Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

パレスチナ人を対象としたアラブニュース/YouGov調査、親イスラエル派アナリスト2人はどう見たか

Short Url:
21 May 2023 05:05:09 GMT9
21 May 2023 05:05:09 GMT9
  • ジェイソン・グリーンブラット氏は、アブラハム合意が紛争解決のために作られたわけではないこと、またパレスチナ人が自分たちの指導部に失望していることを指摘する
  • ヨシ・メケルバーグ氏は、極右政権によって「人質に取られている」ベンヤミン・ネタニヤフ首相をパレスチナ人が信頼する理由はないと言う。

レイ・ハナニア

シカゴ:政治的にそれぞれ左と右の2人の親イスラエル派ソートリーダーが、最近アラブニュースの依頼でYouGovが実施した世論調査の結果について見解を述べた。この調査は、アブラハム合意から、米中露のうちどの国が「公正な仲介者」となる可能性があるかまで、様々なテーマに対するパレスチナ人の考え方を探ったものだ。

5月17日の「レイ・ハナニア・ラジオショー」では、ドナルド・トランプ前大統領のもとで中東担当特使を務めアブラハム合意の立役者となったジェイソン・グリーンブラット氏と、王立国際問題研究所のアソシエイトフェローであるヨシ・メケルバーグ氏が、4月28日から5月11日の期間に953人のパレスチナ人を対象に実施されたこの調査についての見解を語った。

調査では、回答者の相当数(25%)が、イスラエルとパレスチナの数十年来の紛争の仲介者としてはロシアが好ましいと答えている。一方、約18%は和平調停に向けた中国主導の取り組みを歓迎するとしている。米国主導の取り組みへの信頼の顕著な低下が示される形となった。

グリーンブラット氏は、米国は自国の利益にとって最善となるような形で関与しているだけだとしつつも、ロシアが和平調停者となる可能性には疑問を呈し、中国が仲介者となる可能性はまだ確かではないと主張する。

「パレスチナ人は非常に賢いと思う」とグリーンブラット氏は言う。「彼らは自分たちの指導部に裏切られたことに気づいている。ガザ地区の指導部は、私に言わせればテロリストであり、パレスチナ人を服従させているだけだ。同地区に住む約200万人のパレスチナ人はその指導部のせいで苦しんでいる」

「自分たちが裏切られたことに気づいていると思う。経済は酷い有様で、彼らの暮らしはどんどん悪くなっていくばかりだ。和平への道はないし、より良い未来への道もない」

しかし、和平プロセスを前進させるための外部の仲介者となり得る国々の役割について、「公正な仲介者」などは存在しないとグリーンブラット氏は言う。

「米国は自国の利益に偏っている。それはイスラエルの方に偏っているという意味かと聞かれれば、そうだと私は言う。米国はパレスチナに何十億ドルもの資金を提供してはいるのだが」

「そして誰が大統領かによっても違ってくる。ここでは(ジョー・)バイデン(大統領の)政権の話をする。バイデン大統領、そしてトランプ前大統領の前のバラク・オバマ元大統領が発効させた対パレスチナ政策の多くは、私に言わせればパレスチナの方に偏っていた」

「ただ、どちらか一方に偏っていない国は世界を見てもほとんどない。少なくとも大きな舞台で動いている国々の場合はそうだ」

「とは言うものの、パレスチナ側のレンズを通して見てみると、このYouGov調査の中で興味深い発見があった。パレスチナ人の多くは、この問題に関してロシアがかなり大きな役割、良い役割を果たせると思っているのだ」

Arab News-YouGov opinion poll

「それについて考えてみよう。ウクライナで戦争をしているロシアのことだ。ほとんどの人はロシアがウクライナで行っていること、すなわち攻撃、侵略、殺戮、破壊に反対している。パレスチナ人が和平のためにロシアを頼りにしているのだとすれば、和平が実現する見込みは全くないと思う」

王立国際問題研究所(チャタムハウス)の中東・北アフリカプログラムのアソシエイトフェローで、ローハンプトン大学の客員教授であるヨシ・メケルバーグ氏は、イスラエル・パレスチナ紛争には「公正な仲介者」が切実に必要とされていると主張しつつも、ロシアや中国の役割については確信が持てないと言う。

「公正な仲介者が必要だ。これは非対称的な紛争だからだ。一方に軍事的な力と経済的な力を持ち世界中からの支持を得ている国家があり、他方にはガザ地区とヨルダン川西岸地区、ファタハとハマスに分断された準国家であるパレスチナがある」

中国はEU諸国や米国と違って余計な荷物を持ってこない。イランとサウジアラビアの和解を推進したことは成功だと思われる。これは新たな夜明けかもしれない

ヨシ・メケルバーグ、イギリス王立国際問題研究所アソシエイトフェロー

「その意味で、パレスチナの人々やパレスチナ自治政府は外部からの支援を求めるだろうと当然考える。しかし、自治政府やパレスチナ解放機構(PLO)がそれに対してそれほど積極的でないことにいつも驚かされる」

「彼らは計画を作る必要がある。どのような支援を国際社会に求めるのか。国際社会のコートにボールを投げ込むだけでは不十分だ。それは彼らの責任なのだから」

メケルバーグ氏は、パレスチナ人のロシアに対する信頼に「感動した」と言う。

「一方、このYouGov調査が示すように、米国に対する不満は、米国はイスラエルに影響を与えられると誰もが思っているにもかかわらず政治的な理由からそうしようとしないというものだと思う」

「特に大統領選挙まで1年半ある今、共和党や民主党がイスラエルに影響を与えようと何らかの動きを見せる可能性はどれくらいあるだろうか」

「中国を潜在的な仲介者として見る人が増えているのは興味深い。思うに、(中国は)EU諸国や米国と違って余計な荷物を持ってこない(…)イランとサウジアラビアの和解を推進したことは成功だと思われる(…)これは新たな夜明けかもしれない」

アラブニュース調査研究ユニット責任者のタレク・アリ・アフマド氏は「レイ・ハナニア・ラジオショー」で、アラブニュース/YouGovオンライン調査の信頼性について、イギリスの調査会社であるYouGovは幅広い回答者サンプル(男性55%、女性45%)を使用していると説明した。

「サンプルの中には幅広い人々、ヨルダン川西岸地区とガザ地区の両方のパレスチナ人が含まれている」と彼は言う。「18歳から45歳以上までの幅広い人々が対象になっている。仕事に就いている人もそうでない人もいる。収入や教育レベルといった情報も参考として載せている」

「街角のパレスチナ人たちのリアルで正当な声を得るためには、調査の対象となる人々のサンプルの質が重要だ。953人はサンプル数として十分だと思う」

イスラエル政府が最終和平合意を避けているとしてパレスチナ人から非難されていることについて質問されたグリーンブラット氏は、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の政権を擁護しつつも、イスラエルの一部の閣僚の見解にははっきりと反対すると強調する。

パレスチナ人が意味のある誠実なやり方で交渉のテーブルに着くことができるのであれば、イスラエルの右派政権は和平を実現できる。

ジェイソン・グリーンブラット、元トランプ政権中東担当特使

「この調査が、ベンヤミン・ネタニヤフ首相を含むイスラエルの右派政府は和平を実現できないということを示唆しているという意見には同意しない」

「イスラエル・パレスチナ紛争に関してはネタニヤフ首相と私は同じように考えている。言っておきたいのは、適切な立場が全て議論され交渉されるような適切な状況下なら、彼は和平を実現できる人間だということだ。しかしそれは、パレスチナ指導部や世界中の多くの人々が70年以上にわたってパレスチナ人に約束してきた和平とは違うだろう」

「パレスチナ人がそれを理解し、意味のある誠実なやり方で交渉のテーブルに着くことができるのであれば、右派政権は和平を実現できると思う」

「確かにこの政権は右寄りだと思う。政権の中に容認できない発言をする閣僚が何人かいるのも確かだ。憎悪に満ちた発言をする彼らには賛同できない」

「しかし政権全体としては困難な状況下で熱心に取り組んでいると思う。彼らはパレスチナに関係のないことでも困難に直面している。司法改革に対するデモが行われているし、他にもイスラエルでは色々な問題が起こっている。困難な時だ」

Arab News-YouGov opinion poll

「この右派政権はパレスチナ人にとって悪い政府だというのが大方の見方になっていると思う。この右派政権の一部、特に2人の閣僚は確かに(悪い)。これらの一部の閣僚の発言には反対だ」

「人々はそれに注目すべきではないと思う。ネタニヤフ政権全体としての考えではないと思うからだ」

対照的に、メケルバーグ氏はネタニヤフ政権が信頼できるとは考えていない。

「イスラエル人がネタニヤフ首相を信頼せずに街頭でデモを行うまでに至っている」と同氏は言う。「それなのに、なぜパレスチナ人がネタニヤフ政権を信頼しなければならないのか。彼は同国史上最も右寄りの政府を作ったというのに」

「彼は、イタマル・ベングビール国家安全保障相や財務相を奇妙な理由で要職に就けた。ベツァレル・スモトリッチ国防省内大臣もだ」

「彼らはヨルダン川西岸地区を併合すべきだと考えている。二国家解決には決して賛同しないだろう。そしてネタニヤフ首相は基本的に人質に取られている。だからといって免罪されるわけではないが、汚職裁判を理由に極右の人質になっているのだ」

ネタニヤフ首相は3件の汚職容疑でイスラエル司法当局から起訴されている。

グリーンブラット氏はアブラハム合意の問題に関して、その外交努力を擁護しつつ、人々がこの合意に過度の期待をすることがしばしばあると主張する。「アブラハム合意はイスラエル・パレスチナ紛争の解決のために作られたわけではない」

Abraham Accords infographic

「シリアの悲惨な内戦の解決のためでもないし、レバノンの酷い状況の解決のためでもない。レバノンは実質的にイラン体制によって占領されており、この美しいレバノンという国にはほとんど何も残されていない。イエメン内戦の解決のために作られたわけでもない。人々はアブラハム合意に対して不適切なほどに重みと責任を負わせていると思う」

「アブラハム合意はある程度緊張を緩和したし、さらに(緩和)できるだろう。しかし結局のところ、中東にはイスラエル・パレスチナ紛争とは関係のない紛争がたくさんある。それらは依然として課題であり、解決は非常に難しいだろう」

メケルバーグ氏はアラブ和平イニシアティブに言及し、この最善の和平提案は2002年にサウジアラビア政府が発案したものだと指摘しつつも、パレスチナ指導部に「積極性」が欠けていることが問題だと言う。

「もう一つの選択肢は、彼らがこの問題について自己満足し尊大になることだ。残念ながらそれが現実になった」

「『なぜ我々(イスラエル)がパレスチナ問題を進展させる必要があるのか。急ぐことはない』というのが現状だ(…)パレスチナ人は積極的になる必要があると思う。世界が解決してくれるのを待っているわけにはいかない。世界は別の方向に動いているからだ」

実際、メケルバーグ氏の考えでは、イスラエルの「憲法危機」がパレスチナ問題を「脇に」追いやっている。

米国アラブ・ラジオネットワークを通してデトロイトとワシントンD.C.で生放送されている「レイ・ハナニア・ラジオショー」はアラブニュースが提供する番組。ポッドキャストはArabNews.com/rayradioshowで聴ける。

Arab News/YouGov have released a survey to mark the 75th anniversary of the Nakba. (AN Photo)
特に人気
オススメ

return to top