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湾岸アラブ諸国におけるエネルギー転換の課題への取り組み

湾岸アラブ諸国は、環境保護と長期的な生活の質の向上を両立させるモデルを求めている。(AFP)
湾岸アラブ諸国は、環境保護と長期的な生活の質の向上を両立させるモデルを求めている。(AFP)
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25 Apr 2022 06:04:12 GMT9
25 Apr 2022 06:04:12 GMT9
  • サウジアラビアとUAEは、過去1年間で、再生可能な太陽光発電、風力発電、水素発電において大きな進歩を遂げた
  • 湾岸諸国は、繁栄する経済と高い生活の質を支える環境の両方を確保することが可能に

カリーン・マレック

ドバイ:ウクライナ戦争が始まる前から、既に明らかになっていたことがある。それは、従来型エネルギーへの需要がなくならないということだ。その供給途絶のリスクが高まっている今、ブレント原油が1バレルあたり107ドル、天然ガスが1MMBTU(英熱量)あたり6.95ドルで推移している。燃料価格高騰による湾岸アラブ諸国の財政上の恩恵は、同地域に「グリーン経済」への変革を加速させる余力を与えている。

昨年はすでにこれらのエネルギー輸出国が、気候変動との戦いのための加速的な行動を求める声に応えて、数多くのイニシアチブを立ち上げてきた。それには野心的な「循環型炭素経済」やネットゼロエミッションの誓約、自然エネルギーや電気自動車生産への投資などが含まれる。

同時に、湾岸地域では昨年、ドバイのモハメド・ビン・ラシッド・ソーラー・プロジェクトの第3段階が完了した。また、サウジアラビア初の風力発電所がドゥーマト・アル・ジャンダルで稼働するなど、実用規模の太陽光発電や風力発電の開発で顕著な進展があった。

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のフランチェスコ・ラ・カメラ事務局長はアラブニュース対し、「これらの出来事は、知識と経験によって開発の勢いを増すという、ブレイクスルーの瞬間となりました」と語った。

「これらの低コストの自然エネルギープロジェクトは、コスト的な競争力のあるグリーン水素の製造への扉を開くものでもあります。私たちは、水素がエネルギーシステムの脱炭素化において極めて重要な役割を果たすと確信しています」

IRENAの報告書「世界のエネルギー移行の展望」によると、今世紀半ばには、水素が世界の最終エネルギー消費量の12%を占め、現在の限界的な水準から上昇する可能性があるとされている。

「このような市場機会をとらえようとする地域の明確な意思表示がすでになされています。この地域が、炭化水素に関する専門知識と経験を生かすことができる、エネルギー転換期における新しい重要な役割を担っていること証明されるかもしれません」とラ・カメラ氏は述べている。

昨年11月にグラスゴーで開催された国連気候変動会議(COP26)に先駆け、UAEは2050年までに炭素排出量ゼロを達成し、クリーンエネルギーと再生可能エネルギーのソリューションに最大1600億ドルを投資するとの公約を掲げた。

その前月には、サウジアラビアが「サウジ・グリーン」および「中東グリーン」イニシアティブを立ち上げた。そして、2060年までの温室効果ガス排出量におけるネットゼロの実現、今後数十年間での100億本の植樹、800万ヘクタールの劣化した土地の修復、新しい保護地域の割り当てを約束した。

最近では、アブダビ国営石油とアブダビ国営エネルギーが、UAEの国営持株会社ムバダラとともに、クリーンエネルギー企業マスダールの株主となることを発表している。

湾岸は太陽光発電の拡大に理想的な気候を享受している。(シャッターストック)

このパートナーシップは、2030年までにマスダールの再生可能エネルギー供給能力を50ギガワットまで増やし、グリーン水素や再生可能エネルギーなどの分野を中心に、グローバルなクリーンエネルギー大国を作ることを目的としている。

サウジアラビアでも同様の開発が行われている。紅海沿岸のスマートシティであるNEOMでは、世界最大の浮体式産業都市である「オキサゴン」の立ち上げを筆頭に、複数のプロジェクトが進行中である。

「オキサゴン・プロジェクトは、世界で最も人気のある航路のゲートウェイにおいて、100%再生可能エネルギーで駆動し、様々な産業間の幅広いレベルでの共生を可能とする、産業のあり方を再構築する画期的なアイデアで構成されています」と、WSPミドルイースト社の企業サステナビリティ主任、ダニエル・グリビン氏はアラブニュースに語っている。

「この地域がより持続可能な未来へ向かっていることは、周知の事実です。高い透明性や個々の消費者の行動、そして地域のリーダーのビジョンが、世界のテーブルにつくために必要な対応と行動を加速させています」

「国際的な投資家からの持続可能性への配慮に対する要求も、地域市場のESG意識を高める推進力となっており、それが評価や評判に寄与しています」

サウジアラビア東部州ダンマームの北約95キロにあるジュバイル工業都市にあるジュバイル海水淡水化プラントの様子。(AFP/ファイル・写真)

IRENAのUAE常任代表であるナワル・アル・ホサニ氏によれば、この1年で気候変動対策に対する地域の取り組みに大きな変化があったという。

例えばCOP26においてUAEは、途上国の再生可能エネルギーへの移行を加速するために10億ドルの資金調達を目指す「UAE-IRENAエネルギー移行アクセラレータ融資プラットフォーム」など、野心あふれる画期的な誓約やパートナーシップの数々を発表している。

UAEは、アブダビ開発基金(ADFD)を通じて、このプラットフォームに4億ドルの資金を提供することをすでに表明している。

アル・ホサニ氏はアラブニュースに対し、「我々はまた、エジプトを競争力のある世界的な水素輸出国として確立することを目指す、水素リーダーシップロードマップを発表しました」と述べた。

「エジプトでのCOP27、そして2023年のUAEでのCOP28を見据えて、気候変動対策の推進力は中東全域に波及していくでしょう」

ラ・カメラ氏は、エネルギー転換は止められないメガトレンドであり、それはイノベーションに支えられ、長期的な繁栄と気候変動対策の追求を動機としていると述べている。

「GCC諸国はこの機会を認識し、それに従って行動している」と彼はアラブニュースに語っている。

「また、湾岸地域が世界のエネルギー転換における重要なプレイヤーとして位置づけられていることを認識することも重要です。なぜなら、湾岸地域の指導者たちは、炭化水素資源によって得られた富と、クリーンエネルギーの膨大な潜在力が、知識、クリーン技術、長期的なエネルギーリーダーシップを中心にした弾力性のある経済を構築する機会を与えてくれていることを理解しているからです」

アル・ホサニ氏は、炭化水素が今後も数十年にわたりエネルギーシステムにおいて重要な役割を果たし続けると考えている。公平かつ包括的にエネルギー移行を管理することは、気候変動の流れを変えるために不可欠だからだ。

「経済成長と、持続可能な開発のバランスを考え直す必要があります」と、彼女は語っている。

サウジアラビア、ジェッダのガソリンスタンドで、車のタンクに給油する従業員。(AFP/ファイル・写真)

「しかし、この移行は一夜にして実現するものではありません。私たちはまず、再生可能でクリーンなエネルギー源を含んだ『エネルギーミックス』へと移行しなければなりません。次世代のエネルギーシステムへの移行は必要ですが、今あるエネルギーシステムから簡単にプラグを抜くことはできません。スイッチを入れればいいというような単純なものではないのです」

砂漠化から干ばつまで、中東は気候変動の影響を特に受けやすい地域である。化石燃料から自然エネルギーへの移行は、国によってさまざまな理由があるが、ラ・カメラ氏によれば、たとえ炭化水素の長期的な輸出の将来が不透明であっても、湾岸地域はこの移行から得るものがたくさんあるとのことだ。

「その広大なクリーンエネルギー資源を活用することで、21世紀に向けて多様な成長と新たな雇用の創出が期待できます。さらに、地球の気温がこのまま上昇し続ければ、この地域が危険な状況に陥ることも忘れてはなりません」

ラ・カメラ氏は、気候危機について「今世紀中に地域の平均気温が世界平均の2倍程度になる可能性があります。その一方で、すでに不足している水の供給への圧力がさらに高まります。これは、この地域だけでは解決できない、根深く非常に現実的な脅威ですが、各国が解決の一端を担う必要があります」

グリビン氏は、人類が直面する課題に「特効薬」はないと考えている。そのため、政策立案者、企業、個人が協力して、共通の解決策を見出す必要があるという。

「気候変動に直面する課題の解決に向けた投資は、人類にとって有益であるだけでなく、スマートなビジネスでもあります」

「個人の原動力と消費者行動は変化しており、『グリーン』で持続可能な製品への需要は高まる一方です。特に食料の輸入依存度が極めて高く、炭化水素の拡散を進めてきた地域としては、早期の投資が解決策の一端を担うことを保証する鍵となります」と述べた。

今行動することで、この地域は繁栄する経済と、次の世代のための、質の高い生活を支えることができる環境の両方を確保することができる、とグリビン氏は言った。

ウクライナへの侵攻は、世界の自然エネルギーへの流れを加速させる可能性があり、ヨーロッパはロシアの天然ガス供給への依存を大幅に減らすと予想される。湾岸諸国がその財政的余剰を利用して、再生可能エネルギー、水素、アンモニア輸出、CO2回収・貯留などのプロジェクトの開発を急げば、ポスト石油時代に向けた十分な準備ができるだろう。

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ツイッター: @CalineMalek

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