ダマスカス:ソマール・ハジム氏は2009年にダマスカスに開業したベイトローズホテルに高い期待をかけていた。古代都市にはブティック型ゲストハウスが増えつつあり、観光客に好評を博していた。しかし、その後、戦争勃発により、ホテルは閉鎖に追い込まれた。
ダマスカスの治安は数年前に回復しているが、戦争の傷跡が残るシリアでは、気前の良い外国人観光客は戻っていない。
ハジム氏のホテルは絵のように美しい中庭を囲む部屋を持つ18世紀の邸宅を利用しているが、同氏にホテルを再開する予定はない。ハジム氏の判断は、11年間の紛争に苦しむシリアの観光と幅広い経済活動の弱さを反映している。
屋上のラウンジに座る人々=2022年8月3日、シリア・ダマスカス。(ロイター)
「シリアを訪れる外国人観光客の数は、2011年以前と同様、ごく少数です」と、ハジム氏はダマスカスの古い民家で経営しているカフェで水パイプを吸いながら言った。だが、彼には一縷の望みがある。在外シリア人の訪問が増えているのだ。
2010年のピーク時、シリアの外国人観光客数は1,000万人で、その多くは欧米人だった。しかし、2011年に、戦争が勃発し、すべてが変わった。最低でも35万人が死亡し、人口の半分が住処を追われ、数百万人が難民として国外に追いやられた。
現在、シリアを訪れる外国人の多くは、バッシャール・アル・アサド大統領政権と良好な関係にある国々から訪れている。イラク人、レバノン人、イラン人など、シーア派イスラム教徒の聖地巡礼者から成る。
ソマール・ハジム氏が経営するカフェでバックギャモンをする男女=2022年7月31日、シリア・ダマスカス。(ロイター)
ムハンマド・ラーミー・マールティーニー観光大臣はロイターの取材に対し、2022年上半期の外国人訪問者数は2021年同期の57万人から75万人に増加したと述べている。また、増加の要因として、新型コロナ(COVID-19)に関わる入国制限の緩和を挙げている。
また、大臣は、今年の訪問者数が、2018年および2019年の水準まで回復する見通しを示した。
大臣は「イラクからは10万人近くの訪問者がおり、同時にレバノンなど友好国からの訪問もある。だが何よりも多いのは在外シリア人による訪問だ」と述べており、在外シリア人による消費額は外国人観光客に近く、経済の後押しとなっていると説明した。
シリア経済は、隣国レバノンの財政破綻に端を発した2019年以降の通貨価値の急落などの要因によって、悲惨な状況に陥っている。
自宅でノートパソコンを使う、サウジアラビア在住のシリア人、サミ・アルコダイミ氏=2022年8月6日、シリア・ダマスカス。(ロイター)
必需品への補助金支給措置は段階的に解除され、燃料などの品目は前例のない水準まで値上がりしている。通貨価値の暴落は、外国通貨を持ち込んで訪れてくる在外シリア人の購買力を高めたが、一部の基本的な生活用品に関しては格差があり、不満が募っている。
サウジアラビア在住のシリア人、サミ・アルコダイミ氏は、シリア内戦のピークだった2011年から2019年まで同国を離れていた。
アルコダイミ氏は、これまでのシリア訪問と比べて今回は期待を削がれたという。その理由として、今夏の物価高騰、燃料不足、暑さによる電力供給の悪化などを挙げている。
「リヤドから車で来ました。ガソリンでとても困っています。何とか手に入れようと苦戦しています」と同氏は話した。
ロイター