
エファレム・ コッセイフィ、ピーター・ハリソン
ニューヨーク:デビッド・グレスリー国連イエメン常駐・人道調整官は水曜日、老朽化した石油タンカー「セイファー」の救出作戦の第一段階の開始に必要な資金全額の拠出誓約が得られたと発表した。
114万バレル以上の原油を積載したこのタンカーは、7年間以上イエメン沖の紅海上に係留されている。この間、メンテナンスはほとんどあるいは全く行われておらず、状態の悪化により壊滅的な原油流出の恐れが高まっている。
この原油の安全を確保するために計画されている救出作戦は二段階に分けられる。別のタンカーへ原油を移し替える段階と、イエメンの政治情勢が改善してその原油の売却あるいは別の場所への輸送が可能になるまで永久的な貯蔵を行う段階だ。
グレスリー調整官は、第77回国連総会に合わせて行われたブリーフィングにおいて、作戦の第一段階に必要な7500万ドルの資金調達に、サウジアラビアからの1000万ドルを含む17ヶ国からの寄付のほか、民間部門、公益財団、国連が企画したクラウドファンディングキャンペーンからの寄付があったことを明らかにした。オランダの2回目の寄付の700万ドルにより目標金額が達成された。
寄付者はこれから誓約どおりに資金を拠出する必要があるが、同調整官はアラブニュースに対し、「既に実現していることだから」今月末までに資金が手元に届くことを期待していると語った。
また、失敗のコストが非常に高いため、この問題への取り組みに対しては通常見られないような「高いレベルの意志」を感じると述べた。もし原油が紅海に流出した場合、除去作戦に約300億ドルの費用がかかることになる。そのような環境災害が発生すれば、イエメンだけでなくジブチ、エリトリア、ソマリア、サウジアラビアなどの近隣諸国にも影響が及ぶ。そのうえ、漁業は打撃を受け、海運は混乱するだろう。
「資金の大半はまだ手元に来ていないが、資金が実際に送金される必要条件である合意については現在ほとんどで署名を貰っている」と、同調整官はアラブニュースに語った。
「だから、事態を前に進めるために必要な契約の最初のラウンドを実行するのに十分過ぎるほどの資金が9月末までに集まることを確信している。まだ契約への署名を貰っていない分についても、署名するというしっかりとした確約を得ている」
ティム・レンダーキング米イエメン担当特使は、同じブリーフィングの中で、今回の前向きな進展は、タンカーの間近に位置する国々、民間部門、国連が企画したGoFundMeキャンペーンに応募した一般市民を含む多くの国々の努力が合わさった結果であると述べた。資金調達は「イエメンの停戦という背景」において実現したと同特使は付け加えた。
「イエメン内戦については進展がある。国連、米国、サウジアラビアが主導する連合とイエメン政府との間で多大な努力がなされており、フーシ派は停戦に合意して概ねそれに従っている」
同特使はアラブニュースに対し、民間人犠牲者が60%減少したこと、イエメンの港に入荷する燃料が4倍になったこと、2016年以降「国内に釘付け」にされていた2万1000人以上の人々がサヌア空港からの商用航空便再開によって国外に移動できるようになったこと、そういった、現在の停戦がイエメンの人々にもたらしている恩恵について振り返りながら、今後数ヶ月で「持続的な休戦」が合意される可能性が開いたと信じていると述べた。
同特使は、4月2日の停戦、6月の延長、8月の再延長をを実現する助けとなったフーシ派の協力を「非常に前向きな一歩」と評価した。
直近の延長は10日後に期限切れとなる。イエメンの和平から利益を得られる全当事者が、永久的な政治的解決への到達を目指して前向きな道を探っていると同特使は語った。
「サウジアラビア、UAE、オマーンが強いシグナルを出している」と同特使は述べた。「そしてやはり、(国連安全保障理事会の常任理事国5ヶ国)の中でも、イエメン内戦に対する軍事的解決はあり得ず、政治的合意に達するためのプロセスが必要であるということで意見が一致している」
「停戦を拡大することと、停戦がイエメン国民にもたらしている恩恵をさらに発展させることに関しては、国際社会はかなりの一致を見せていると言える」
レンダーキング特使は、米国は「ホデイダ港を通して市場に入る石油が増え、食品工場、病院、学校、輸送ネットワークに電力を供給するために使われることを望んでいる」と語った。
また、フーシ派を支援するイラン当局までもが「4月の時も6月の時も」停戦を歓迎したと指摘した。しかし、「停戦に対するそのような前向きな反応にイランの行動が伴う必要がある」と付け加え、同国の体制に対してフーシ派への武器や訓練の提供を停止するよう求めた。
フーシ派はイエメン西部の紅海に面したいくつかの港を支配しているが、セイファーが係留されているラスイッサ港もそれに含まれる。国連は、専門家がタンカーを調査する許可を得られるようフーシ派と何年も交渉を行っていた。両者は3月に基本合意書に署名し、差し迫る脅威を除去するためにこのタンカーから別のタンカーへ原油を移し替える4ヶ月間の緊急作戦を許可した。
イエメンのアフマド・アワド・ビン・ムバラク外相は水曜日、在ニューヨーク・オランダ総領事館が主催したイベントにおいて、アラブニュースに対し、「この潜在的な大惨事が終結することを強く望んでいる」と語った。
「我々は国連による全てのイニシアティブを支持している(…)イエメンでこのような大惨事を起こすわけにはいかない。イエメンへの直接の損害は210億ドル以上になる。紅海が被害を受けるだけでなく、その影響は地球にとって有害となるだろう」
より長期的には、18ヶ月以内にセイファーに代えて同程度の量の原油を安全に積載できるタンカーを導入することが基本合意書で求められている。
サルマン国王人道援助救援センター(KSrelief)のハンナ・オマル氏はアラブニュースに対し、「この計画を確実に実行に移し、プロセスを遅らせる中断を回避するうえで、我々は国連と国際社会を頼りにしている」と語った。
「我々にとって、計画を実行することでこの大惨事を防ぎ紅海の安全を確保することは本当に重要なことだ」
セイファーの骨組み、設備、運用システムは長年の間に劣化しており、流出、爆発、出火の危険がある。国連は何年も前から、このタンカーから原油が流出すれば1989年にアラスカ沖で発生したエクソン・バルディーズ号の事故で流出した原油の4倍の量となる可能性があると警告してきた。この事故は現在でも、環境破壊という点で世界最悪の原油流出事故とされている。
国連によると、大規模な流出が発生した場合、160万人のイエメン国民を含む約3000万人が依存している紅海の生態系に深刻な損害が出る可能性があると専門家は推定している。
この緊急事態は5年前から続いているにもかかわらず、今年の春になってやっと資金の拠出が誓約されたといった情報が出始めた。
オランダが誓約した総額1400万ドルは、第一段階の目標額の達成に大きく貢献した。
オランダ外務省のマーク・ゲリッツェン中東・北アフリカ局長はアラブニュースに対し、資金調達目標額の達成が遅れた大きな原因は、寄付の必要性を人々に納得させるのに時間がかかったことだと語った。
さらに、「当然ながら、問題の範囲がまだ完全に明確になっていない場合、意識を高めることは非常に難しい」と指摘し、それゆえに最初の課題は事態の規模と深刻さを人々に理解させることだったと語った。
「これには国連が非常に重要な役割を果たした」と同局長は述べた。「だから、これは国連が主導した集団的な努力だった。しかし、資金を集めるために他の国からの賛同と誓約を得る努力が始まったのは約1~2年前だった」
「主導する国を国連が探し始めたのはこの時だった。そして、我々(オランダ)はいわば本気で立ち向かうつもりでその役割を喜んで引き受けたのだ」