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紛争の渦中にあるスーダン人道危機をさらに深刻化させる医療システムの逼迫

スーダン軍と準軍事組織の戦闘が継続する中、閉鎖されてしまったハルツーム南部の医療センター。2023年5月8日。(AFP)
スーダン軍と準軍事組織の戦闘が継続する中、閉鎖されてしまったハルツーム南部の医療センター。2023年5月8日。(AFP)
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17 May 2023 02:05:50 GMT9
17 May 2023 02:05:50 GMT9
  • 増加する死傷者や欠乏する物資、病院の閉鎖、絶え間ない破壊行為に、援助機関が警戒を呼びかけている
  • 空域の封鎖により、スーダンに基本的な医療物資を運び込むことはほぼ不可能となっている

レベッカ・アン・プロクター

ローマ:スーダン軍と即応支援部隊の戦闘が2ヶ月目となり、首都ハルツームの街路には死体が積み重なっている。スーダンの医師や医療従事者は、急増する死傷者数に圧倒されており、基本的な物資の入手も医療の適切な遂行も出来ないでいる。

スーダンの医師らは、既に脆弱化していた同国の医療体制が崩壊に近づいていると警告を発している。非政府組織ACLEDによると、4月15日に始まった戦闘の結果、これまでに主にハルツームとダルフール西部で多くの子供を含む750人以上が死亡している。この戦闘によって引き起こされた種々の問題にスーダンの医療体制は圧迫されている。

スーダン軍を率いるアブドゥルファッターハ・アル・ブルハンと彼の元副官で現在は敵対者となった即応支援部隊(RSF)を率いるモハメド・ハムダン・ダガロという相容れない2人の将軍は、ここ数日間の停戦に合意しているが、麾下の両軍は合意に違反し続け、紛争地となっている都市や町の民間人たちは継続的に戦火にさらされている。

「包帯や酸素、麻酔薬、その他医療物資が足らなくなってきています」と、スーダン医師労働組合の事務局長であるアティア・アブダラ・アティア医師はアラブ・ニュースに語った。「ハルツーム市内の病院周辺で戦闘が継続しており、13人の医療従事者の命が失われました。その中には複数の医学生も含まれています。戦闘中の両派は、ハルツーム内外の病院を攻撃しています」

赤十字国際委員会によれば、ハルツーム市内の病院の内、現在機能していると推察されるのは16%に過ぎない。こうした病院は、欠乏する物資を遣り繰りしつつ、断続的または継続的な停電、絶え間ない破壊行為に耐えながら、何とか稼働している状態にある。数多くの病院が閉鎖を余儀なくされている。

「現在負傷している医師が多数います」と、アティア医師は言った。「病院のいくつかは、RSFやスーダン軍に占拠されています。彼らは、病院を支配下に置いて、作戦の拠点として利用しているのです」

アティア医師の同僚医師の1人は、軍に逮捕され10日間拘留された。「釈放後、彼は非常に悪い健康状態でした」と、アティア医師は語った。

敵対する軍幹部の率いる部隊の間で戦闘が続くスーダンの西ダルフール州の州都ジュナイナ市内にある放棄された病院。2023年5月1日。(AFP)

スーダン医師労働組合はこれまでの負傷者数を2,450人と発表しているが、これには軍関係者や連絡が取れない病院で治療を受けた負傷者の人数は含まれていないと、アティア医師は語った。また、スーダン医師労働組合によると、ハルツーム市内の3分の2以上の病院が閉鎖されているとのことである。

病院はスーダン軍とRSFの両者から攻撃を受けているという。

「不完全な数値です。この紛争ではいたるところで戦闘が行われ、被害もあらゆる場所で目に入ってきます。それなので、負傷件数はもっと多いと考えられます」と、アティア医師はアラブニュースに語った。「発表されている数値は実際の状況を反映していません。把握する手段が無いのです」

アティア医師は、スーダン医師労働組合がスーダンの数多くの病院や地域にいかに医療物資を分配しようとしているかを説明し、ハルツーム向けの医療物資が保管されている主倉庫が戦闘が激化している場所にあるためアクセス不可能なのだと述べた。

「ジャジーラ州とナイル川州をハルツームと結びつける委託システムが確立したので、利用可能な医療物資を病院に配布出来るようになりました」と、アティア医師は述べた。

ICRCアフリカ地域ディレクターであるパトリック・ユセフ氏は、「活発な戦闘が行われているハルツームなどの地域の病院は限界に達しつつあります」と、アラブニュースへのコメントの中で述べている。

「(過去)数週間にわたって、医師や看護師たちは、減っていく医療物資を遣り繰りしながら、水や電気が途絶える中、人々の治療という不可能時を何とかやり遂げようとしてきました」

ユセフ氏は「ハルツームは数百万人が暮らす、人口密度の高い都市です。威力の高い爆発性兵器が使用された場合、街角が戦場となり、民間人が最大の犠牲を払うことになります」と語り、状況の深刻さを強調した。

数少ない機能中の医療施設においても、基本的な医療物資は不足し、停電も発生し、少人数の医師や他の医療スタッフが何とか運営している状況であるため、スーダン紛争による死者数は増加し続けている。

国連の児童機関であるUNICEFの広報担当者のジェームズ・エルダー氏は、ジュネーブで、国連による独立した検証が未だ行われていない数値ではあるが、スーダンでは紛争発生以来11日間で190人の子供が死亡し、1700人が負傷したと見られると述べた。

エルダー氏は、これらの数値はハルツームとダルフール地域の医療施設から集めた情報を集約したものであり、医療施設にたどり着くことが出来た子供たちのみが含まれている点を強調した。実際に負傷したり死亡している子供たちの人数はずっと多いと考えられる。

紛争が第3週目を越えて第2ヶ月目へと継続し、スーダン人は苦悶している。(アラブニュース写真:ファイズ・アブ・バクル)
Sudanese are suffering as the fighting stretches on past the third week into the second month. AN photo by Faiz Abubakr

「医療施設では医療物資が不足し、スタッフは仕事場に行くことも出来ません」と、国境なき医師団(MSF)のプロジェクトコーディネーターのサイラス・ペイ氏は、北ダルフール州エルファーシル市のMSFが支援するサウス・ホスピタルからのコメントの中で明かした。「医療従事者、難民救済ワーカー、救援隊員は全員戦闘により移動が出来なくなっています。その結果、亡くなってしまう人々もいます。移動手段が有れば、状況は変わるはずです」

4月21日の時点で、MSFが支援しているサウス・ホスピタルは279人の負傷者の治療にあたっており、その内44人は負傷が原因で後に死亡したとペイ氏は述べた。

「壊滅的な状況です」と、ペイ氏は語った。「負傷者の大半は流れ弾に当たった民間人で、子供も多く含まれています。彼らは銃弾による骨折や脚部、腹部、胸部の銃創や爆発物の金属片による切創を受けています。その多くは輸血を必要としています。負傷者数があまりにも多く、(全員)収容出来るだけのベッド数が無く、廊下の床で治療を受けている人々もいます」

アルブルハーンとダガロは、ここ数日間の停戦に合意しているが、麾下の両軍は合意に違反し続け、紛争地となっている都市や町の民間人たちは継続的に戦火にさらされている。(アラブニュース写真:ファイズ・アブ・バクル)
Sudanese are suffering as the fighting stretches on past the third week into the second month. AN photo by Faiz Abubakr

スーダンの空域は紛争のために依然として封鎖されており、軍用機のみが使用可能である。このため、必要とされている基本的な医療物資をスーダンに持ち込むことはほぼ不可能となっていた。現在行われている支援の大部分は国内で州から州へというレベルのものだが、最近になって少数の国際的支援団体が不可欠な支援物資をスーダン国内へと届けられるようになった。

4月30日、ICRCの最初の国際人道支援物資がポートスーダンに到着した。戦闘開始以来15日目だった。到着した貨物には、戦闘により負傷した人々に医療ケアを行っているスーダン国内の病院やスーダン赤新月社のボランティアへの支援として、手術用具を含む8トンの人道支援物資が含まれていた。

5月5日、UAEと世界保険機関(WHO)は30トンの緊急医療物資をスーダンに届けた。負傷の治療や緊急手術、必須の医薬品を積載した航空機がポートスーダン空港に到着したのだ。この44万4千米ドル相当の貨物が、紛争勃発以来、WHOが空輸でスーダンに持ち込むことが出来た最初の物資だった。

WHOは紛争が激化する前にスーダン国内の医療機関に医療物資を分配していたが、それは負傷者数の多さのためにほんの数日間で使い果たされてしまった。

スーダンに到着するICRCの人道支援物資。(提供写真)

アティア医師とユセフ氏によると、必要とされている物資の到着は前向きの一歩ではあるものの、継続する戦闘の中、今後の試練は、物資とその輸送を行う人々が物資を必要としている病院へと安全に移動出来る経路の確保だという。

「紛争により、医療従事者だけでなく患者にとっても医療施設への移動が困難になっています」と、ユセフ氏はアラブニュースに語った。

「医療施設への安全なアクセスのために必要なセキュリティの保証を確保するために、紛争当事者の双方と連絡を取っています。先週は、パートナー機関のスーダン赤新月社と共に、外傷の治療のための医薬品と医療物資をハルツームの病院に届けることが出来ました」

ICRCは、「治安状況に問題が無ければ」、今後数日間でもっと多くの医療施設へ物資を届けたいと希望していると、ユセフ氏は語った。

多くのスーダン市民は、食料や清潔な水を入手する手段も無く、医療サービスの利用も出来ず、自宅に閉じこめられたままである。(アラブニュース写真:ファイズ・アブ・バクル)
Sudanese are suffering as the fighting stretches on past the third week into the second month. AN photo by Faiz Abubakr

しかし、戦争行為は依然として継続しておりハルツームといった活発な戦闘行為が行われている地域の医療施設に物資を届けるにあたっては、スーダンにおける存在感の強化と活動の活発化を図ろうとする関連機関からの支援や便宜の提供に加えて、紛争当事者である両陣営による経路の安全性の保証をICRCチームは必要としているのだと、ユセフ氏は語った。

この地域の専門家たちの多くは、停戦が継続することが、食料や清潔な水を入手する手段も無く、医療サービスの利用も出来ず、自宅に閉じこめられたままである多数の市民たちや、必須の医療物資の入手も、治療を受けることも出来ずに死の淵に立たされている市民たちにとって、救いの手となる可能性があると述べている。

しかし、1ヶ月以上戦闘を行った現在でも、アルブルハーンとダガロの両将軍が「人道的一時中断」を容認し得る心的状態にあるのか否かについて誰も確実なことは言えない。

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