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コレラ感染急増は戦争で疲弊したシリア国民の惨状を悪化させる

シリアのコレラ感染急増に苦しんでいるのは最も貧しい人々だ。(AFP)
シリアのコレラ感染急増に苦しんでいるのは最も貧しい人々だ。(AFP)
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03 Nov 2022 09:11:48 GMT9
03 Nov 2022 09:11:48 GMT9
  • WHOは、現在の感染急増はユーフラテス川の汚染水を人々が使用したことが原因と見ている
  • 援助禁止、制裁、戦争被害の結果、シリアの医療インフラは崩壊している

ナディア・アル・ファウル、ルーカス・チャップマン

ドバイ/カーミシュリー、シリア:内戦による破壊、強制退去、飢餓に11年以上苦しんできたシリア国民が、コレラという新たな恐怖に直面している。ここ数ヶ月、汚染された食料や水が原因で感染するこの病気が国内のいくつかの地域で拡大しており、既に死者も出ているのだ。

先進国ではほぼ撲滅されているコレラは、下痢と嘔吐を引き起こすことで急速な脱水症状につながる病気であり、迅速な治療が行われなければ数時間で死に至る場合もある。シリアでは今年の夏以降、感染者数が着実に増えている。

世界保健機関(WHO)は、8月から10月末までに2万4614人の感染と81人の死亡を確認している。デリゾール、ラッカ、アレッポ、ハサカの感染者密度が最も高い。また、国内避難民キャンプで65人の死亡が報告されている。

コレラに感染し治療を受ける子供。シリア東部デリゾール県のアル・カスラ病院。(AFP)

シリア各地、特に辺鄙な県は水危機に直面している。2011年に勃発した内戦によって上下水インフラの大半が破壊されたためだ。

WHOは、現在の感染急増はユーフラテス川の汚染水を人々が使用したことが原因である可能性が高いと見ている。干ばつ、地下水の過剰汲み上げ、上流のトルコでの新規ダム建設などにより、かつては広大だったこの川も流量が減少してしまった。

水位の低下により川岸に沿って沼地や淀んだ水たまりができており、そこに生下水やその他の汚染物が集まって腐敗している。水や蚊が媒介する病気が発生するための理想的な条件が揃っているのだ。

北部及び東部シリア自治行政区(AANES)保健委員会の共同委員長であるジュワン・ムスタファ氏によると、この地域で9月に最初の感染者が確認された後、デリゾールからラッカへ、その後はさらに北のハサカへと拡大していった。

同氏はアラブニュースに対し、「迅速検査に基づいた我々の最近の統計で、1万5000人の感染と30人の死亡が確認された」と語る。「ユーフラテス川の汚染は、これまで多くのウイルスや病気の主な原因となってきた。今度はコレラだ」

「この地域の人々は、飲み水、植物にやる水、農業用水をこの川に頼っている。川沿いの地域はシリア北東部の穀倉地帯と言われている。ハサカの人々は干ばつに直面すればユーフラテス川の水に頼るため、この県は大惨事になる」

「我々はコレラの拡大の封じ込めを図るための措置を始めている。いくつかのグループが、水を浄化するために貯水タンクに塩素を加える作業を行っている」

デリゾールに住むシリア人は飲み水や灌漑用水としてユーフラテス川の汚染された部分の水を使用することを余儀なくされている。(AFP)

当局はコレラ感染拡大地域の住民に対し、水は沸騰させてから飲用、料理用、農業用に使うこと、貯水タンクやパイプなどを塩素処理すること、定期的に手を洗い身の回りの消毒を行うことを呼びかけている。

しかし、崩壊しつつあるインフラ、熟練労働者の国外流出、基本的な化学薬品や設備の不足といったシリアの現状から、こういった単純な予防措置でさえ実施が難しい。

ムスタファ氏は、「インフラの劣化が保健部門に大きく影響している」と語る。「リソースや専門知識が不足しているため、病気の封じ込めに苦労している。この地域では、何のことはないウイルスがいとも簡単に流行する。検査設備や薬剤が不足しているのだ」

シリアの医療インフラは、援助禁止、制裁、戦争被害が合わさった壊滅的な状況下にある。バッシャール・アサド大統領の体制は内戦開始以来ずっと、国際人道法に反して反体制派掌握地域の病院を組織的に破壊してきた。

一方、体制支配下にない地域に対する国外からの援助は意図的に妨害・流用されている。

シリア東部地域がイラク経由の越境支援を継続的に受け取ることを可能にしていた国連安全保障理事会決議に対し、体制の同盟国であるロシアが拒否権を発動した2021年6月以来、この地域への国連援助は全てまずダマスカスを通過しなければならなくなった。

その結果、シリア東部では、深刻な医療用品不足、保健当局との連携困難、検査能力の制限といった事態が起こっている。

コレラ感染急増もラッカ住民にとっては、孤立無援で立ち向かうことを余儀なくされてきた数多くの危機の最新の例に過ぎない。

コレラに感染し治療を受ける女性。シリア東部デリゾール県のアル・カスラ病院。(AFP)

地域社会活動家のアフマドさん(姓は匿名希望)はアラブニュースに対し、「シリアの体制は手を差し伸べていません。戦争がもたらす日々の苦労に、人々は既にやつれて元気を失っています」と語る。

「困難な状況にあることは分かっていますが、シリアの体制から助けが来ないことも知っています。援助は国内からも国外からも来ません。もう誰も気にかけていないのです。私たちはコレラと言われても動揺しません。戦争、化学兵器、新型コロナパンデミックでずっと死にかけているのですから」

「私たちの生活がガブリエル・ガルシア=マルケスの著書『コレラの時代の愛』のようになってしまったと、心のなかでよく言っています」

「コレラは国境や停戦ラインを知らず、人々の移動に沿って拡大する」と語った、ユニセフ中東・北アフリカ地域事務所副代表のバートランド・バインベル氏。(提供写真)

コレラ感染急増を受け、「国境なき医師団」はラッカにある地域保健当局と協力して、AANESに地域治療センター1ヶ所と外来診療所2ヶ所を設置した。

しかし、2019年に経済危機と通貨下落が始まって以来、シリア国民の大半にとって適切な食品衛生や清潔な飲料水へのアクセスを維持することがますます難しくなっている。2020年の新型コロナパンデミックや、今年のウクライナ戦争勃発以来の食料・燃料価格の高騰により、国の状況はさらに悪化した。

世界食糧計画によると、シリアでは2020年以来食品の平均価格が532%上昇している。その結果、現在シリアに住む約1200万人が食料不足の状態にあるとされる。

アフマドさんは、「商品が買えなくなりました」と言う。「巷では、死ぬことが一番の逃げ道だと言われています。そして死は、コレラやコロナでないとしたら、飢えから訪れるでしょう」

水が入ったバケツを運ぶシリア人の少年。シリア北部ラッカの田舎にあるサフラー・アル・バナト難民キャンプ。(AFP)

シリア内戦勃発以来、数百万人のシリア人が混み合ったキャンプで難民生活を送っている隣国レバノンでも、状況はそれほど良くない。

同じく前例のない経済危機に既に直面しており、国民の80%が貧困に陥りインフラが崩壊しているレバノンでも、コレラ感染が報告されたのだ。

レバノンのフィラス・アビアド保健相は1日、首都ベイルートを含む全国でコレラにより17人が死亡し93人が入院したことを確認したと発表した。

レバノン政府は、囚人、フロントラインワーカー、すし詰め状態でしばしば不潔なキャンプに住む難民など、最も弱い立場にある人々のために60万回分のワクチンの確保に努めている。

物価高騰と医療インフラ崩壊の中で自分の医療費を払わなければならないシリア国民やレバノン国民の大半にとって、コレラ感染急増は良い兆候ではない。

レバノン北部の貧困地域アッカールに住むリナさんはアラブニュースに対し、「何から手を付ければ良いかさえ分かりません。もし感染したら、治療費を払えるか分からないし、そもそも私が使える病院のベッドがあるのだろうかと思います」と語る。

「生きることが耐えられないほどつらくなってしまいました。でも結局のところ、コレラも死ぬ方法の一つに過ぎません」

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