アル・アガワット、イラク:ヨウネス・アジルさんが自宅の蛇口をひねっても、何も出てこない。干ばつに見舞われるイラクの数十の村では水道の水が出ず、時々給水車が運んでくる水と塩辛い井戸の水で何とか暮らしている。
アジルさんと8人の子ども達はアル・アガワットの自宅で、飲み水から風呂、食器洗い、洗濯まで全てにおいて、ディワーニーヤ県当局が週に1、2回トラックで届ける水を待っている。
時に摂氏50度近くまで気温が上がる焼けるような酷暑の中で、彼は4日間も風呂に入っていないと言う。
水は「毎日届けられたとしても、足りないでしょう」と42歳のアジルさんは述べた。
イラクはアラビア語で「2つの川の土地」と呼ばれるが、かつては潤沢だったチグリス川とユーフラテス川の水位は激減している。
ディワーニーヤ県を通るユーフラテス川はこの数カ月で明らかに水量が減り、いくつかの小さな支流は干上がっている。
ズヘイル・アル・シャーラン知事は県の「およそ3分の1」の地域で水を手に入れるのが難しくなっており、75以上の村が影響を受けていると述べた。
アジルさんは井戸を掘ったが、その水は塩辛い。
「井戸の水を給水車が運んでくる水と混ぜて、なんとかやりくりしています」と彼はAFPに語った。
村の未舗装の道路を通ってやってくるオレンジ色の給水車に、地元の子ども達は大声を出して、駆け寄っていく
1人が背の高い白色のタンクの上に登り、給水車の水を噴き出すホースを持って水を入れる間、小さなタンク、あるいは鍋まで持ち出して、水を入れようとする人々が待っている。
子ども達は、間に合わせの窮屈な浴槽として地面に置かれている錆び付いた古い冷蔵庫の中で、大喜びで水遊びをする。
国連はイラクを世界で5番目に気候変動の影響を受けやすい国としている。
当局は、現在の水不足の原因は干ばつだけではなく、隣国トルコやイランで一部の川や支流の上流に建設されたダムにもあるとしている。
アジルさんは兄弟のモハメドさんと自宅を共有している。
近隣の多くの人々と同様に、彼らも農業で生計を立てていた。
しかし、この2年間に干ばつによって地域の農業が大打撃を受けたため、生き抜くために羊を売っている。
村には50軒ほどの家があるが、残っているのは10家族だけだとアジルさんは述べた。
「他の人達は出ていきました」と彼は語る。「水が無ければ、もはや生活できません」
イラクの国際移住機関が今月発表した報告書によると、同国では「気候変動による移住は既に現実のものとなっている」という。
報告書によると、今年3月時点でイラク中部および南部の10県で3,300以上の家族が「気候要因」のために移住を余儀なくされており、原因は水不足、塩分の高さ、水質の悪さだという。
ディワーニーヤの水資源を管理するハッサン・ナイム氏は、約20の処理施設が停止していると述べた。
以前は「いくつかの川が涸れても、それは数日間のことでした」と同氏は語った。
現在の窮状は2か月以上続いている。
ナイム氏は、当局が需要に比して「非常に少ない」量しか給水していないと認めながらも、塩分濃度の高い井戸水を使わないよう注意を促した。
ディワーニーヤ県のシャーラン知事は、同県の水不足が解消されるためには、ユーフラテス川沿いで現在の毎秒85~90立方メートルの流量の2倍の水量が得られなければならないと述べた。
同氏は、収入を生み出す「国境検問所も、油田も、宗教的聖地も、観光産業もディワーニーヤにはありません」と述べ、連邦政府の給水制限計画から同県を除外するようイラク政府当局に求めた。
「農業は私たちの命です」と同氏は述べている。
怒ったディワーニーヤの住人数百人が、この状況に抗議して街頭デモを2度行った。
アル・アガワットに住むラッザク・イッサさんは、水の供給を増やすためにはユーフラテス川の源流があるトルコとの協定が必要だと考えている。
「節水することはできますが、とても暑いのです。どうやって節約しろというのでしょう。風呂に入らず、洗濯をせず、子ども達を風呂に入れないでいろと?それは無理です」と彼は述べた。
イッサさんも、井戸の塩辛い水を当局が給水車で届ける水と混ぜている。
「どこに行けるでしょう?」と彼は言う。「イラクのどこに行っても『拷問』です」
AFP