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今回の大震災を経て、トルコはより良い都市を構築出来るのだろうか?

トルコでは、震災死者数を契機として、建築基準の厳格化とより良い都市設計が道徳的要請となっている。(AFP)
トルコでは、震災死者数を契機として、建築基準の厳格化とより良い都市設計が道徳的要請となっている。(AFP)
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28 Feb 2023 10:02:00 GMT9
28 Feb 2023 10:02:00 GMT9
  • 死者数の多さから、建築基準の厳格な施行とより良い都市設計が道徳的要請になっていると大多数の人々が考えている
  • 地震が将来発生した際に同様の被害を受ける可能性が高い都市はどこか、そして、いかに死者数を低減できるかが注目されている

メネクセ・トキャイ

アンカラ:トルコ南東部を2月6日に襲った大震災から3週間近くが経過したが、建設業界に長期にわたって依存してきた同国では、建築基準の施行が不完全だったという疑惑に対して、国民の怒りが沸き上がり続けている。

月曜日時点で、死者数は44,000人を越え、今回の震災はトルコ近代史上最悪の災害となった。しかし、160,000を越える建物が倒壊または深刻に損傷し数多くの人々が依然行方不明であることから、この死者数はさらに増加するものと考えられている。

瓦礫の中から生存者を必死に捜索する作業は、現在、答えを探す作業に切り替わっている。建築基準の不完全な施行に対して誰が責任を負っているのか、将来地震が発生した際にいずれの都市が同様の被害を受ける可能性が高いのか、そして将来いかにこのように恐ろしい人的被害を低減できるのか、現在、数多くの人々が答えを求めている。

1,600万人を越える人口を擁するイスタンブールの状況は特に懸念される。イスタンブールは北アナトリア断層上に位置している。1999年の大規模な地震では、死者数が17,000人を上回り、そして、建設セクターの不正行為が明るみとなったのだった。

2月6日の地震以来、トルコ当局と建設企業は、過去の失敗から学ばずに、被災地域に高い地震のリスクが存在することは良く知られていたにも関わらず国家の災害対策を不十分なまま放置してきたとして非難されている。

レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が2002年にトルコの政権を掌握した時、公約の1つは建造物の安全性を高めることだった。2003年にエルドアン大統領は、「建物が人を殺すのです、地震ではありません」と、ツイートしている。

建築法規は2018年に厳格化され、鉄筋で補強された高品質のコンクリートの使用が新たに要件となった。しかし、弱点を抱えたままの既存の大多数の建造物については適切な改修が行われなかった。

トルコ政府は、また、これまでの20年間の統治期間中に、地震多発地域であっても、建築基準を満たさない建物に対して9回の基準適用免除を与えてきた。これは選挙の時期によくあることだった。

今回の地震の震源地に近いハタイとカフラマンマラシュでは、それぞれ205,000棟と144,000棟の建物に対して、選挙が行われる直前の2019年に、建築基準の適用免除が与えられていたた。

左、トルコの地震被災地で瓦礫の中を捜索する救急隊員ら。トルコ南東部一帯では数十万棟の建物が損壊したと考えられている。右下、多くの建築法規が遵守されていなかったことが懸念されている。死者数は46,000人を越えている、右上。(AFP)

都市計画協議会イスタンブール支部の代表者であるペリン・ピナール・ギリトリオグル氏は、被災地の数十万棟が建築基準の適用免除を受けていたとアラブニュースに語った。イスタンブールでも状況は同様である。

「イスタンブールを襲い得る地震は、残念ながら今回よりも高い破壊力を有しているはずです。イスタンブールの人口密度がより高く、建物も多いからです。震災が起これば、イスタンブールは巨大な墓地になってしまうかもしれません。耐震性が不明な建物が何千棟もあるからです」と、ギリトリオグル氏は語った。

都市計画の不備、建設企業に罰金を課すのみで改修を要件としない建造物の合法化、そして、建築法規の施行を伴わない政治的動機に基づく開発計画の実施から破滅的な結果に至ることは不可避だと、ギリトリオグル氏は警告を発した。

「耐震要件については州の建物ですら求められていませんでした」と、ギリトリオグル氏は語った。「病院や空港は、警告されていたにも関わらず、盛大なファンファーレと共に断層沿いに開設されました。その後、地震が公共インフラも破壊してしまったため、この地域は時宜にかなった人道支援を受けられませんでした」

ギリトリオグル氏は、政府の関係当局は耐震性を定期的に検査できる社会住宅プロジェクトをトルコ国内全域で開始すべきだと語る。

「建物の安全性の確保に加えて、避難経路の導入・整備や安全な地域に公立病院を建設するなど、どのような地震にも万全の備えの都市を構築する必要があります」と、、ギリトリオグル氏は述べた。「メガプロジェクトや政治的な動機に基づいたマスタープランなどではなく、むしろこうしたことが必要なのです」

建設技術者協議会のタネル・ユズゲク会長は、建築基準違反にたいして定期的に全面的な適用免除を与えることは結局犯罪に等しいのだと語った。「建設技術者協議会では毎回この警告を繰り返し発しています。しかし、何度繰り返しても、誰も私たちに耳を貸そうとしませんでした」と、ユズゲク会長は言った。

実際、地震がこの地域を襲うほんの数日前、最近の建設工事に対する新たな建築基準の適用免除が、議会承認待ちの状態だった。環境都市省の2018年の報告書では、トルコ国内では全体の半数を上回る建物が安全ではないとされている。

マグニチュード7.8の地震がトルコとシリアの国境地帯を襲い、救助隊が犠牲者と生存者を捜索し続ける中、倒壊した建物の瓦礫の前で国旗を掲げる親族。カフラマンマラシュ、2023年2月12日。
オザン・コセ / AFP

「トルコの建設業界による建築基準違反の歴史は、60年前からのことです。基本的には、トルコ国内での集中的な移住の波と建設企業のなるべく短期間で莫大な利益を上げたいという欲望で引き起こされました」と、ユズゲク会長は語った。

「その後、建設企業は与党政府と密接な関係を持つようになっり、長年にわたって政治的な結びつきが出来てしまいました」

ユズゲク会長によると、安価な建設資材と経験不足の技術者や建築家を用いて利益を最大化しようとする建設業者に始まり、不正行為はあらゆる階層で行われているという。

そうした高リスクの建造物を必要な検査も無く承認してしまう認証機関や監督者にまで、責任は連鎖していくのだ。

「当局は、倒壊した建物のほとんどは築年数が古く、与党政府発足以前に建設されたものだと主張しています」と、ユズゲク会長は語った。

「ところが、トランプカードの建物のように倒壊した新しい高層ビルがいくつもありました。そうした高層ビルは、物議を醸している建築基準の適用免除を受けて、何の説明責任も果たさずに、当初の建設計画を変更していたのです」

トルコの西部海岸地域とギリシャの一部を襲った強い地震の後、倒壊した建物で生存者を捜索する救急隊員たち。2020年10月30日、イズミル。強い地震がトルコとギリシャを10月30日に襲い、少なくとも6人が死亡し、建物が倒壊し、高潮が発生しトルコのリゾート地イズミル近郊の道路が浸水した。
マート・カキール / AFP

ユズゲク会長は、「技術者と建築家には卒業時に技量の認証を行うようにするべきです。そうした技能認証無しには技術者や建築家が建設許可を得られないようにするべきです」と、付け加えた。

建設業界の専門家や科学者、災害軽減の研究者に、恐怖を煽っているという批判を向けるのではなく、当局が耳を貸していれば、人命やインフラの膨大な損失は避け得たはずだと、ユズゲク会長は確信している。

「適切な建築基準を遵守して適切に計画された都市や建設された建物であればこうした地震にも耐えたはずです。地震リスクの高い地域で古い構造のまま再建した場合、震災の繰り返しになります」とユズゲク会長は述べた。

トルコは建設基準を包含するのに十分な法律を有しているものの執行力の弱さ、不正な建設施工、不十分な監視体制が組み合わさり、関連する法規が効果を発揮していないと、専門家は指摘している。

建物の建設や検査、使用に責任を負っていた全員が審査されると、トルコのベキル・ボズダグ司法相は述べた。(提供写真)

「被災地域で、適切な監視プロセスを伴って、現行の法律がきちんと施行されていたとしたら、破壊の規模はこれほど高くなかったことでしょう」と、全国都市計画協議会のジェンケイ・サーター会長はアラブニュースに語った。

2月6日の地震以降、建築基準違反の容疑で多数の人々が逮捕された。ところが、こうした建物を承認した当局者に対しては未だ何の法的措置も取られておらず、国民から非難の声が上がっている。

これまでに確認された612人の容疑者の内、184人が拘束され、55人が警察に拘留されており、214人は保釈されていると、トルコのベキル・ボズダグ司法相は述べている。逮捕者の中には、ガズィアンテプ県で最大級の震災被害を受けた行政区域のヌルダギ市のオッケス・カヴァク市長が含まれている。カヴァク市長は地震で倒壊した2棟の建物の建設請負業者だったと報じられている。

トルコ司法省は、各都市に地震犯罪捜査部を設置し、検察官を任命し、問題になっている建物の建設や承認に責任があると見なされる者を刑事告発するよう命じた。

サーター会長は、最新の建築法規以前に建設され承認されたすべての建物を特定することが現在必要不可欠だと考えている。「今こそ、そうした建物をそれぞれ特定し、耐震基準を満たす改修を緊急措置として講じるべき時です」と、サーター会長は述べた。

都市計画協議会は、他方、将来地震が発生した際に、市民が安全に集うことが可能な集合場所を明確に指定するよう地方自治体に呼びかけている。こうした集合場所となっていた空地のいくつかは、近年、ショッピングモールとなってしまっていると考えられている。

「何世紀にもわたって暮らせるような都市を構築できるはずです」と、サーター会長は語った。

「耐震性は間違いなく重要です。しかし、私たちは、単一の建物に注目するだけではなく、都市計画を都市レベルの視点で考えるべきなのです」

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