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ペルシャ湾岸のAI企業、新型コロナ対策でゲノム研究の最先端に躍り出る

ドバイのアルバーシャ・ヘルスセンターでCOVID-19コロナウイルスの予防接種を受けるアラブ首長国連邦の男性。(2020年12月24日、ファイル写真:AFP)
ドバイのアルバーシャ・ヘルスセンターでCOVID-19コロナウイルスの予防接種を受けるアラブ首長国連邦の男性。(2020年12月24日、ファイル写真:AFP)
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03 May 2021 03:05:13 GMT9
03 May 2021 03:05:13 GMT9
  • 遺伝子分析は、科学者たちが新型コロナウイルスの起源を理解し、変異体を特定し、また検査方法を改善するのに役立っている
  • 成功すれば、アブダビ拠点のG42 Healthcareによるワクチン「ハヤットVax」により、アラブ首長国連邦(UAE)は新型コロナのワクチンを製造する最初のアラブ国家となる。

ドバイ:植物や動物から微細なウイルスまで、あらゆる生物の生命の青写真は、細胞生物の特性を決定する遺伝情報を伝達する分子構造、DNAとRNAにコード化されている。

このDNAとRNAの構造を解明するゲノム配列研究は、科学者たちが「SARS-CoV-2」とも呼ばれる新型コロナウイルスの起源を理解し、その潜在的により伝染性の高い変異体を特定するのに役立っているのだ。

遺伝子構造解明の分野の研究がなければ、新型コロナウイルス関連の検査と現在のワクチン開発の進展はあり得なかった。現実に、新型コロナ感染症の流行により、コロナウイルスの科学的理解は急速に進歩し、ファイザーとモデルナによる新しく革新的なmRNAワクチンの開発につながったのだ。

新型コロナウイルスのRNA配列に関する知識は、同ウイルス感染症の早期発見の重要な要素であり、早期発見によって診断技術の迅速な開発が可能になった。ウイルスの30,000に近い数のヌクレオチドがこれほど綿密に調べられたことはかつてないことだった。


ドバイの金融センター地区にある新型コロナウイルスワクチン指定接種センターの前に並ぶ人々。(ファイル写真:AFP)

ゲノム調査研究は世界中の研究所で行われている。南アフリカでは、ゲノム配列決定研究によって、特に伝染力が強いものとして科学界が恐れているB.1.351変異株(501Y.V2とも呼ばれる)が発見された。

コロナウイルスの発生源解明への競争が続く中、アブダビを拠点とする人工知能およびクラウドコンピューティング企業であるG42 Healthcareは昨年、独自の新型コロナウイルスのゲノム配列決定研究を開始した。

同社の研究全体はまもなく科学論文として発表される予定で、現在は出版準備の最終段階にある。

また、同社は最近、中国のシノファーム(中国医薬集団)傘下のCNBG(中国生物技術)と共同して、新型コロナのワクチン「ハヤットVax(Hayat- Vax)」(Hayatはアラビア語で「人生」の意味)を開発すると発表した。成功すれば、アラブ首長国連邦(UAE)は新型コロナのワクチンを製造する最初のアラブ国家となる。

富裕国がワクチンの限られた供給をめぐって争う中、ハヤットVaxは発展途上国にとっての有望な新しい選択肢になると一部で見られている 第IIIフレーズの臨床試験結果が査読を通過し、一般にも信頼できると認められたのちのことではあるが。



ゲノム調査研究は世界中の研究所で行われており、UAEの首都アブダビでの研究もその一角を占める。(AN Photo、レベッカ・アン・プロクトー撮影)

4月21日、UAEはファイザーとビオンテック両社の開発による新型コロナワクチンの使用を承認した。アブダビでは、昨年の12月以来、一般市民が接種を受けられるワクチンはシノファーム製のものだけ、という状態が続いていた。

「UAEは、新型コロナウイルス流行との戦いにおいて、多くの初めての試みを実現し、世界の最前線に立ってきました」と、G42 Healthcareのアシシュ・コーシー(Ashish Koshy)CEOはアラブニュースに語った。

「UAEの挑戦の範囲は幅広く、最大規模の試験・診断ラボの設立から、不活化コロナワクチンの中東地域初の第IIIフレーズ臨床試験、最前線の医療従事者を保護するためのタイムリーな緊急使用許可、そして国の人口の52パーセント以上にワクチンを既に接種している現在進行中の全国的なワクチン接種プログラムにまで及んでいます」とコーシーCEOは説明している。

「これは世界的にも優れた水準であり、UAEは人口100人あたりワクチン接種を受けている人数で世界の上位3か国にランクされています。」

G42 Healthcareは、UAE保健省の主導により、2019年12月に設立された。同社は、深センに本拠を置く中国のゲノミクス企業BGIと提携してUAEに新型コロナウイルス用の検査ラボを建設し、イスラエルの業者への外注を通して新型コロナ感染症と戦うための技術を開発してきた。

BGIは、1999年に北京ゲノミクス研究所という名称で設立された。同研究所は、ヒトDNAの最初の包括的なマッピングを作成するための世界的なプロジェクト「ヒトゲノム計画」に貢献するよう、国の支援を受けたものだった。

G42による新型コロナウイルスのゲノム配列決定研究は、UAE保健省の監督により2020年5月から6月の間、アブダビで収集された1,067の鼻腔スワブ検体を用いて行われた。

この研究で、UAEにおけるウイルスの遺伝的変異と拡散パターンが明らかにされた。調査結果を活かして、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)テストの設計を改善して診断の精度を向上させ、新しいローカル変異体を検出が可能になるものと期待されている。



「UAEは、新型コロナウイルスの流行との戦いにおいて、多くの初めての試みを実現し、世界の最前線に立ってきました」と、G42 Healthcareのアシシュ・コーシーCEOはアラブニュースに語った。(AN Photo、レベッカ・アン・プロクトー撮影)

「私たちの全体的な成功の重要な要因の1つは、官民のパートナーシップモデルおよび各分野で最高の専門家たちによる国際的な協力を効率的かつタイムリーに実現することで、課題に対処するだけでなく、国民の健康を将来にわたって守っていく能力を養成できたことです」とコーシーCEOは述べた。

「例えば、新型コロナウイルスの変異株に関する研究は、感染症流行の管理と効果的な公的医療システムに関する知見の増強という面でも役立っています。」

また、最近の英国、南アフリカ、ブラジルからのより感染性の高いコロナウイルスの変異株 ― 特に懸念されるブラジルからのP1変異株は、現在接種可能なワクチンに対して強い耐性を持っているかも知れないと科学者が恐れている ― の広がりの中で、変異株に関する研究はひときわタイムリーなものとなっている。

「この研究の分析により、UAEに固有のいくつかの変異株と、流行の第一波におけるウイルスの拡散パターンが明らかになりました。第二波の検体の分析はまだ全国規模で進行中です」とG42の最高研究責任者であるワリード・アッバース・ザーヘル博士はアラブニュースに語った。

「この研究および類似の研究の結果は、通常、診断の精度と感度の両方の改善につながります。今回の研究はまた、持続可能なスクリーニング方法と、将来の発生に備える国としての態勢作りをどう支援すべきかについての、新たなの知見を提供するものでもあります。」

G42は、UAEおよび中東の他の地域でのシノファームの第III相臨床試験実施の際の調整も担当しており、2020年7月に開始された治験には、125カ国から43,000人以上が自主的に参加した。G42はアラブニュースに「選択された人々のグループが、免疫系の反応を観察するため、3回目の接種を受けているところです。」とコメントしている。



ドバイのグル・ナーナク・ダルバール・グルドワラで、医療従事者が中国のシノファーム製のコロナウイルスワクチンを接種している。(2021年2月28日、ファイル写真:AFP)

G42はまた次のように付け加えている。「UAEで進行中の研究は、シノファームとUAE当局の間の緊密な協議により行われており、科学的安全プロトコルに基づいたものです。研究はまた、新型コロナウイルスの流行が続く中で、公共の安全へのリスクを軽減する努力の一環でもあります。」

わずかな変化や突然変異を理解することこそが、最終的にはウイルスを打ち負かし、感染症の流行を終わらせ、待望の各種制限の解除を実現するための鍵となる可能性があるのだ。

「ウイルスは突然変異によって絶えず変化しており、新しい亜種が時間とともに出現することが知られています。これは、医師たちの治療を常にかいくぐろうとするウイルスが用いる手段のひとつです」とザーヘル博士は述べている。

「私たちの研究や類似の研究は、感染症の症状、およびウイルスの拡散に症状がどのように影響するかを理解するのに役立ちます。ウイルスの小さな突然変異は、通常はワクチンに影響を与えません。しかし、最近の変異およびワクチンの有効性に対するそれらの影響は、シノファームのものを含む各社のワクチンについてまだ研究中です。」

遺伝子解析は急成長している産業だ。G42では、新型コロナウイルスの研究に加えて、個人のDNAを検査し、潜在的な「問題領域」について「スクリーニング」する一般対象のゲノミクス試験も行っている、とG42の子会社・バイオジェニックスラボ(Biogenix Labs)の研究所ディレクターで臨床病理医のサリー・マハムード博士はアラブニュースに語った。

「一般対象のゲノミクス試験を用いることにより、各人がライフスタイルに基づく病気に気を配り、特定の遺伝性疾患の発症につながる可能性のある潜在的な危険因子についての知識を得ることができるのです」とマハムード博士は説明した。

私たちのDNAを理解することは、現実に、病気を予防または管理するのに役立つということなのだ。

新型コロナウイルスの流行が生物学における最も根本的な青写真の理解を加速するにつれて、科学と医学の双方に新たな機会の領域が開かれつつある。アラブ地域もそこに貢献していくことになるだろう。

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ツイッター@rebeccaaproctor

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