• パレスチナ側はガザの経済にダメージを与える実質的な包囲網であると主張
• 現在、漁業水域はガザ沖合11キロから28キロの範囲だけだ

パレスチナ自治区、ガザ市：ガザの漁師ジハード・アル・ヒシ氏は荒れた海には慣れていたが、現在は新たな嵐に直面している。所有する船が飛び領土ガザの漁業水域から越えて進んだため、イスラエルの裁判所に船を差し押さえられる恐れがある。

地中海での漁業が数少ない経済的生命線の一つになっている、封鎖下にある人口230万人のパレスチナ自治区の数千人の漁師にとって、これはきわめて重要な事案である。

漁師たちが夜のうちに獲ったタイやエビ、イワシを販売しているある早朝のガザの埠頭で、角ばった肩をした無精髭のヒシ氏（55）が境遇を語ってくれた。

現時点では船を所有しているが、イスラエル当局がハイファの裁判所で永久に没収すべきであると主張しているため、どうなるかわからない。

エジプトに近いガザ南部沖でエビを獲るための船で、船名は「ハッジ・ラジャブ」だが、ヒシ氏はその黄色い船体から名前を消し去った。

「イスラエル人に特定され、船を押収されたくない」という。ヒシ氏は1年以上前にイスラエル海軍の巡視艇と激しく衝突している。

イスラエルは、ロケット弾などのハマスの攻撃から自国を守るために、またイスラム過激派への武器密輸を防ぐために、陸海空のガザ封鎖が必要だと主張している。

パレスチナ側は、ガザの経済にダメージを与え、住民をさらに困窮させる実質的な包囲網であり、漁業制限によって重要なタンパク質が手に入らなくなると主張している。

昨年2月14日、ジハード・ヒシ氏は、ハマスがガザで権力を奪取した2007年にイスラエルが宣言した海域を超えて船を進めた。

当日海に出ていた兄弟のニハードさんは、「同海域の100メートル先に、特殊部隊を乗せた3隻のイスラエル艦艇が待ち受けており、びっくりした」と述べた。

「連中は私たちの船を攻撃し、そして私たちを拘束して逮捕した」

その日イスラエル軍が放った高圧放水銃とゴム弾で、船室は損傷したままだ。

イスラエルは、裁判所に提出した文書で、「ガザに隣接する海域でイスラエル軍が課す安全保障上の規制に繰り返し違反した」と、ヒシ氏を非難している。

イスラエルの非政府組織Gishaはヒシ氏の弁護を支援し、9月に船の返還を実現させたが、イスラエル当局は現在、裁判所に「永久没収」を求めている。

イスラエルが現在許可している漁業水域は、ガザ沖合6～15海里（約11～28キロ）の漁獲量の多い水域のみだ。

ヒシ氏は、これは1990年代にオスロで締結されたイスラエル・パレスチナ間合意で確認された最大20海里より少ないと主張している。

しかし、ときどきその海域をさらに越えて進むこともある、と同氏は認める。1キロ（約2.2ポンド）あたり約21ドルの利益があり、損益を決定づけるエビを求めてのことだ。

ヒシ氏の法廷闘争は、ガザに住む数千人の漁師が注視している。

ヒシ氏の船が永久に没収されることになると、「ガザに住む数千人の漁師にとって深刻な脅威になる。漁業をやめさせることを目指しているからだ」と、ガザの4千人の漁師が加盟する漁協のニザール・アヤシュ組合長は非難した。

この法廷闘争は、密輸や漁業水域違反容疑でのイスラエルによる漁船の仮差押えが増えている状況下で行われている。

パレスチナの非政府組織アルメザンによると、昨年は23隻の船が没収され、2018年以降で最多となった。

アルメザンによると、ガザの漁師が関係する安全保障事案は昨年474件記録され、この5年間で最多となった。

Gishaの弁護士ミュナ・ハダッド氏は、この事件は「言語道断」であり、「ガザの漁師を標的にした前例のないエスカレーション」の中で発生した、と主張した。

ハダッド氏は、イスラエルが武力紛争に関する国際法の敵船拿捕規定を民間人に適用して悪用している、と非難した。

AFPが閲覧した裁判文書によると、イスラエルは、ヒシ氏が法的保護を「乱用」し、その乗組員が拿捕の際に兵士の安全を「脅かした」と主張している。

イスラエル軍関係者はAFPに対し、ガザの経済を支援したいが、イスラエルの安全保障を損なわない限りにおいてだ、と断言した。

ヒシ氏は、「私たちは生き延びるために漁をしている」と語った。同氏の一族は、現在はテルアビブの一部になっているヤッファに居住していたが、1948年の戦争の際にガザに避難した。

「そして、利益が少ない時でも、私たちは漁を続ける。どのみち、この人生で他のことはやり方を知らない」

AFP