
ドバイ:現在のところ、イランで勃発した騒動は同国を支配する聖職者らによって鎮圧される見通しが高く、歴史が何らかの指針になるとすれば、新たな政治秩序の夜明けが間近に迫っている可能性は薄いと4人のアナリストが述べた。
22歳のマフサ・アニミ氏の死と道徳警察による同氏逮捕に端を発する抗議運動は、抗議者たちが主張するところのイスラム聖職者による権威主義の強まりに対する反乱に発展している。
しかし、イランの支配者層は何としても権力の座を維持するとの決意を固めているため、2011年にエジプトやチュニジアで長年権力の座にあった支配者らを急速に失脚させたような蜂起へと雪だるま式に発展することは、すぐには起きそうにない。
聖職者たちは、何十年もの間、忠実なエリート部隊である革命防衛隊を使って、民族的反乱、学生の不安、および経済的苦難に対する抗議活動などを暴力的に鎮圧してきた。現在のところ革命防衛隊の使用は比較的抑制されているが、迅速に出動することは可能だ。
抗議活動が続くようであれば、イラン・イスラム共和国はお馴染みの解決策に転じるだろう。つまり「今回のデモを鎮圧するために、非武装の市民に対して無制限の暴力を振るうことです」と、トニー・ブレア地球変動研究所のイラン・プログラム主任であるカスラ・アーラビ氏は述べた。
すでに抗議行動は3週間近く続いており、イランのイスラム聖職者による支配に反対する、ここ数年で最大のデモの1つとなっている。
今回の抗議行動の規模は、何百万人もの人々が街頭に立った1979年のイスラム革命とは比較にならないが、アナリストらは、抗議者たちの連帯感と、聖職者体制の崩壊を求める一致した声は、それを思い起こさせると述べている。
「今回の抗議活動と1979年の抗議活動との顕著な類似点は、街頭の雰囲気が明らかに革命的であることです…。彼らが求めているのは改革ではなく、政権交代です」とアーラビ氏は語る。
「もちろん、この瞬間がいつ訪れるかは誰にもわかりません。数週間、数カ月、あるいは数年かかるかもしれません…。しかし、イラン国民は決心したのです」
デモ隊はイスラム共和国の正当性に疑問を呈し、アヤトラ・アリー・ハメネイ最高指導者の写真を燃やして「独裁者に死を」と唱えており、催涙ガスやこん棒、さらにはしばしば実弾を用いる治安部隊にも動じない。
しかし、イランの最高指導者たちは弱さを見せまいと決意している。彼らは、米国が支持していた国王の運命を決定づけたものは弱さであったと信じているのだ。
当時の人権運動家にとって、国王の大きな誤りは、拷問と流血によって国民を遠ざけたことだった。しかし、振り返ってみれば、国王は弾圧にあたって弱すぎ、遅すぎ、優柔不断であったと言う歴史家もいる。
中東研究所のイラン・プログラム責任者であるアレックス・ヴァタンカ氏は、「イラン政権のやり方は、国王よりもはるかに弾圧に依存している」と述べた。
複数の権利擁護団体によれば、抗議行動に対する国家の弾圧によって、これまでに少なくとも150人が死亡、数百人が負傷、数千人が逮捕されたという。
政府関係者によると、治安部隊に属する多数の人員が「外国の敵につながった凶悪犯や暴徒」によって殺害されたといい、「暴動」を扇動したかどで米国とイスラエルを非難した3日月曜日のハメネイ師による発言を踏襲した。
革命の少し前、イラン国王は国営テレビに出演して次のように述べた。「イラン国王として…私はあなた方の革命の声を聞いた…私は、あなた方の革命を承認するほかありません。」国王反対派はこれを彼の「脆弱性」の表れと見ている。「ハメネイ師は、革命を生き残った経験から、民衆に対して、彼らの声を聞いたがその声は間違っていると言ってしまえば、自分の権力は終わりだという教訓を得たのです。彼はそれを望んでいません。」とヴァタンカ氏は言う。
とはいえ、ハメネイ最高指導者の不屈のレトリックはリスクも孕むとヴァタンカ氏は指摘する。「もしハメネイ最高指導者が耳を貸さず、デモがすべて外国主導であるという無意味な主張を止めなければ、もっと多くのデモが起こるでしょう」と彼は言う。抗議活動はアミニ氏の出身地であるクルディスタン州からイラン全土の31州に広がり、少数民族や宗教者を含む社会のあらゆる層に参加者は広がっている。
カナダ在住のイスラム政治の専門家バヒド・ユセソイ氏は、「こうした広範な抗議行動は、政権が対応してこなかった不満を抱えているほぼすべての層の人々を引きつけています」と述べた。
9月17日にクルドの町サケズで行われたアミニ氏の葬儀において、クルド独立運動で用いられたクルド人の政治的スローガン「女性、生命、自由」が初めて唱えられ、このスローガンは、彼女の死に対する抗議行動において全世界的に使われるようになった。
アナリストによれば、政権は民族的反乱を恐れ、過去に用いた鉄拳をもって臨む戦略の代わりに抑制的鎮圧策を採用しているという。
テネシー大学チャタヌーガ校の政治学助教授サイード・ゴルカー氏は、今回の抗議活動は「世俗的で、政治思想に基づかないものから、ある程度は反イスラム的なものまでを含んでいます」と指摘する。
「イラン人は、宗教を利用して国民を抑圧する聖職者に反旗を翻しているのです」と彼は述べた。
反国王派の反乱は、地方の市町村を中心に波紋を広げた。しかし、彼の支配を無力化させたのは、石油労働者のストライキで国家収入のほとんどが止まったことと、バザール商人による反政府側の聖職者らへの資金提供であった。
現在の抗議行動では、何十校もの大学がストライキを行い、大学生が極めて重要な役割を果たしているが、バザール商人や石油労働者らが参加する兆しはほとんどない。
ヴァタンカ氏は、「バザール商人は、1979年革命時においては重要な役割を果たしました。彼らは当時、国王の経済改革が自分たちの利益に反すると考えて革命を支持したからです」と言う。
「今日、バザール商人が守るべきものは何もありません。バザール商人はもはや経済を支配しておらず、経済は革命防衛隊の手中にあるからです」
ハメネイ最高指導者に忠実な革命防衛隊は、強力な軍事力であると同時に、産業帝国でもある。政治的影響力を行使しイランの石油産業を支配しているのは、革命防衛隊なのだ。
ロイター