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中東の避難民キャンプにおいて保健衛生問題の軽視により深刻化するジェンダー不平等

アイン・イッサ村内の仮設難民キャンプ近傍で、砂嵐の中を歩くシリア人女性。(AFP / 資料写真)
アイン・イッサ村内の仮設難民キャンプ近傍で、砂嵐の中を歩くシリア人女性。(AFP / 資料写真)
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07 Jun 2023 10:06:41 GMT9
07 Jun 2023 10:06:41 GMT9
  • 生理用品の入手性の低さが、世界中で紛争や危機的状況で生活する数百万人に影響を与えている
  • 難民キャンプの過密状態は、「尊厳やプライバシーの欠如にもつながり、精神的健康を損ない得る」

ロンドン:難民キャンプで暮らす女性や少女たちは共通の課題に対峙する。それは、自然に発生することではあるが、食事の列に並ぶことから社会生活への参加に至るまで、日常生活の全領域にわたっての妨げとなるのだ。

生理用品の入手性の低さは、長きにわたって看過される事の多かった保健問題の1つだ。生理用品の入手性の低さが世界中の危機的状況で生活する数百万人の生活に悪影響を与え、ジェンダー不平等を深刻化させていると複数の援助機関が指摘している。

「生理用衛生用品や適切な設備が利用できないことは、難民の女性や少女が訓練プログラムやその他の活動に参加するにあたっての重大な障壁になり得ます」と、ヨルダンやシリア、英国で難民や国内避難民を支援する女性主導の慈善団体である「スリヤット(シリア人)・アクロス・ボーダーズ」のCEOで設立者のサマラ・アタッシ氏は述べた。

生理用品の入手性の低さや関連設備の不足により、女性や少女たちは「生理時に不潔な布や葉、果ては砂を用いるといった不衛生な手段」を取らざる得ない場合が多いと、アタッシ氏はアラブニュースに語った。

社会的不名誉や困惑が更なる課題となる場合も多く、「孤立や恥辱感」にもつながり、女性や少女たちの精神的健全性に大打撃を与えるのだとアタッシ氏は述べた。難民キャンプでの過密状態は、特に、「尊厳やプライバシーの欠如にもつながり、精神的健康を損ない得る」という。

この問題をさらに深刻化しているのは、利用可能な清潔な水や衛生設備の不足である。

シリア北部の都市ラッカ郊外の紛争から退避している人々向けのテントの外で座っている女性。(AFP / 資料写真)

こうした状況下では、「生理時の衛生管理が困難となりやすく、感染症や他の健康上の問題のリスクがさらに増加します」と、オックスファムの中東・北アフリカ地域ジェンダー支援運動のアドバイザーを務めるサハール・ヤシン氏はアラブニュースに語った。

「生理の貧困」とは、生理用品の不足、関連教育の不在、廃棄生理用品の管理の不備、またはこれらの組み合わせと定義されている。

2019年、学術機関やNGO、政府機関、国連機関などから専門家が参集し、「グローバル・メンストラル・コレクティブ」を設立して、この問題について研究を行っている。同コレクティブは、「月経の健康」を、「月経に関連して、疾患や不調が不在なだけではなく、身体的、精神的、社会的に良好な完成した状態」と定義している。

同コレクティブは、生理や生活の変化、衛生習慣についての情報、生理中に自らのケアを行う能力、利用可能な水、そして、保健衛生サービスは誰に対しても開放・提供されるべきだと指摘している。

また、月経周期障害の診断を受けた場合に医療さを受けられること、情報に基づいた意思決定が可能な前向きで協力的な環境、仕事や学校に行くといった生活の全場面んへの参加の重要性を、グローバル・メンストラル・コレクティブは強調している。

「生理の貧困」は、全世界で5億人に影響を与えていると推定されている。しかし、それを最も切実に感じているのは、自宅住居からの退避を余儀なくされた人々や、過密で各種設備の不十分な難民キャンプで生活しながら思春期を迎えた人々だろう。

国連の難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、難民や無国籍者の約50%は女性や少女だと推定している。

UNHCRが発表したデータによると、中東・北アフリカ地域には1,600万人の難民や無国籍者がおり、シリアとイエメンの紛争から逃れる人々が最多であるという。

しかし、難民や国内退避中でキャンプ生活をしている女性や少女たちのリプロダクティブ・ヘルスの重要性は、支援を提供する政府や機関によって看過され続けている。UNHCRが2019年に実施した調査では、生理用品については女性たちのニーズの55%しか満たされていなかったことが明らかとなった。

拠点を英国に置く慈善団体「アクション・フォー・ヒューマニティ」の支援運動部門マネージャーのニコラ・バンクス氏は、英国政府が最近アジアとアフリカの社会から疎外された人々を支援するための「女性の統合的性保健、性と生殖に関する主要プログラムへの資金」を削減したとアラブニュースに述べた。

「SRHR(性と生殖に関する健康と権利)プログラムの資金の削減は…生理用品の入手やリプロダクティブ・ヘルスの教育やサービスの利用を困難とし、生理の貧困を一層深刻化させることにつながるかもしれません」と、バンクス氏は語った。

モスルから避難しシリアへの入国を子供と一緒に座って待つイラク人女性。(AFP / 資料写真)

国連人口基金(UNFPA)が2022年9月に発表した報告書によると、人道危機の最中には救援・援助活動は主に食糧や避難所、医薬品といった緊急性の最も高い必要物資に集中し、生理用品は多くの場合看過されてしまうという。

月経衛生管理に関連したもう1つ重要な課題は教育の欠如であり、これが生理に関する誤解を招き、偏見と恥辱感を増幅するとのだと、「スリヤット・アクロス・ボーダーズ」のアタッシ氏は語った。

こうした社会的な烙印と恥辱感の蔓延により、トルコの難民キャンプの10歳から18歳の少女の多くは生理についての正しい情報を得られる機会が限られており、最初の月経周期である初潮以前に十全な情報を得られることはほとんど無いとUNFPAの報告書は述べている。

「トルコに滞在する難民女性・少女における月経衛生管理」という研究では、この重要でありながら脆弱な集団は生理についての包括的で正しい理解を欠いており、主な情報源は母親や家族の他の女性であることが浮彫りになった。

この教育の欠如は、生理の貧困と組み合わさって、「生理を取り巻く文化的タブーにより女性や少女が生理について率直に語り合うことを不可能とし、その結果として生理についての誤情報や情報不足が蔓延るMENA地域において、ジェンダーに基づく暴力の原因となるに至っている」 とオックスファムのヤシン氏は述べている。

生理に関連のあるジェンダーに基づく暴力(GBV)には、「早婚、プライバシーや安全の欠如、セクシャルハラスメント」が含まれるとヤシン氏は語った。

難民キャンプや避難所では、女性は生理の痕跡を隠すために、人気の少ない場所に行かざるを得ないことが多く、性的暴力のリスクにさらされてしまうことになる。しかし、こうした危険はキャンプ内のトイレ設備にも存在している。

UNHCRのフィリッポ・グランディ高等弁務官の2021年の声明では、「難民または国内退避している女性の5人に1人が性暴力に直面している」ことが明らかにされ、新型コロナ禍がこの問題をさらに深刻化した事が付け加えられた。

クシュタパ難民キャンプの金網フェンスの向こうに立つ、住居からの退避を余儀なくされたクルド系シリア人の女性たち。(AFP / 資料写真)

「多くの場合、女性器切除・切断や児童婚、親密なパートナーの暴力、パートナー以外の性的暴力などのGBVは、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)の侵害の結果です」と、「アクション・フォー・ヒューマニティ」のバンクス氏は語った。

「教育、エンパワーメント、暴力の終結はジェンダー平等の最重要要素ですが、SRHRと切り離してそれらに取り組むことは不可能です」

オックスファムのヤシン氏は、「生理の貧困に対処し、より良い月経衛生管理のためのインフラを提供することによって、ジェンダー平等を推進しGBVを阻止するだけでなく、女性と少女たちの健康や経済力、福利を支援することが可能なのです」と述べている。

生理に伴う恥辱感や生理の貧困による負担の軽減のために、いくつものNGOや国連機関が尽力しているものの、月経衛生管理は、難民や国内避難民のキャンプではあまり対処されていない問題である。

「スリヤット・アクロス・ボーダーズ」のアタッシ氏は、「女性のエンパワーメントに全力を上げている団体として、包括的な性教育を提供することの重要性を私たちは認識しています」と述べている。「残念なことに、私たちが国内避難民キャンプ内で行っている教育プロジェクトは現在はありません」

「しかし、私たちは、あらゆる救援活動を通じて、女性の健康や衛生のニーズを支援しようと苦闘しています」

「先日の地震(2月6日のトルコ・シリア地震)のような緊急対応を要する事態においても…女性用の生理用品パッケージを私たちの支援活動に優先的に含めるようにしました」

「私たちは女性たちの基本的なニーズに応えることで、女性たちが、支援され、安全で、社会的な力を得ているのだと実感できると確信しています」

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