
モハメッド・ナジブ
ラマッラー: パレスチナ大統領府のナビル・アブ・ルデイネ報道官は、アラブ・ニュースの取材に対し、イスラエルによるパレスチナ市民の殺害と家屋取り壊し作戦が、ヨルダン川西岸地区に「非常に危険な」状況を作り出している、と述べた。
報道官は「我々は、前例のない過激主義的なイスラエル政府と対峙している。イスラエルが進めている政策は、パレスチナの人々に対する戦争に等しい。
日々繰り広げられている殺戮がパレスチナ内の緊張を高める一方で、イスラエルとの政治的関係は途絶え、安全保障上の調整も停止している」と述べた。
また、「我々は、すべての一方的な措置の停止を要求している。したがって、我々はいかなる選択肢も排除しない。これには、国連安全保障理事会に掛け合い、国際司法裁判所(ICJ)と国際刑事裁判所(ICC)に動いてもらうことが含まれる」とも述べた。
報道官によると、イスラエルはパレスチナの資金を毎月30万ドル差し押さえており、パレスチナ自治政府は職員の給与を全額支払うことができない状態になっているという。
2月3日、パレスチナ自治政府の税収入を代理徴収しているイスラエルは、パレスチナ自治政府の資金1億シェケル(2,900万ドル)をパレスチナ人の攻撃による犠牲者への補償に支出すると発表した。
イスラエルのベザレル・スモトリッチ財務相は命令に署名し、この資金が従来ならばパレスチナ自治政府によって受刑者や抵抗勢力の家族に送金されていたと主張している。
差し引かれる金額は、これまで毎月没収されてきた金額1,470万ドルの2倍となる。スモトリッチ財務相が就任して以来、このような動きは初めてだった。
アブ・ルデイネ報道官は、イスラエルを「東エルサレムを含むイスラエルの入植地を違法と見なす、法律と国連安全保障理事会の決議に背いており、国家として法をないがしろにしている」と評した。イスラエルは、その違法性にもかかわらず、東エルサレムとヨルダン川西岸地区での開発を続けているとし、イスラエルについて、「パレスチナ・アラブ世界の安全と安定を脅かす政権を有し、パレスチナ自治政府存続の脅威」となっていると述べた。
「我々は、公的な発言に強制力を持たないアメリカの政権と向き合っている。最近でも、アントニー・ブリンケン国務長官が二国家解決策について演説で、アメリカの政権は民主党・共和党を問わずすべてイスラエルによる入植に反対していると述べたが、実際には、パレスチナ人とその領土と聖域に対するイスラエルの措置を止めるために何ら行動を起こしていない。
これまでのアメリカ側との接触で我々が明確にしてきたことは、イスラエルが一方的な措置を止めなければ、我々は決断を下さざるを得ず、その第一弾として安全保障上の調整を中止した」
また、報道官は、アメリカは単にパレスチナに好意的ととれる声明を出すだけではなく、それを実行に移す必要があると付け加えた。「ジョー・バイデン大統領がベツレヘムを訪れた時、大統領は、イスラエルの一方的措置に反対し、入植地に関してステータス・クオ(現状維持)を保全し、二国家解決策を支持すると述べた。にもかかわらず、イスラエルはなおも入植地拡大を続け、入植活動と一方的措置を正当化しているのである」
アメリカ政権はイスラエルに国際法を遵守させなければならないのだと、報道官は述べた。アメリカの声明は「イスラエルへの脅しにはならず、自らの行動を思いとどまらせるものではない」とも述べた。
「我々はパレスチナ自治政府の強化に前向きな声を絶えず聞かされているが、アメリカはガザへの資金供給に貢献することで、自治政府以上にイスラエルとハマスを力づけている」
アブ・ルデイネ報道官によれば、アメリカ政府と接触しているパレスチナ当局者は、一方的措置と過去に締結されてきた協定という2つの問題に注力してきたが、事態に進展がなければ以上の2つの問題を国連安保理で提起する可能性があるという。
「アメリカのあらゆる努力は我々をなだめることに集中している。これに対し我々は、事態をエスカレートさせているのはパレスチナ側ではないのだと伝えている。誰が、アル・アクサモスク構内で殺人、入植活動、襲撃を働いているかは明らかである。
これらの行為を止めれば、事態は沈静化する。だが不幸なことに、アメリカの政権は我々が望む言葉は与えてくれるが、それをイスラエルに実行させようとはしない。したがって、イスラエルがエルサレム内の家屋を取り壊し、パレスチナ人を殺害しているため、事態のエスカレートが進んでいるのである」
報道官は、アメリカは「自国の要望をイスラエルに義務付けるべきだ」と述べ、こう付け加えた。「しかし、ここで問題なのは、アメリカにとって重要なのは、イスラエルの安全保障であって、アメリカ国内のユダヤ人社会と揉め事を起こしたり、アメリカの内部事情に対処したりすることではないのだ。これらは、アメリカの外交政策を決定づける慮事項である」
パレスチナ人殺害、家屋取り壊し、アル・アクサモスク襲撃については「既存の安全保障体制に緊張を引き起こし、それはラマダン前後を通して持続するだろう。アメリカは事が穏便に運ぶことを望んでいるが、それはイスラエルの安全を維持するためであって、それを前置きとしてパレスチナ人とイスラエル人の間に政治的なプロセスを再開するためではない」と述べた。
パレスチナ指導部が抱く危惧についても説明した。「唯一の懸念は、イスラエルによる占領とアメリカ側の無関心だ。だが、同時にアメリカは、中東の不安定な状態が続くことを懸念しているようだ。というのも、アメリカにとってイスラエルとアラブ石油の安全保障は関心のあるところだからだ」
「主要な問題は、パレスチナ自治政府の資金の収奪と、ドナー国による資金援助の停止だ。我々は20億ドル以上の資金をイスラエルに没収されている。アメリカは、本腰を入れれば、収奪された資金をイスラエルに返還させることができる。
アメリカには国際的正統性を守ることが求められている。バイデン現大統領を含め歴代アメリカ大統領が全員、ラマッラーとパレスチナ自治区を訪問してもなお、パレスチナ解放機構(PLO)がテロ組織としての分類を維持するのは想像し難いことだろうか」
報道官は次のようにも述べた。「アメリカ政権は、PLOとパレスチナ人への対応を考え直さなければならない。東エルサレムに領事館を設置し、一方でPLOのワシントン事務所を閉鎖することは認められない。アメリカ政権は自らと国際的正統性に矛盾している」
また、米国がエルサレムでのパレスチナ自治政府の影響力を取り除くために自治政府への財政支援を終了したことについては、「エルサレムを手放すことを受け入れるパレスチナ人は一人も見つからないだろう。エルサレムは売り物ではないのだから、アメリカ政権は判断を改めなければならない」と述べた。
ヨルダン川西岸地区における第3次インティファーダの可能性に関しては、アブ・ルデイネ報道官は次のように述べた。「問題は第3次インティファーダではない。むしろ、イスラエルによる攻撃とパレスチナ人からの反発がある。そして、我々の目に入る反発は、すべてイスラエルが日々行っている犯罪に対するものばかりだ。
自治政府が切望するのは、パレスチナ市民の安全、安定、保護だ。我々はイスラエルの守護者ではないし、いかなる場合にもそうなることはない」
報道官はサウジアラビアの政治姿勢を賞賛し、同国が「パレスチナの立場を無制限に支持しており、特にパレスチナのアラブ和平イニシアティブに対する遵守を評価している。アラブ和平イニシアティブは、パレスチナの立場を支持するイニシアティブとしては過去100年間で最高のものだ」と評した。
また、サウジアラビアがイスラエルによる侵略行為を継続的に非難していることと、エルサレムに関する立場を「極めて明確」にしていることを称賛した。
報道官は次のようにも述べた。「我々はサウジアラビアとの関係や、アラブ首脳会議の決定事項、特にアラブ和平イニシアティブの実施に前向きである。
一部のアラブ諸国がイスラエルとの関係を正常化することは、サウジアラビアが提案し採択した『アラブ和平イニシアティブ』と矛盾するため、我々は反対している」
パレスチナの将来については次のとおりに述べた。「我々は誰に対しても問題を起こしはしない。占領軍こそ、パレスチナと中東地域全体に対し、一方的措置によって我を押し通そうとしているのだ。
パレスチナ問題の解決は中東地域の安全と安定の回復につながる。問題の解決なくしては皆が火の海に焼かれることになるだろう。何よりもパレスチナ問題で重要なポイントは、歴史的、国家的、宗教的価値を持つエルサレムの地位である」と述べた。
さらに報道官はこう付け加えた。「安全保障上の調整の停止は、パレスチナ自治政府の最初で最も弱い手札であり、イスラエルの残虐行為が続く限り、我々は新たな段階に進み続ける。その先には、イスラエルを非合法化する国連安保理決議の要求など、より困難かつ危険な段階が待ち構えている。
イスラエルが一方的措置を続ける限り、我々の政治的・法的な戦いは続く。もしイスラエルがそれを止めれば、我々は喜んでこうした方策を見直すだろう。
しかし、もし一方的な措置が続くなら、我々は安全保障上の調整に関するパレスチナ指導部の決定を実行する。すなわち、ICJとICCの判断を求めることになる。そして、すでに我々の国連代表には、一定の政治的認識を深めるよう指示が出されている」
アブ・ルデイネ報道官はさらに次のように付け加えた。「現在、我々はアメリカからの圧力に直面している。アメリカは我々に、何の見返りもなしに沈黙を守ることを望んでいるのだ。
アメリカからは、国際法廷や国連安全保障理事会に関する我々の動きに対する反対の意を告げられている。『冷静になれ。事態を悪化させるな』と」