ資源があるかどうかを判断することは不可能である」


深刻な経済危機により基本的な物資が不足する中、レバノンのナバア地区でパン屋に並ぶ人々。(AFP/ファイル・写真)

「当局は、小麦の補助金については、他の予算から資金を確保する方法を模索する可能性がある。また、政治的な影響もある寄付を求めるだろう。米国とフランスは、レバノンの人々を支援することを考えるかもしれない。WFPの役割もあるかもしれない」

「国際市場は開かれており、アクセスも可能だ。問題は、輸入のための資金調達と、危機で上昇した価格への対応である。オーストラリアやカザフスタンも供給源になりえるだろう」

パンを求める暴動や市民の不安の可能性を否定しないサーデ氏は、次のように語った。「人々が反乱を起こすしかない状況にまで来ているのかもしれない」

レバノンと同様に、資金不足のMENA諸国の政府関係者は、代替の穀物供給を手頃な価格で確保しようと躍起になっている。

シリア政府高官は、侵攻開始後に緊急会議を開き、穀物、砂糖、食用油、米の国家備蓄を把握した。シリアのバッシャール・アサド政権の閣僚は、今後2カ月間、地元市場で一部の基本物資の価格を引き下げ、石油の配給を行うことを検討していると伝えられている。


2020年4月24日、シリア北西部の都市イドリブで、パン屋の前に列を作る人々。(オマー・ハジ・カドウアー/AFP)

既存の緊縮財政に加え、供給の削減は政権支配地域に住むシリア人にさらなるストレスと経済的負担を強いることになる。反政府勢力やクルド人の統治下にある地域に住む人々は、トルコ、イラク、レバノンとの国境を越えた貿易に大きく依存しており、彼ら自身も慢性的な供給問題を抱えている。

反政府勢力支配下のイドリブは、中東で最も食糧不足が激しい地域の一つである。労働者で3児の父であるオマル・カリム氏は、彼の家族は「すでに毎日飢餓の瀬戸際で暮らしている」と述べた。

長年、ロシアとアサド政権の砲撃の下で暮らしてきたカリム氏は、彼の家族が近いうちにまたロシアが引き起こした戦争の影響に苦しむことを恐れている。

「ロシアは私たちを踏みつけにし、シリアの内外で戦争をしている」とカリム氏はアラブニュースに語った。「どうしたら家族を養い続けられるかわからない。私たちは何を食べるのだろう?草でも食べるのか?」

エジプトも危険を察知している。アナリストは、ここ数日で小麦の価格が50%近く上昇したことから、ウクライナでの戦争が同国の経済に深刻な脅威をもたらす可能性があると見ている。


2022年1月14日、内戦で荒廃したイエメン西部ホデイダ州コーハ地区のキャンプ。最低限の生活維持のための食糧支援を受ける避難民。(カレド・ジアド/AFP)

ワシントンを拠点とする中東研究所の非専属学者、マイケル・タンチャム氏はこう語る。「エジプトはすでに代替供給先を見つけなければならない状況にある。さらにエスカレートして黒海の輸出がすべてストップすれば、ロシアの供給も市場から消え、壊滅的な影響を与える可能性がある」

エジプトは世界で最も多くの小麦を輸入しており、ロシアにとって2番目に大きな顧客である。S&Pグローバルによると、エジプトは1月中旬に350万トンを購入した。アラブ世界で最も人口の多いこの国は、ルーマニアをはじめとする他の国から購入し始めていたが、その輸入の80%はロシアとウクライナからである。

「約4ヶ月分の小麦の備蓄があるので、エジプトはこの難局を乗り切ることができる。しかし、そのためには、カイロは即座に決定的な行動をとる必要があり、アメリカやヨーロッパのパートナーのタイムリーな支援によって、さらに効果的になる」とタンチャム氏は付け加えた。


アラブ世界で最も人口の多いエジプトは、輸入品の80%をロシアとウクライナから購入している。(AFPのファイル写真)

ウクライナ戦争は、MENA地域やトルコの食用油のコスト上昇にもつながる恐れがある。ロシアとウクライナからの輸入が止まっているため、トルコでは、基本的な品目の入手可能性に関する政府の保証にもかかわらず、ひまわり油のパニック買いを引き起こした。

トルコにおける植物油の輸入需要の55%を供給しているロシアと、15%を供給しているウクライナからの貨物を積んだ船がアゾフ海で足止めされている。この戦争がウクライナの今年の収穫に影響を与え、ロシアへの制裁で支払いが滞れば、懸念はさらに大きくなるだろう。

過去20年間の混乱と混沌の中で、中東の食糧確保への脅威が憂慮すべき規模に達することはほとんどなかった。どんなに大きな混乱があっても、関係者は常に主食の供給を維持する方法を見つけ出していた。世界の穀倉地帯を戦争に巻き込んだウクライナ危機は、それに比べると異質さを感じさせている。

―ロイターとAFPから情報提供

 

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