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中東の教育事情を変革する人工知能と遠隔学習プラットフォーム

サウジアラビアでは、eラーニング市場の規模が2021年に16億米ドルに達しており、2027年には倍の規模になると予測されている。従来の教室での学習が変革の時を迎えている。(AFP)
サウジアラビアでは、eラーニング市場の規模が2021年に16億米ドルに達しており、2027年には倍の規模になると予測されている。従来の教室での学習が変革の時を迎えている。(AFP)
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16 Mar 2023 02:03:28 GMT9
16 Mar 2023 02:03:28 GMT9
  • 新型コロナ禍時に用いられたリモートでハイブリッドな学習形態が教育の未来になると現在考えられている
  • 学校もオンラインのプラットフォームも新しいデジタルツールを採用し教育の強化と改善に努めている

ジュマナ・ハミス

ドバイ:これまでの教育の仕組みが新しいツールや手法、教育体制に適応するのに併せて、技術の進歩が中東の若年層の教育を変革しつつある。

新型コロナ禍時には、学校教育の中断を避けるために、リモートでハイブリッドな学習形態が一般的になった。現在、こうした教育のあり方が教育の未来になると考えられている。

実際、数多くの学校では、人工知能(AI)を用いた授業が導入され、対面式とオンラインの教育モデルの組み合わせを超えたデジタル学習が実運用されている。

個別指導やオンライン個別指導バンクも同様に、AIや拡張現実、VR、ロボット工学、ブロックチェーンなどの最新技術を導入している。

リヤドの国際リセ(フランスの教育システムの後期中等教育機関、日本の高校に相当)に在籍している留学生のシャイマ、新型コロナ禍で学校が休校となり自宅で学習中。2020年3月23日。(AFP)

「学生や生徒たちはAIを利用し始めています。AIを利用する方向なのは確実で、物理や化学、数学の複雑な数値問題に取り組むAIの能力もかなりのものです」と、即時個別指導アプリ開発企業Filoの共同創業者でCEOのインベサット・アフマド氏はアラブニュースに語った。

中等の学校教育におけるAIの導入はまだ揺籃期にあるが、補助ツールとして使用すればAIには多大な利点があるとアフマドCEOは確信している。

ReportLinkerが発表した「中東とアフリカの教育テクノロジーとスマート教室の2027年までの市場予測」という題名の最近の報告書によると、MEA地域におけるこうしたツールの市場は2019年時点の約35億米ドルから2027年には76億米ドル以上の規模に成長すると見込まれている。

サウジアラビア単体では、eラーニング市場の規模は2021年に16億米ドルに達しており、同報告書は2027年には倍の規模になると予測している。

IMARCグループによる「サウジアラビアのeラーニング市場:業界の動向、シェア、規模、成長、機会及び2022 – 2027年の予測」と題された別の報告書では、同期間でのこの部門の複合年間成長率は16.5%になると推測されている。

「昔ながらの教室授業は大きく変容しつつあります」と、アフマドCEOは語った。「ホワイトボードや平面的な図に縛られることはもうないのです。教師たちは内容によってはより良い説明を行うために動画を用いたりしているのです」

この傾向は、AI教師が教える中東初のデジタル・スクールであるKITMEKが今年開設されたことにも示されている。ゲームベースのメタバース内のみで運営されるKITMEKでは、幼稚園から小学校5年生までの国際的なカリキュラムを月額1米ドル足らずで受講可能である。

スポンサーシッププログラムを通じて、恵まれない子供たちに無料で教育機会を提供するKITMEK。(提供写真)

「デジタル・スクーリングと子供たちの学習能力に合わせてカスタマイズされた最高品質の教育を提供できるAI教師が教育の未来です」と、KITMEKのアナンド・カディアンCEOはアラブニュースに語った。

「すべての産業分野でデジタル革命が起きており、今こそ教育システムが進化する時なのです」

このオンライン学校では、必修科目に加えて、音声学や生活技能、コミュニケーション能力、金融リテラシーなどの追加科目が受講者向けに提供されている。

受講者は質問に正しく答えることでコインを獲得することが可能で、このコインは後に同じプラットフォームでゲームをプレイするために使用できるようになっている。

「子供たちは自身の進捗状況に合わせて学び、復習することが出来ます。また、自身よりも低学年の教材を意のままに簡単に参照することも可能です」と、カディアンCEOは述べた。

KITMEKのアナンド・カディアンCEO。(提供写真)

毎学年4つの試験が組み込まれているカリキュラムは、、進化し続けている多言語システム上に構築されている。インターネット接続できない電話からでもアクセス可能なこのプラットフォームは、スポンサーシップ・プログラムを通して恵まれない子供たちに無料教育も提供している。                           

UNESCOやUNICEF、世界銀行の調査によれば、低・中所得国の子供たちの最大70%が10歳程度の基本的な読み書きが出来ない「学習貧困」と見做されるという。

「学校に通える子供たちはこのプラットフォームで授業を受けることができます。学校に通えない子供たちにとってはこのプラットフォームがホームスクールになるのです」と、カディアンCEOは語った。

とはいえ、教育セクターにおける最近のAI技術の進歩にも関わらず、教育関係者は教室での対面式の授業を完全に撤廃することについては依然として躊躇している。

紅海の港町ジェッダで高校最後の試験を受けるサウジアラビアの生徒たち。(AFP)

「AI学習は確かに教育において勢いを増しているトレンドですが、従来の教育法の代替と見做すべきではありません」と、MENAに拠点を置くオンラインのプログラミングスクールであるギーク・エクスプレスの共同設立者でCEOのマナル・ハキム氏はアラブニュースに語った。

AI技術を補助的なツールとしてのみ使用する考えを支持するハキム氏は、「AI技術は学習経験を高め、学習者それぞれに最適化された学習機会をを提供してくれます。しかし、人間の教師を完全に代替出来るということではありません」と述べた。

ギーク・エクスプレスでは、受講者はプログラムミング・コースや、ドバイ、アブダビ、シャールジャで開催されるプログラミング・キャンプに参加して、ビデオゲームやウェブサイト、アプリ、AIモデルの開発を学ぶことが出来る。

K-12認定カリキュラムを有するギーク・エクスプレスというこのオンライン技術学校は、リアルタイムで双方向的なコースを提供している。コースの受講者は、Zoomでマイクロソフト認定トレーナーの協力を得て自身のプロジェクトの開発を進めるといった、受講者中心でゲーム化された学習体験を得ることが出来る。

こうしたツールの市場が中東やアフリカで成長を継続していることから、オンライン学習が教育システムの一部として確立していく可能性が非常に高いとハキム氏は考えている。

「オンライン学習や授業を教育カリキュラムに統合するにあたっては、テクノロジーとコンテンツが効果的かつ受講者のニーズに沿ったものであることを確実にするために、教育機関と教育テクノロジー企業と政策立案者の協力が必要です」と、ハキム氏は語った。

ギーク・エクスプレスの共同設立者でCEOのマナル・ハキム氏。(提供写真)

従来の教育モデルからデジタル教育モデルへの迅速な移行を円滑に行うためには、教育機関は既存の教育カリキュラムに学習プラットフォームやツールを取り込み、融合的な学習を行うという選択肢を生徒たちに提供することが妥当かもしれないとハキム氏は言った。

こうした取り組みには、従来の対面式授業と、バーチャル授業やディスカッション・フォーラム、ビデオ講義といったオンラインでの学習活動の組み合わせが含まれることになる。

ハキム氏はまた遠隔教育を希望する生徒にはオンラインコースを選択肢として学校側が提供することも可能だと言う。これは、教育テクノロジー企業やオンライン学習プラットフォームとの協力により、技術ライセンスの供与やカスタマイズされたソリューションの開発によって実現可能となるはずである。

「こうしたコースやプログラムは、従来の対面型コースと同じ学習目標を満たし、同様の学習成果を得られるように構成可能です」と、ハキム氏は述べた。

新型コロナ禍による行動制限が解除されたにも関わらず、多くの生徒たちは、成績改善や目標達成のために、オンラインでの個別指導の個人的な受講や模擬試験、オンデマンド学習を引き続き信頼し利用している。

「学業環境での競争の激化や同級生よりも優位でありたいという生徒たちの願望により、学校外での個別指導を生徒たちが選択する傾向は今後も継続する可能性が高いです」と、ハキム氏は語った。

即時個別指導アプリ開発企業Filoは、新型コロナ禍時に、リアルタイムでの対面型個別指導の手段を提供することで、教育分野への参入を果たした。

「従来の形式の学習が休止してしまった時期に、このプラットフォームが生徒たちに『学術の専門家』だけでなく、学習の中断が無いように戦略的にコースを計画してくれる『分野の専門家』や、生徒の学習状況を継続的に確認し改善を要する領域について即時フィードバックを行う『学術カウンセラー』」へのアクセスを提供しました。」と、FiloのCEOであるアフマド氏は述べた。

教育テクノロジー分野の過去3年間の隆盛に伴って、同期学習が生徒たちにとって人気のある学習形態として浮上して来ており、それは保護者たちにとっても支持されている取り組みなのだとアフマド氏は語った。

新型コロナ禍の最中、新学期初日にマスクを着用して授業を受けるイラクの生徒たち。イラク北部の都市モスル。2020年11月29日。(AFP)

60,000人以上の教師で構成される世界最大の個人指導教員コミュニティへのアクセスを提供しているFiloは、世界で約350万人の生徒たちのサービス需要を満たし、毎日70,000を超える授業を実施しているという。

「Filoのプラットフォームは、生徒を個人指導教員に60秒以内に接続し、毎日24時間週7日、平日も日曜日でさえも、リアルタイムで、生徒たちが学習上のハードルを越えられるようにしています」と、アフマド氏は言った。

2020年のプラットフォーム開設以来、教育におけるいくつかのトレンドが明らかになったとアフマド氏は指摘する。「生徒たちの行動が、特定の質問や数値的な問題を尋ねたりするだけでなく、概念全体の説明を指導員に求めるようにもなってきました」と、アフマド氏は語った。

「完全に理解出来たかどうか指導員に説明してみようとまで、生徒たちは言っています」と、従来の授業では時として困難な対面型指導というFiloの利点が浮彫りになったわけだ。

従来の学期制よりも生徒たちが短期間でコースを修了出来る学習フォーマットにアフマド氏は言及し、「教師たちは速習法をすぐに採用し始めると確信しています。速習法はトレンドになると期待して良いでしょう」と言った。

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