
マルワ・アルアミン
スーダン、ワドメダニ:6週間前にスーダン軍と準軍事組織「即応支援部隊」の衝突が始まって以来、スーダンでは数十万人の民間人が退避を余儀なくされているが、その大多数は国内に留まることを選択している。
ハルツームから南東に自動車で3時間の距離に位置するジャジーラ州には戦禍を被った首都から逃れた人々が最も多く集まっており、同州は、現在、今回の広範囲に及ぶ難民危機問題の縮図の様相を呈している。
ジャジーラ州に退避してきた人々は、橋梁や水路、国境を通過する困難な行程は免れたものの、その多くは、避難民キャンプに到着後、十分な医療サービスや住居施設、食糧を得られないという新たな苦難に直面している。
避難民の人数の急増により、ジャジーラ州では医薬品や燃料、食糧が増々不足している。こうした物資は、平時には、首都ハルツームから地方の各州に配送されていた。
対立する2人の将軍の部隊による戦闘が継続するハルツーム南部の空に広がる煙。スーダン。2023年5月6日。(AFP)
スーダンの人道支援担当委員のアサド・サー・ムハンマド氏は、流入して来る避難民に対応するために複数の救援機関がジャジーラ州の現場で積極的な活動を展開していると語った。しかし、その能力は既に限界まで引き延ばされている。
「私たちはスーダン国内のあらゆる機関と繋がりを持っています」と、ムハンマド氏はアラブニュースに語った。「現在、私たちは難民の対応を専門としている複数の機関と協働しています。世界保険機関(WHO)と世界食糧計画(WFP)とも連携しています」
国連難民高等弁務官事務所や国際難民救済NGO組織Alight、国際救援復興組織ZOA、デンマーク難民評議会、メディカル・チーム・インターナショナル、イスラム救済を初めとする多数の機関が、スーダンの社会保障省や人道支援委員会、難民委員会と正式な連携協力を行っている。
「私たちの進め方は、まず避難民たちの心身の外傷をケアし、人間らしい生活が可能な住居を彼らに提供し、その後は各組織団体が引き継ぐというものです」と、ムハンマド氏は語った。「国境なき医師団」を初めとして、委任を受けて既に活動を開始している団体がいくつかあります」
スーダン中東部ジャジーラ州の州都ワドメダニのメダニ心臓センター病院で、担架で搬送される患者。2023年5月25日。(AFP)
しかし、支援・救済関連委員会やジャジーラ州政府との強固な連携があるにしても、援助機関やハルツームの最高評議会が迅速に対応しない限り、膨大な避難民の人数によりさらに深刻な物資不足となり得るとムハンマド氏は述べた。
特に、ジャジーラ州の食品生産者は、人口増による食品需要増と首都からのサプライチェーンの崩壊への対応のために生産量の増加を迫られている。
この地域の小麦生産者の代表であるムダー・アブドゥル・カリム氏は、ハルツームにおいて戦闘により複数の工場が閉鎖されたため、ジャジーラ州の7つの大規模製粉工場は作業負荷の増加を余儀なくされるだろうとアラブニュースに語った。
カリム氏によると、ジャジーラ州の全製粉工場は最大限の稼働を強いられており、当局は、さらに、需要増への対応のために、紅海沿岸の諸国や近隣諸国の工場から小麦粉の輸入を手配しているという。
ハルツームにおける戦闘が鎮静化する兆しが無く、中小の事業者は数週間続いている収入の低下を埋め合わせる見込みもないまま途方に暮れている。ハルツームの南のジャジーラ地域でタマネギを収穫するスーダン人男性。2023年5月11日。(AFP)
燃料に関しては、ジャジーラ州はアルジェリー製油所に接続された全長217kmに及ぶパイプラインから直接供給を受けられるものの、多数の民間人は自動車に給油したりジェリカンを満たしたりするために2日間以上も行列に並ぶことを余儀なくされている。
スーダンのファタール・ラフマン・タハ社会保障相は、ハルツームから流れ出る人の波を収容するために、ティグレ紛争時にエチオピア人が避難していたガダーレフ州のキャンプ・ファイブが今回の避難民に備えて再開されるとアラブニュースに語った。
「戦争は、現実の、私たちに押し付けられている問題ですが、スーダンは再起します」と、タハ社会保障相は語った。
スーダン中東部ジャジーラ州の州都ワドメダニで、シャッターの閉じたガソリンスタンドの前を歩く男性。2023年5月18日。(AFP)
「武力紛争の位置およびイベントデータプロジェクト(ACLED)」によると、スーダン全域での戦闘で1,800人以上が死亡している、国連の発表では、100万人以上がスーダン国内での退避を余儀なくされ、さらに30万人が近隣諸国へ避難している。
戦闘によりハルツームへの食糧、水、電気の供給は断続的となってしまった。絶望的状況に取り残された市民たちは、戦闘が一時的に休止するのを待って退避するか、支援物資の到着をただ待っている。
紛争地域から脱出する事は容易ではない。欧米の渡航勧告によれば、ハルツーム国際空港は閉鎖されており、ハルツームの北に位置するワディ・サイードナ空軍基地からの避難便は停止となり、ポート・スーダンからの避難方法にも限界がある。
そのため、民営の移動手段を用いてスーダンを離れようとする人々は自らのリスクにおいて実行しなければならない。また国際空域での運航を禁じられている、スーダンの航空会社の多くについては、安全性と信頼性に深刻な懸念がある。
他の方法でスーダンを出国し近隣諸国に行こうとする外国人は、国境検問所がインフラやスタッフの不在により閉鎖されていたり、その通過や処理に長時間を要することがあるため、事前に助言を受けるように指示されている。
月曜日時点では、一連の取り決めの中で最新となる、5月20日発効の新たな停戦協定にも関わらず、主要な戦場では戦闘が継続している。
協定を仲介した米国とサウジアラビアは、金曜日の共同声明で、今回の停戦協定の発効以降に「重大な違反があった」ことを明らかにし、「ハルツームで突発的な銃撃」があったものの、「合意の尊重についての改善」が見られたと述べた。
6週間前に戦闘が開始されて以来苦難の渦中にいるスーダン国民。(アラブニュース写真、ファイズ・アブバクル)
ハルツームからジャジーラ州に退避して来るのはスーダン人ばかりではない。長期にわたって、同州はアフリカ大陸の紛争地域から307,000人もの難民や亡命希望者を受け入れてきた。しかし、現在では、首都とその周辺地域は戦闘状態となっており、そうした外国人たちも再び退避することを余儀なくされている。
「主にエリトリア人やエチオピア人、南スーダン人の難民たちです」と、ジャジーラ州政府の事務局長でハルツームからの避難民への対応のために設立されたボランティア会議所の代表者でもあるムスタファ・モハメッド氏はアラブニュースに語った。
「出身地に戻ることを希望したので移動手段を提供したケースもあります。難民受け入れ先に送ることになったケースもあります」
「スーダン赤新月社の協力で、州内の外国籍家族の数を特定することが出来ました。約500家族、24,700人です。この数は依然増加し続けています」と、モハメッド氏は付け加え、この数には親戚の元に身を寄せているケースは含まれていないことを指摘した。
「ジャジーラ州にやって来る人々の数は多く、予想が出来ません。私たちは、医療行為から住居や食糧の提供まで多様なサービスを提供しています」
長期にわたって、アフリカ大陸の紛争地域から307,000人もの難民や亡命希望者を受け入れてきたジャジーラ州。(アラブニュース写真、ファイズ・アブバクル)
スーダン赤新月社は、最近、各地方の28のキャンプに5,244家族、合計28,217人の避難民がいると発表した。また、272前後の家族はアパート居住で、2,114人はホテル住まいだという。
ジャジーラ州に拠点を置くシャラ・アルワデス青少年ボランティア活動の代表者であるヤッサ・サラハ氏は、キャンプ自体が水不足や数々の問題に悩まされていると述べた。
「ハルツーム州での戦闘の激化以来私たちは非常に大規模な人道的災害に見舞われています。ボランティアはまず小規模なキャンプでの活動を通じて対処して行くことになります。こうした小規模なキャンプは、学校がホストになっている場合もあれば、個人宅がホストになっている場合もあります」と、サラハ氏はジャジーラの州都ワドメダニで避難世帯を受け入れている学生寮のアルシャイマキャンプからアラブニュースに語った。
サラハ氏は、薬局では基本的な医薬品を入手するのに苦労し、血液バンクでは輸血のための備蓄が不足しており、現在ジャジーラ州では看過できない人道的危機が起きていると語った。
ジャジーラ州の承認を受けていない非公認のキャンプも今回の危機を契機として設立されている。
ワドメダニ内の18のキャンプの内、州政府公認のものは2つだけだ。残りの16のキャンプには国の援助は提供されていない事を、現地のボランティアがアラブニュースに告げた。
避難民は、国の援助の代わりに、友人たちや、現地で働いたり国際的な援助機関に勤務する若い人々からの寄付に頼っている。
スーダンの首都ハルツームで戦闘が継続し煙が広がる中歩く人々。2023年5月3日。(AFP)
匿名を希望する現地のあるボランティアは、「私たちに任されているいくつかのキャンプでは、生活用水と飲料水、食糧、医療、医薬品、ベッド、マットレスの不足が深刻な問題です」と語った。
「電力は不足し、患者の数は膨大です。そのため、医師が来場する治療日を設けています」
州政府非公認で地域のコミュニティによる支援で運営されているキャンプに収容された人々は、政府からの援助が無くても、州政府公認のキャンプに収容された人々よりも、往々にして恵まれているのだと、その匿名希望のボランティアは語った。
「政府の管理下にあるキャンプの状態は、私たちが人道主義と貢献の原則に基づいて運営しているキャンプの状態よりも悪いのです」