ハザノ、シリア:ある寒い冬の夜、シリア人のイブラヒム・オスマンさんは礼拝に出かけ、女の子の赤ちゃんをあやしながら帰宅した。生まれて僅か数時間後に村のモスクの玄関先に捨てられていたのだ。
シリア北西部の反体制派支配地域のハザノに住む59歳の彼は、「その子を家に連れて返って、妻に『プレゼントを持ってきたよ』と言いました」と話す。
彼はその赤ちゃんを「ヒバトゥッラー」(「神からの贈り物」という意味)と名付け、家族の一員として育てることを決めた。
2020年2月11日に村のモスクの玄関先に捨てられていたのを見つけた女の子と遊ぶイブラヒム・オスマンさん(中央)とその親族。2023年3月22日。(AFP)
当局者によると、内戦で荒廃したシリアでは、モスクや病院の外、オリーブの木の下などに赤ちゃんが置き去りにされている。12年以上におよぶ過酷な内戦が貧困と絶望を深めているのだ。
シリアにおける人権侵害を記録しているワシントンの団体「真実と正義のためのシリア人」によると、同国では2011年の内戦勃発以前は公式に記録された「捨て子は僅かしか」いなかった。
しかし、同団体が3月に発表した報告書は、2021年初頭から2022年末までの間だけで全国で100人以上の捨て子(うち62人が女児)が発見されているとしたうえで、実際の数字はそれよりはるかに多いと推定している。
シリアの同伴者のいない子供や生まれの分からない子供を保護している施設「チャイルド・ハウシズ」で赤ちゃんの世話をする看護師。イドリブ。(Omar Haj Khadour / AFP)
内戦開始以来「その数は劇的に増加している」という。「内戦の社会的・経済的影響」が政府支配地域と反体制派支配地域の両方に及んでいるためだ。
報告書は、貧困、不安定さ、不安、児童婚、性的虐待、婚外妊娠などの要因を指摘している。
シリアでは養子縁組は禁止されているが、オスマンさんは地元当局にヒバトゥッラーちゃんを養育する許可を求めた。
彼女は正式に家族の一員になることはできないが、「私が死んだら彼女に遺産を分けると子供たちに言いました」。彼はそう言って涙を流した。
髪を緩く後ろに引っ張ってお下げにして、艶のあるピンクのサンダルを履いてよちよちと歩き回っている3歳の彼女は、今では彼を「おじいちゃん」と呼ぶ。
「彼女はただの無邪気な子供です」とオスマンさんは言う。
蔓延する死と破壊
シリアの内戦は50万人以上の死者と数百万人の難民を出し、国のインフラを破壊した。
保健所職員のザヘル・ハッジョ氏がAFPに対し語ったところによると、昨年1~10月に政府支配地域で登録された新生児の捨て子は53人(男児28人、女児25人)に上ったという。
シリアのバッシャール・アサド大統領は今年、そのような子供たちのための専用施設を作る法令を出した。この施設に保護される子供たちは自動的にアラブ人・シリア国民・イスラム教徒として登録され、出生地は発見された場所となる。
反体制派支配地域のイドリブ県で、捨て子のための主要施設で働くソーシャルワーカーたちは、赤ちゃんを毛布でしっかりとくるんで簡素な揺りかごにいれて世話をしていた。紫色のペンキやリボンできれいに飾られた揺りかごもあった。
茶色とベージュのカーペットが敷かれ壁がむき出しのこの部屋で、ある女性は片手で赤ん坊を揺すって寝かしつけながら、もう一方の手で別の子にミルクを与えていた。
この施設のプログラム責任者であるファイサル・アル・ハムード氏は、保護したある女の子の赤ちゃんはオリーブの木の下で見つかった時には猫に引っ掻かれた後だったと話す。
「顔から血が滴り落ちていました」。それ以来この施設は彼女をある家族に預けているという。
ハムード氏によると、そのような赤ちゃんたちが適切に扱われているか、また「子供の人身売買が行われていないか」を確認するために、職員たちがフォローアップを行っている。
イドリブの反体制派当局で市民問題を担当するアブドゥラー・アブドゥラー氏によると、この施設は2019年の開業以来26人の赤ちゃん(女児14人、男児12人)を受け入れてきた。今年だけで9人を保護したという。
シリア北部・北西部のジハード主義組織やトルコの支援を受けた組織が支配する地域では400万人以上が暮らしており、その90%は生存のために援助に依存している。
アブドゥラー氏は、捨て子の「責任は戦争にあるが、家族にもある」と言う。
「この子たちは犠牲者だ」
AFP