



カイロ:スーダンでは2ヶ月以上前に国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の間で戦闘が勃発して以来、各地の病院が両陣営によって爆撃され、略奪され、占拠されている。その結果、数百万人の市民が不可欠な医療を受けられなくなっている。
4月15日に紛争が始まった後、輸送中の医薬品やその他の医療用品が盗まれたり届かなかったりしたことで、医療用品が急速に不足した。一方、多数の医療従事者が死亡したり、負傷したり、国外への避難を余儀なくされたりしている。
アデル・モフセン・バダウィ・アブデルカディル・ハリル医師(65)は、家族と共に避難することを選択した多くの医療従事者の一人だ。同医師は、首都ハルツームで15年以上前から経営している個人診療所を放棄してきた。
RSFから負傷兵の治療のために徴用されることを恐れた同医師は4月21日、苦渋の決断をし、エジプトとの国境に向かって北上する危険な旅を行う難民の大群に加わった。
同医師は、他のスーダン難民家族と共有するカイロのアパートの一室から、アラブニュースに対し次のように語る。「自分の診療所でカイロ行きのチケットを準備していた時、外の攻撃を見ました。人々が叫んだり泣いたりしていました」
「私はすぐに全てのドアに鍵をかけ、照明を消し、身を隠しました。私が医師だとRSFに知られれば、兵士の治療のために連れて行かれるからです」
家族と共にエジプト行きのバスに乗った時、職員や同乗者に自分が医師だと言わないよう気をつけていたという。身の安全のために30年の医療経験を隠したのだ。
人口の65%が貧困下で暮らしているスーダンでは長年、公衆衛生部門が脆弱な状態にある。多数の医療従事者が避難したため、同国は大規模な医療緊急事態に直面していると援助機関は警告している。赤十字国際委員会(ICRC)によると、ハルツームの医療施設のうち今も稼働しているのはわずか20%だ。
ICRCのアフリカ地域担当報道官のアリョーナ・シネンコ氏はアラブニュースに対し、「我々はスーダンの医療制度がほぼ崩壊しているのを目の当たりにしている」と言う。
ハルツームから避難することができない、あるいはそうしようとしない人々は、清潔な水や電気をほとんど、あるいは全く利用できないまま、自宅で身を潜めることを余儀なくされている。アラブニュースがカイロで取材した数人のスーダン難民の話では、残っている人々の多くは脱水症や飢餓の脅威に直面しており、ハルツームや近隣都市において援助が必要なレベルになっているという。
電気・ガス・水道やその他の公共インフラの崩壊は、特に病院に深刻な影響を及ぼしている。衛生プロトコルが損なわれたり、不可欠な医療機器が作動しなくなったり、慢性病患者の生命維持に不可欠と思われる治療を行えなくなったりしているのだ。
シネンコ氏は語る。「医療従事者の一部が避難したことや医療用品が不足していることに加え、病院は食料、清潔な水、電気の不足に苦しんでいる」
例えば、スーダン医師労働組合によると、戦闘の影響で必要な医薬品や発電機の燃料が病院からなくなったことにより、透析患者1万2000人が死の危険に晒されている。また、現在2500万人(人口の半分以上)が切実に必要としている人道援助を届ける活動も妨げられている。
それに加え、夏が来て雨季になればスーダンで毎年猛威を振るうマラリアなどの季節性感染症が流行するのではないかという懸念がある。飲料水の不足によりコレラ感染が拡大する可能性もある。
シネンコ氏は語る。「スーダンの医療従事者やスーダン赤新月社のボランティアは、非常に過酷な環境で働きながら不可能なことを成し遂げている」
「我々は保健省と協力して、緊急手術用品を病院に届けている。また、全ての当事者に対し、医療施設や医療従事者を尊重し保護するよう呼びかけている。これは国際人道法のもとでの義務であるだけでなく道徳的な義務でもある。彼らの働きに多くの人命がかかっているからだ」
スーダン医師労働組合の事務局長であるアティア・アブダラ・アティア医師はアラブニュースに対し、同組合は戦闘開始以来少なくとも14人の医療従事者の死亡を記録していると語る。また、21ヶ所の病院の職員が退避し、18ヶ所の病院が爆撃され、1人の医師が行方不明になっているという。
同組合は1日、戦闘が続く国内で現在も稼働している数少ない病院の一つであるシュハダ病院を襲撃して職員1人を殺害したとしてRSFを非難した。RSFは関与を否定した。
紛争中に医療施設や医療従事者を攻撃することは、国際人道法のもとでは戦争犯罪と見なされる。RSFはいくつかの病院を占拠して活動拠点として使用していると伝えられている。
国連のスーダン担当特別代表であるフォルカー・ペルテス氏は5月22日、国連安全保障理事会の会合において、そのような活動についての報告を取り上げ、「医療施設を軍事拠点として使用することは容認できない」と述べた。
援助団体「国境なき医師団」は、医学誌『ランセット』に掲載された報告の中で、スーダン各地の医療施設にいる医療従事者は戦闘員による医薬品、医療用品、車両などの盗難に繰り返し直面していると指摘した。
ポートスーダンで同団体の緊急時即応準備コーディネーターを務めるジャン=ニコラ・アームストロング・ダンゲルザー氏は同誌において、略奪の事例の中には金銭的な動機によるものもあるが、意図的に患者が治療を受けられなくするという無情な計算に基づいたものもあるようだと述べている。
例えば、ハルツームでは数日連続で医療施設の倉庫が襲撃されたが、職員が戻ることができた時には、冷蔵庫のコンセントが抜かれ、医薬品が床にこぼれていた。
アームストロング・ダンゲルザー氏は語る。「冷蔵冷凍系統全体が破壊されたので、医薬品は駄目になり治療に使えなくなった。我々はこのような悲しむべき攻撃に動揺し愕然としている」
「我々が経験しているのは人道的原則の侵害だ。人道支援活動従事者が活動するための空間が過去稀に見る規模で縮小している(…)人々は絶望的な状況にあり、医療が切実に必要とされているが、こういった攻撃のせいで医療従事者による支援活動がより一層難しくなっている」
ロイター通信の報道によると、ハルツームおよび西部地方における戦闘が12週目に入った2日、国軍とRSFの間の衝突が激化した。
特にオムドゥルマンやハルツームで空爆、砲撃、小火器による銃撃の音が聞こえたという。
世界中で紛争やその他の暴力に関するデータを収集している「武力紛争発生地・事件データプロジェクト」によると、4月15日の戦闘勃発以降2000人以上が死亡している。
国連の推計によると、120万人以上が避難しており、そのうち少なくとも42万5000人が国外に逃れている。
国軍トップのアブドゥルファッターフ・アル・ブルハン将軍は先週、RSFとの戦いに参加するよう若者に呼びかけた。国軍は2日、新兵らを撮影したとされる写真を公開した。
サウジアラビアは、紛争初期に数千人の外国人をスーダンから退避させる取り組みを主導した。また、サウジの外交官は米国の外交官と協力して、スーダンの持続的な停戦を仲介している。
直近の停戦の5日間の延長は、戦闘がやむ兆しがほとんどないまま先月に期限切れを迎えた。しかし、この停戦によって、ICRCから寄付された麻酔薬、抗生物質、包帯、縫合糸、輸液などの手術用品を保健省がハルツームの7ヶ所の病院に配布することが可能になった。
しかし、アティア医師によると、スーダンに残ることを選んだ医師らはほとんどの場合、必要最低限の医療設備や医療用品だけを使って仕事をしているため、患者がリスクに晒されている。また、残っている医療スタッフの多くが逃げたがっているという。
「この状況から逃れるにはどこに行けばいいのかと皆が尋ねている」
多くの地域で、ボランティアがスタッフを務める野戦病院が学校などの公共の建物に設置されている。稼働している国家機関の不足を補い、慢性病患者やますます増える脱水症や栄養失調で体調を崩した人々を治療するためだ。
アティア医師は語る。「全ては市民の手に、そしてまだ残っている数少ない医師や病院の手に託されている」
「我々は慢性病の治療、(そして)在宅医療に力を入れようと努めている。水、食料、医薬品がないせいで多くの人が自宅で亡くなっているからだ」