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レバノンにおける離別・離婚の増加はアラブ世界全体の社会経済的変化を反映している

経済的圧力、社会的態度の進化、女性の役割の変化がレバノンの離婚率に拍車をかけている。(AFP)
経済的圧力、社会的態度の進化、女性の役割の変化がレバノンの離婚率に拍車をかけている。(AFP)
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11 Sep 2022 10:09:50 GMT9
11 Sep 2022 10:09:50 GMT9
  • 経済的圧力、社会的態度の進化、女性の役割の変化の全てが影響を与えている
  • 最近の調査では、アラブ諸国の中で最も離婚率が高かったのはクウェート、エジプト、ヨルダン、カタールだった

ナジャ・フーサリ

ベイルート:グローバリゼーションが現代生活のほとんどの側面を転換していく中、家族や家庭生活のあり方はたった10年前と比較しても様変わりしている。結婚生活上の通常のストレスや負担は、生活の糧を求めてますます多くの人が家族や母国から離れていく傾向によってさらに酷くなっている。

アラブ世界がこうした社会経済的変化を免れていないことは、中東・北アフリカのいくつかの国において離別を選ぶ夫婦が増えているという事実から明らかである。

エジプトの内閣府情報意思決定支援センターが最近実施した調査では、アラブ諸国の中で最も離婚率が高かったのはクウェート、エジプト、ヨルダン、カタールだった。

結婚した全ての夫婦のうち最終的に離婚した夫婦の割合は、クウェート48%、エジプト40%、ヨルダン37.2%、カタール37%、UAE34%、レバノン34%となっている。

ベイルート地方裁判所のシャリーア判事であるシェイク・ワシム・ユセフ・アル・ファラー氏はアラブニュースに対し、「この裁判所だけで多い時には16件の離婚裁判を扱う日もある」と語る。

 

「離婚率の増加はこれまでになかった現象だ。ただ、我々は離婚を好まず調停に重点を置いている」

この傾向には、経済的圧力、社会規範の進化、法改革、そして何よりも女性の役割の変化、これらが複合的に作用していると専門家は見る。

「女性はもはや男性が必要だと思っていない」とアル・ファラー氏は言う。「私が担当した法廷に立った妻の多くは夫との和解を拒否した。一人でやっていけるし男性に自分の生活を支配されたくないと思っているからだ」

歴史上の多くの時期、アラブ世界のより保守的な文化においては特に、女性の役割は家庭で家族の面倒を見ることであり、男性は勉強や仕事に行くものだと長年考えられていた。

現在のアラブ諸国では、経済の現代化や法体系の改革が進んだため、女性はより自立的になってきており、より高い教育を受け、キャリアを積み、人生のより遅い時期に結婚・出産することを選択する傾向が高まっている。

その結果、アラブの女性は自身の市民権、個人的野心、自尊心についてより鋭敏な意識を身に付けている。家庭内暴力に耐えることを拒否する傾向が高まっており、経済的に自立できる女性が増えている。

写真撮影のためにポーズを取る新婚夫婦たち。ベッカー渓谷のバールベックにあるローマ時代のアクロポリス。(AFP/ファイル写真)

ポストグラデュエート・ディプロマでレバノンの離婚問題をテーマにした研究者のマナル・ナハス氏はアラブニュースに対し、「過去には、女性は離婚を切り出す決意をするまでためらっていた。レバノンの全ての宗派では離婚が選択肢にないこと、一部の宗派では離婚が難しいことが頭にあったからだ」と語る。

「しかし、レバノン国民やレバノン在住外国人の結婚状況を扱う宗教裁判所がまとめた現在の統計によると、離婚請求が増えており、中でも女性からの申し立てが多くなっている」

離婚の増加は、より広範な社会的態度の変化の副産物と見られる。

「今の世代の女性の離婚に対する見方は以前と異なっている」とナハス氏は言う。「女性はもはや、母や祖母の時代のように虐待に耐えなければならないとは思っていない」

「今の女性は教育を受け、仕事もしており、それぞれの分野で高い地位に就いている。男性と女性が平等になったのだ。女性の平均結婚年齢は、戦後数十年は24歳だったが、現在は32歳に上がっている。これは、社会の先進性、経済状況、労働市場への女性の参加の結果だ」

「それに加え、女性は結婚前には親の家で大切にされている。そのため、耐え難い結婚を続けるより離婚する方が簡単になっているのだ。レバノン社会では離婚はもはやスティグマとは見なされていない」

アラブ諸国では経済の現代化や法体系の改革が進んだため女性はより自立的になってきている。(AFP/ファイル写真)

「今は、ほとんどの親は離婚した娘を拒絶せずに迎え入れる。社会的な変化があったのだ。ほとんどの人が離婚を経験しているのは、もはや難しい決断とは考えられていないからだ」

レバノンでは人口の大部分がより給与の良い仕事を得るために外国に移住するため、長距離の関係を維持する難しさも離婚に影響しているようだ。

離婚のためにベイルートの宗教裁判所に来ていたニーマットさん(34)はアラブニュースに対し、「私の夫は何年もアフリカで働いていて、私はレバノンで子供たちと暮らしています」と語る。

「結婚生活が耐え難いものになったので、私たちは円満に別れることに決めました。夫が養育費を負担するのですが、全額を婚姻費用の延納によって受け取り済みです」

アル・ファラー氏は、このようなタイプの離婚はよくあることだと言う。

「最もうまくいかない結婚は、夫が仕事で外国に移住して妻がレバノンに残るケースだ」と同氏は言う。「夫婦が顔を合わせると、お互いと一緒に暮らすのが無理なことに気づくのだ。一般的にそのような結婚は続かない」

「ただし、そのような夫婦でも子供がいる場合は、我々としては関係の修復に努める。子供に傷ついて欲しくないからだ」

離婚したシーア派イスラム教徒の夫婦の子供の監護権を母親に与えることができる年齢を引き上げるよう聖職者に求めるデモに参加するレバノンの女性たち。首都ベイルートのレバノン・シーア派最高評議会の前。(AFP/ファイル写真)

 

しかし、全ての離婚手続きがニーマットさんのケースのように円満なわけではない。アル・ファラー氏は、極端に険悪な夫婦争議を何件か扱ったという。

「私の事務所に、妻あるいは夫が配偶者からの家庭内暴力の被害者となった夫婦が来るようになった。女性が家庭内暴力の標的になる方がより一般的だが」

「都市部から離れた辺鄙な地域では特に、家庭内暴力が離婚の理由の一つだというケースが多かった。犯罪に加担したくはないので、この種の結婚は修復しようとはしない」

近年、レバノンにおける女性の法的地位に関する改革が特別な注目を集めている。セクシャルハラスメントや家庭内暴力からの女性の保護を目的とした多くの法律が導入されているのだ。しかし、人権監視団体は改革がまだ十分でないと言っている。

例えば、2020年12月にはセクシャルハラスメントを犯罪とし内部告発者の保護措置を盛り込んだ法律をレバノン国会が可決したが、労働法を通した職場のハラスメント対策の国際基準を満たしていなかった。

また国会は、結婚に関連した暴力(結婚中に行われたものである必要はない)も対象となるように家庭内暴力法を改正し、女性が元夫からの保護を得られるようにした。しかし、夫婦間レイプは犯罪とされなかった。

レバノンの2019年の金融危機や新型コロナパンデミックの影響により、生活水準が下がり、失業が増え、ロックダウンのせいで家族が四六時中一緒にいなければならない状況が長かったことで、夫婦関係にさらなる圧力が積み重なったようだ。

「新型コロナパンデミックによる行動制限が始まると離婚請求が増えた」とアル・ファラー氏は言う。「お互いに我慢できないことに気づき亀裂が明らかになったのだ」

「経済危機が深刻化した時も離婚請求が増えた。夫が働かなくなり、銀行から預金を引き出せなくなり、住宅ローンを組めなくなったからだ」

「13~20年ほど連れ添った夫婦が離婚請求するケースも出てきている。以前にはなかったことだ。今年はベイルートの宗教裁判所では離婚率が35~40%ほど上がったと思う」

「各宗教が自らのプログラムに適した権利を選択するため、女性の平等を広く認めさせることは難しい」と語る、レバノン女性全国委員会のクロディーヌ・アウン代表。(提供写真)

世界のいくつかの国でパンデミック中の家庭内暴力の急増が報告されており、レバノンも例外ではない。この国の経済危機とパンデミック中の裁判手続きの混乱が事態をさらに悪くしているようだ。

家庭内虐待に反対する活動を行うために2005年に設立されたレバノンの非政府組織KAFAは最近、「レバノンにおける社会保障・家族保障の制度崩壊がもたらす危険な波及効果」を警告した。

「レバノンにおいて裁判業務が停止していることは、家庭内暴力の被害を受けている女性や子供に対して悪影響をもたらすだろう」と同組織は述べた。

また、「家庭内暴力の程度が酷くなり、女性を標的とした暴力案件が増えた結果、1週間で3人の女性が死亡した」ことを強調した。

より良い機会を求めて多数の若者が外国に移住する中、外国での国籍取得の手段として結婚を利用する人が増えているため、レバノンの離婚件数のデータは多少歪んでいる可能性がある。

「好都合だからと結婚した人々が離婚している」とアル・ファラー氏は言う。「例えば、外国に移住した既婚男性が外国の女性と結婚したい場合、母国で結婚していないことを証明してから、新しい妻の国の国籍を取得する必要がある」

「母国で元の妻と離婚してから、新しい国籍を取得し、元の妻と再婚するのだ」

レバノンでは人口の大部分がより給与の良い仕事を得るために外国に移住するため、長距離の関係を維持する難しさも離婚に影響しているようだ。(AFP/ファイル写真)

レバノンは多宗派国家である。1975~1990年の内戦後、同国の諸宗派は、結婚や離婚などのコミュニティーの問題を管理する複雑な権限分担と個別の機関を通して権力を分け合うことで合意した。

レバノン国民は、離婚しやすくするために異なる宗派間を移動することがよくある。例えば、非常に例外的な場合を除いて結婚の取消しを裁判所が禁じているマロン派の夫婦が、結婚の取消しを認めるカトリックや正教に宗派替えするのだ。

離婚手続きを進めるためにスンニ派に転向して、後から元の宗派に戻るということさえあるかもしれない。シャリーアでは、離婚(クーラ)は預言者ムハンマドの時代から許されている。

スンニ派の宗教裁判所の方がシーア派の宗教裁判所よりも離婚が認められやすいと考えられている。前者が、子供の監護権を母親に与えることができる年齢を引き上げ、持参金についての改正を行い、未成年者の結婚を禁止する新規則を導入したからだ。

民間社会団体は、レバノンにおいて民事上の身分を選択できるようにする法律の制定を求めている。現在、全ての宗派の若者の多くがキプロスやトルコに行って民事婚をしている。レバノンの民事裁判所はそのような結婚の登録を認めているが、宗教当局は依然として拒否している。

アラブ文化では家族の価値観が大切にされており、宗教的・世俗的権威は子供のために両親が一緒にいることを求める傾向にある。専門家は、結婚カウンセリング、若い夫婦のためのより良い教育、関係についてのよりオープンな議論、結婚前の男女間の社会的交流を取り巻く社会的タブーの緩和が、全体的な離婚率の低下に寄与する可能性があると見ている。

アル・ファラー氏はこう語る。「(離婚の多くは)結婚がしっかりした基礎の上に築かれていなかったことに起因する不和の結果だ。そのようなケースで離婚率が高くなっている。若者が受けている教育に、適切な意思決定や家族に関する指導が含まれていないからだ」

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